110話 指輪を外せ。
110話 指輪を外せ。
常識人ポニーテール担当の『リノ』が、空間魔法という、かなりハイランクの魔法を使って、クロッカを、亜空間へと閉じ込めた。
彼女は、体力的にも魔力的にも、特に際立って優れた部分はないが、
唯一、生まれつき、この高度な魔法に適正があるという強みがあった。
ケイルスが『生まれつき武装闘気に適正がある』のと同じ。
クロッカを閉じ込めたリノに、
遊び人担当の『マト』が、
「よっしゃぁ! 閉じ込めたぁ! すげぇぜ、リノ! さすがのクロッカ様も、空間魔法に閉じ込められたら、そう簡単に出られないだろ!」
と、軽快にフラグをたてていく。
……まあ、確かに、『数秒』は足止めすることに成功した。
流石のクロッカも、空間魔法に慣れているわけではないから。
とはいえ、やはり、数秒が限界。
たかがランク1の魔法で彼女が止まることはない。
ビキビキっと、世界に音が響き渡る。
そして、瞬く間に、ビシっと空間に亀裂が入って、
「……思ったより硬いわね……もっと簡単に壊せると思ったのだけれど……」
と、そこで、クロッカは、自分が身に着けている指輪をチラ見して、
「……って、ああ、そういえば、今の私は、存在値を大幅に下げた状態だったわね……となると、まあ、だいたい、推測通りの硬さと言ったところかしら」
などと言いつつ、
クロッカは、リノの背後に回って、彼女の首に、綺麗なトーンを決めていく。
後遺症を残さないのはもちろんのこと、手刀の跡すら残さないという、芸術的な首トーン。
バタリと倒れるリノを足で雑に支えつつ、
クロッカは眼球だけ、右、左と動かして、
「……ハロとラスぐらいは……流石に、一応、試すか」
小さな声でボソっとそう言ってから、
流れのままに、遊び人担当のマトとの距離を詰めて、彼の腹部に裏拳を入れて気絶させる。
これで、残った3組のメンツは、ラス&ハロと、ジバ&ビシャの四名。
3組の主力を睥睨しながら、
「そっちの魔人兄妹……あなた達も、なぜかは分からないけれど、私と同じように、指輪で存在値を制限しているようね。だけれど……この私の前で、能力を制限するなんて、そんな無礼なマネ許さないわ。さっさと外しなさい」
その命令に対し、ビシャが、目に力を込めて、慇懃に、頭を下げながら、
「申し訳ありません、クロッカ様……セン様から、『今回のクラス対抗戦では、この指輪を外すな』と命令を受けております。ゆえに、外せません」
「私の命令は、センの命令と同じよ。外しなさい」
「いいえ、外しません。クロッカ様」
ビシャの、ありえない態度に、周囲の全員が凍り付く。
全員、『嘘……だろ?』の顔になっている。
センに心酔しているハロですら、ビシャの態度には、流石に目を丸くしている。
ハロには、彼女の気持ちがよくわかった。
センは、確かに、遥かなる高みにいる。
王の器。
……とはいえ、実際のところ、現状、センは、クロッカの配下。
クロッカは何も間違ったことを言っていない。
クロッカの命令はセンの命令である。
……仮にそうでなくとも、『クロッカの命令』なのだから、他の何よりも優先すべき。
全ての前提を汲んだ上で、ハロは、ビシャに、
「指輪を外せ……お前の気持ちは分からないでもないが、その態度を貫くことは、王に……セン先生にとってマイナスになる」
「私の態度ごときで、セン先生に不利益が生じることなんかない。私の主は、そんな低い場所にいない」
そんな二人の対話を、離れた場所から見ているケイルスが、
ボソっと、
「……あのクラス……ほんとうに、頭おかしいのしかいないな……もう、いっそ、全員まとめて、首をはねられたらいいのに……」
その感想は、彼女だけの特別な思想ではない。
ここにいる、ほとんど全員……誰もが思っていること。