109話 クロッカ強すぎ問題。
109話 クロッカ強すぎ問題。
「この追加ルールに、何か文句のある人はいる? もし、一人でも不満のある者がいるのであれば、撤回するけれど?」
そんなことを言われて『不満があります』などと手を上げられる者はいない。
1組のメンツは、全員、ケイルスと同じかそれに近いくらいプライドの高いメンツばかりだが、しかし、流石に、誰もクロッカには何も言えない。
「誰も文句はないようなので……それでは始めましょうか。精々がんばって、私や観客を、少しでも楽しませてちょうだい」
そう言い捨ててから、
クロッカは、軽やかなステップで3組の面々に迫ってきた。
クロッカが最初に狙ったのは、ムードメーカー担当の男子『ヤン』。
理由は……特にない。
ただ、目についただけ。
掃除をするとき、『最初に目についたゴミをサっと拾う』のと同じ。
クロッカからすれば、ヤンもハロも大差ない。
クロッカに詰め寄られたヤンは、反射的に、
「え、炎珠ランク1!!」
後退りしつつ、魔法で迎撃したが、
もちろん、何の意味もなかった。
クロッカは、自分に迫ってくる炎球に、何か対処をすることはなかった。
なんせ、クロッカの突進により、ヤンの炎球は、強風に吹かれたライターの火みたいに、サっと消えてしまったから。
「ひっ!」
普段は、割と、ひょうひょうとしていて、物事にあまり動じないタイプの彼だが、
流石に、クロッカの前だと、そんなキャラクターは通せない。
最後の抵抗とばかりに、ヤンは、反撃の右ストレートを放ったが、
クロッカにあたるわけがなく、ヒョイと交わされて、
「まず一人」
そう言いながら、ヤンの額を、左手の人差し指でピンッっと弾く。
クロッカからすれば、ほとんど力を入れていないデコピン。
だが、ヤンは、糸の切れた人形みたいに、がくりと、膝から崩れ落ちた。
センとの鍛錬を経て、ヤンは、かなり強くなった。
もともと、オールラウンダータイプで、何でも器用にこなしていた彼は、
センによって、その器用性をより強化されたことで、グンっと全能力が底上げされ、いまでは、クラスのナンバースリーとなった。
正直、ラスとトントンぐらいの実力者であり、
2組の『中堅どころ』と比べても、まったく遜色ない。
そんな素晴らしい実力者であるヤンがデコピン一発で潰された。
……という現状に対し、驚愕の意を示す者は……一人もいない。
当たり前の話だから。
クロッカがその気になれば、ヤンごときは、どんだけハンデがあったとしても余裕で瞬殺。
みんな、そんなことは百も承知。
だから、
「一人でも生きのこれば僕たちの勝ちです! とにかく、バラバラに逃げ回って時間を稼ぎましょう! 絶対にまともにやりあってはいけません! 闘っても無駄です!」
ラスが、そう叫びながら、クロッカを睨んだまま、
後ろ走りで距離を取る。
決して、クロッカに背を向けたりしない。
そんな恐ろしいことは出来ない。
ラスの号令に従って、
全員、なるべくバラバラに散り散りになる。
誰も、立ち向かおうとは思っていない。
とにかく、全員、血相を変えて逃げ回る。
もはや、戦闘ではなく、ただの鬼ごっこ。
そんな3組のムーブを冷ややかな目で見つめながら、
クロッカは、
「……あの魔人兄妹以外は、正直、どうでもいい……」
誰にも聞こえないぐらいの声で、ボソっとそう言いながら、
豪速で、
ギャル担当の『レク』の背後に回ると、
彼女の首にめがけて、人差し指を軽くピンとはじいた。
当然のようにバタリと倒れるレクに視線を送ることなく、
そのまま、クロッカは、レクの近くにいた『内気担当のハプ』もサクっと処理していく。
『相手する必要なし』と判断された3組メンバーが次々と処理されていく……
そんな中、
「限定空間ランク1!!」
常識人ポニーテール担当の『リノ』が、
空間魔法という、かなりハイランクの魔法を使って、
クロッカを、亜空間へと閉じ込めた。