108話 追加ルール。
108話 追加ルール。
彼女の強さに、つい、敬意を表してしまうラスとハロ。
(ケイルス……素晴らしい強さ……まさか、王に鍛えられた私とラスが二人がかりで挑んでも、倒しきれないとは……)
(本当に強いよ、あなたは……ケイルス……あなたの強さだけは、心底から尊敬する……)
そんな二人とは対照的に、
ケイルスは、ただただ焦り、イラだっていた。
「くっそぉ! この私が! 貴様らごときを! 削り切れないなんて!!」
ケイルスは、この戦いに、
『クロッカが動き出す前に勝敗を決めないと、負けに等しい』と、
勝手に自分を追い込んだ上で挑んでいた。
こういった自分に厳しいところがあるのも、彼女が強い理由の一つ。
彼女は、決して、自分を甘やかさない。
自分に対してとことん厳しいからこそ、
『努力の足りていない他者』に強くイラだってしまう。
「倒れろ! 十分なダメージは与えた! 倒れろよぉおお! なんで、まだ立ち向かってくる!」
全力でハロをボコボコにしていく。
この九分間、ハロは、タンクとして、ケイルスの暴力をとことん受け続けた。
とんでもない質量の拳を叩き込まれ、蹴り飛ばされ、魔法の連打も何度もぶち込まれた。
それでも、ハロは、決してひるむことなく、タンクとしての役目をはたしきった。
ボロボロのズタボロの血みどろになっていながら、
それでも、まったく折れていない目で、ケイルスを睨みながら、
ハロは、
「ケイルス。お前の武は素晴らしい。王の教導を受ける前の私であれば、最初の一撃で沈められていただろう」
「……王?」
「センエース先生のことだ。王は、今、戯れで、教職についているが、実際のところは、そんなポジションにおさまる御方ではない。全ての頂点に立つべき王だ」
(……こ、こんな、気色の悪い戯言をほざくバカを削ることも出来ないのか、私は……アホの教師に、アホの学生……こんなカスどもは、キッチリと、叩きのめさないといけないのに……くそぉ……私の実力が足りないばかりに……)
ギリギリと歯噛みする。
彼女の『中』だと、彼女は既に、ハロとラスに敗北している。
なぜなら、10分が経過してしまったから。
クラス対抗戦という枠組みにおいては、これで、もちろん、『1組の勝ち』……なわけだが、しかし、ケイルスが勝手にやっていた『プライドをかけた戦い』は、『10分以内に3組を殲滅できなかった』ため、『敗北』ということになってしまった。
「くそ、くそ、くそ……っ」
歯噛みしているケイルスの背後から、
小柄な美少女がソっと近づいてくる。
彼女――クロッカは、
ケイルスの肩にポンと手を置いて、
「ケイルス、素晴らしい戦いぶりだったわ。あなた、また一つ強くなったわね。研鑽を怠っていないのが見てとれた。あなたは素晴らしい」
「……光栄の至り……感謝します、クロッカ様」
口ではそう言いながらも、しかし、歯噛みは止まらない。
そんなケイルスの前に出て、
クロッカは、にっこりと微笑みながら、
「1組の面々は全員、後ろに下がりなさい。ここからは、『私』対『3組』の闘いといきましょう」
そう言いつつ、バキバキと指の関節を鳴らす。
「勝敗が確定している闘いなんて、やっている側も、見ている側も、何一つ面白くない。……というわけで、追加のハンデをあげるわ。そうね……五分にしましょうか。今から、5分以内に、私があなたたちを殲滅できるかどうか……これは、そういう勝負。……5分後……あなた達の中の誰か一人でも立っていたら……私の……1組の負け。あなた達3組の勝ちでいいわ」
そこで、クロッカは、後ろに下がった1組のメンツを見渡しながら、
「この追加ルールに、何か文句のある人はいる? もし、一人でも不満のある者がいるのであれば、撤回するけれど?」