106話 ランク4の魔法は、一つの高み。
106話 ランク4の魔法は、一つの高み。
コータスは、拳の手ごたえから、
(これで、ラスは処理できた。あとは、ケイルスのサポートをして、ハロを潰せば……3組は終わり)
と、ラスのリタイアを確信していたが、
しかし、
「流石に、この程度で……落ちはしませんよ」
センエースの地獄鍛錬を受けた者の実力をナメてはいけない。
あの地獄の修行中、ラスは、何度も、センエースの重たすぎる拳を、その身に浴び続けた。
尋常ではなく重たい拳。
『人類の到達点』と言っても過言ではない、異次元の領域に至った拳。
もちろん、センは手加減していたが……どれだけ手抜かりなく手加減されていても分かる、センエースの拳の芯にある重さ。
あれを浴び続けたラスを、拳で黙らせるのは、極めて困難である……なんて、そんなことを、今のコータスが理解できるはずがない。
ゆえに、ラスの反撃は奇襲・不意打ちとして成功した。
コータスは、完全に、ラスから意識を外してしまっていた。
どうやってケイルスを支援し、確実にハロを潰すか……そんなことに意識の百パーセントをもっていかれていた。
センエースの教えを受けたものを侮った……
コータスは、その報いを受ける。
「――豪氷矢ランク4」
ゼロ距離から、ランク4魔法を叩き込まれたコータスは、
「どぶぅうおっ!!」
激痛のあまり、一瞬、失神しかけた。
歯を食いしばって、どうにか、自分の意識を制御しつつ、
蛇を見る目で、ラスを睨み、
「……ランク4……そんな……3組の人間が……まさか……」
1組の人間でも、ランク4の魔法を使える者はいない。
ランク4の魔法は、一つの高み。
十七眷属クラスの大魔法。
ラスは、胸を張り、
「先生の教導は……『頭おかしいのかって思うほど厳しかった』けれど……でも、すべてが、本物だった……だから、僕はここまでくることができました……」
そう言ってから、コータスの全身に、
「連続・豪氷矢ランク3」
トドメとして、ドドドドドっと、高位の連続魔法を叩き込む。
「がっ……はっ……っ!」
ランク4の魔法をぶちこまれて動揺しているコータスは、ラスの連続魔法に対処できず、そのまま失神してしまった。
と、そこで、
違う場所で、ほかの1組を抑え込んでいる、ムードメーカー担当のヤンが、
「ラス! 1組の他メンバーは、俺たちで、どうにか足止めできる! ハロと一緒に、急いで、ケイルスを倒してくれ!」
ヤンたちだけでは、流石に、1組の学生を抑えるのは厳しかったと思うが、
3組は、ジバとビシャの二人も在籍しているので、足止めぐらいは難しくなかった。
二人とも、指輪を装着した状態だから、『存在値30程度』と、数値的には微妙だが、ジバは、これまでの経験値を土台とした戦闘力をいかんなく発揮し、
ビシャは、天性の資質を存分に生かして、1組の秀才たちを翻弄していく。
ビシャ&ジバという強力な盾をフル活用して、
1組を抑え込んでいく3組の面々。
「頼むぞ、ラス! ここまできたら、いっそ優勝したい! 1組に勝つんだ!」
ラスは、『言われるまでもない』という顔で、
ヤンたちの方に視線を向けることもなく、
そのまま、ダッシュで、ケイルスの方に突進。
適切な距離を取ったところで、
「――豪氷矢ランク4!!」
かなりの魔力を注いだランク4魔法を、ケイルスの背中に叩き込もうとした。
……が、ケイルスは、寸でのところで、
「っ!」
ラスの魔法をスウェーで回避した。
楽勝ではなく、かなりぎりぎりの回避。
だから、ケイルスは、心の中で、歯ぎしりしながら、
(……ラス程度の存在値で……ランク4の魔法……普通ならありえない……魔法の超天才だったら、ありえなくもないけれど……ラスは、天才じゃなくて、普通の落ちこぼれ……それとも……遅咲きの天才だったとでも?)