102話 カッコよかったぜ。
102話 カッコよかったぜ。
「散弾・豪氷矢……ランク4!!」
己の壁を破壊する。
まだまだ遠いと思っていた世界に足を踏み入れる。
ランク3からランク4への進化。
『神域』の視点では、『小さな小さな一歩』だけれど、
『人』の視点では、とてつもなく大きな革命の軌跡。
本来、ランク4でランク5の魔法を打ち消すことは不可能だが、
しかし、『命がけの魔力』が込められたラスの魔法は、
どうにか、センの魔法の大半を打ち消すことに成功した。
打ち消しきれなかった氷矢が、
「ぶああああ!」
ラスの全身を襲う。
なかなかのダメージを受けて、ピクピクと痙攣する。
かなりやばそうな状態ではあるものの、
しかし、死には至っていない。
センの散弾を前にして生きのこったラス。
その功績に対し、センは、
「まだまだ、ちぃと不器用ではあるが……」
と、小粋な前を置いてから、
「カッコよかったぜ……少しだけな」
と、軽いお褒めの言葉を授ける。
この限定空間に閉じ込められてから、ずっと、散々、地獄の罵詈雑言ばかりだったので、小さな飴でも、脳がとけるほど甘く感じた。
涙があふれて、嗚咽が止まらない。
そんな……『非常に深い満足感』に浸っているラス。
……しかし、
「さあ、ラス。それじゃあ、ランク4の魔法を、血肉化させていこうか。覚えたての魔法なんか、実践じゃ使いもんにならん。ここから、あらゆるシチュエーションをプレゼントしてやるから、脳が焼き切れるほど使い倒して、お前の肉に、血に、骨に、細胞に、ランク4の魔法をしみこませろ」
「……」
ラスの地獄は終わらない。
むしろ、ここから始まるのだ。
『地道反復練習厨』のセンエースが師匠になると、
マジで、いかつい地獄を見る羽目になる。
センエースにロックオンされてしまったせいで、
ここから、ラスは、ずっと、えぐい地獄を見続ける。
しかし、将来のどこかで、ラスは、こんなことを想う。
『この上なく尊い教えを賜ったことで、ボクは、ボクだけでは永遠を賭しても辿りつけなかったであろう高みに到ることができた。……至高の恩師から授かった、数多の教えは、その全て、一つ一つが、他の何物にも代えがたい至宝』
★
そんなこんなで、一週間が経過した。
本日は、クラス対抗イベントの当日。
ちなみに、こんな晴れの舞台の日だが、センは、
エトマスから雑用を命じられているので、この場にはいない。
数日前に、近くの川が、大雨で氾濫したのだが、その水害を被った、近隣の町の廃棄処理作業のボランティアを命じられてしまったのだ。
センがその気になれば、もちろん、秒で対処できる仕事だが、力を隠している現状だと、速く処理しすぎた場合に、色々と問題が生じてしまうため、偽装工作のため、ある程度、ボランティアに時間を割く必要性がある。
3組のメンバーにとって、センの存在は、すでに、精神的支柱になってきていたので、センの不在は、メンバーに動揺を与えたものの、
「実際に闘うのは僕たちです。先生がいるかいないかは関係ありません。というよりも、先生がいなくとも実力を発揮できる者こそ、先生が求める強固な人材でしょう」
という、ラスの言葉に奮起し、全員、むしろ、気合が入った模様。
★
――今回のクラス対抗イベント、ルールは極めてシンプル。
1組、2組、3組が、総当たりで、集団戦を行い、一番多く勝ったチームの優勝。
最初は、2組VS1組の闘いが行われ、
普通に、2組が、ボッコボコにされた。
2組のみ『学院から強力な装備品が支給される』という、
結構なハンデをもらっていたのだが、
しかし、1組次席のケイルスが強すぎて、
ハンデなんかあっても無くても同じだった。
続いて、
2組VS3組の闘いが行われる。
ちなみに、2組が課せられたハンデは、1組との闘いでの負傷。
結構、ボロボロの状態だったが、
2組のトップである『ツツカ』は、
対戦前、
「もっとハンデをあげようか? ちょっとでもマシな試合にしたいからねぇ」
などと、かなりイキっていたが、
闘いが始まると、
目を白黒させて、
「ど、どういうこと?! な、なんで、こんな強――ぶへっ!」
3組の『しっかりとした強さ』に瞠目することしか出来なかった。