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ヤムラーイ冒険譚

 むかしむかしの あるところに、とてつもなくわるい おうさまがいました。

 おうさまは じゃあくなまほうを あやつり、ひとびとを くるしめていたため、たくさんの ひとびとから きらわれていました。

 しかし、おうさまの まほうは きょうりょくで、かれをたおせる ものは だれも いませんでした。


「だれか、あくの けしんである おうさまを たおしてくれ」

「だれでも いい。おねがいだ」

「かみさま かみさま」


 しだいに ひとびとは かみさまに いのりはじめました。

 あくの おうの とうばつを。

 ひとびとが かみさまに いのりはじめて しばらくたったころ、かれらの まえに、とある せいねんが やってきました。


「ここが しごのせかいに ござるか」


 せいねんの かっこうを みて、 ひとびとは たいそう おどろきました。

 かれは、キモノと よばれる いふくを みにまとい、ゾーリという くつを はいていたのです。

 そして、なによりも かわっていたのは その あたま。

 せいねんの あたまには、にわとりの とさかのような ものが のっていました。


「その あたまは?」


 だれもが せいねんと であったときには そのことばを なげかけました。

 その しつもんをされる たびに、きまって せいねんは こう こたえました。


「……ちょんまげで ござる」


 ちょんまげとは なんなのか。

 せいねんは あまり かたりませんでした。


 そして、せいねんと かいわした ひとびとは、もうひとつ おなじ しつもんを しました。


「ござる って?」

「…………………」


 せいねんは そのしつもんには なにも こたえませんでした。

 なんども きかれる らしく、ひどく ふきげんな ぶっちょうづら で。




 ※※※




 せいねんは カタナとよばれる ぶきを、こしに ぶらさげていました。

 カタナとは、かたがわにだけ やいばの ついた はもの です。

 うすいかたち なのに よく きれて、とても かるい。

 その カタナのことを、せいねんは じまんげに こう いいました。


 ──カタナは サムライの たましい なんだ。


 サムライが なんなのか──かれいがいの だれも しりませんでしたが、そのくちぶりから とても たいせつに しているのは、だれにでも わかりました。

 しだいに、ひとびとは かれのことを サムライと よぶように なりました。

 


 

 サムライは そのカタナで、わるい おうさまの ぶかを ひとりずつ たおしていきました。

 ひとり、ふたり、さんにん、よにん……。

 しかし、たおせど たおせど、おうさまの ぶかは まったく へりません。

 たおした かずが りょうのてで かぞえきれなくなったころ、サムライが いらだたしげに いいました。


「ええい、ちまちまと……しゃらくさい!」

 

 あるひ、サムライが しろに のりこみました。

 そして、そのばに いた やつらを かたっぱしから たたきのめしたのです。

 カタナを ふるい、サムライは いいました。


「おうを だせ」

 

 サムライの のぞみは すぐに はたされました。

 おうさまの ぶかを ばったばったと なぎはらい、ながく つづいた たたかいは おうさまが あらわれたことで、あっというまに けっちゃくしました。


 サムライが おうさまの くびを はねたのです。

 だれもが おどろきました。

 おうさまが やぶれるところなんて、そうぞうも つかなかったからです。


 サムライは おうさまに しょうりしました。

 

 しかし、その だいしょうは あまりに おおきく。

 サムライは おうさまと さしちがえました。

 

 サムライの カタナが おうさまの くびを はねるのと どうじに、おうさまの まほうによって、かれの からだが やかれてしまったのです。

 しろには、かれの さけびごえが ひびきわたりました。

 

 そのしゅんかん、ながい たたかいは おわりました。

 わるい おうさまは しんだのです。

 もうひとつの いのちと ひきかえに。




 ※※※



 追記

 

 これは、のちに わかった ことですが……。

 サムライが うまれそだったのは、この くにでは ありませんでした。

 

 かれは とても おさけが すきで、いきつけの さかばが ありました。

 そのさかばの てんしゅが しっていました。

 

 サムライが おさけをのんだ あと、いつも ふるさとを おもい、ないていたことを。

 たべものは おいしく、おもむきが あると、なつかしみながら。

 こきょうの モチが くいたいと、いつも なげいて。

 よいつぶれる ちょくぜん、かれは いつも こういいました。


「にほ──ジャパンに かえりたい……」


 ひとびとは あくの おうさまをたおしてくれた サムライに ふかく かんしゃして、かれのいぎょうを こうせいに かたりつぐことに きめました。

 いま、あなたがよんでいるような ほんだけではありません。

 うたや えんげきにも なりました。


 かたりつぐに あたって、とうぜん あだなが ひつようでした。

 さいしょのころは、せいねんや サムライなどと よんでいましたが、ときをへるにつれて、もうひとつの あだなが ふきゅうしていきました。

 

 ──ジャパンから やってきた サムライ。

 ──ちぢめて ジャムライ。

 

 しかし、ジャムライだと はつげんしにくいからなのか、じょじょに ことばがなまってゆき……。

 げんざいでは ほとんどのひとが なれしたしんだであろう このなまえで よばれています。

 あくの おうさま──まおうを うちやぶった ゆうしゃの なまえ。


 ──ヤムラーイ、と。

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