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3 人物関係

「そうと決まれば、早速事件の検証にいたしましょう! 

 実はわたくしの母が()(もの)を放ちまして、事件の関係者について調べさせておりますの」


 手の者? 手の者って何? 公爵夫人お抱えの暗部的な?


「よ、よく分かりませんけどすごぉ〜い」


 そうとしか言いようがない。お茶を一口飲んで平静を装った。


「まず主要な人物ですが。

 まず、先代ハーバルク伯爵エミリン様と夫君アムルード様の間に生まれた長女、シェリュア様。17歳。

 エミリン様は6年前に亡くなられています。

 アムルード様が後添(のちぞ)いとして迎えられた某子爵家の傍系のモーリア様。

 アムルード様とモーリア様との間に儲けられたのが、殺害された女性、ラヴィル・ハーバルク様です。

 16歳でした」

「シェリュア様とラヴィル様が1歳しか違わないんですけど、いわゆる連れ子ですか〜?」


 なんか不穏な予感がしたが、首を傾げて可愛く尋ねてみる。


「アムルード様の実子です。認知なさっておいでですし、お顔立ちも父君によく似ておいでです……似ておいででした。

 つまりはそういうことです」


 うわあ。結婚直後(下手すれば結婚前)から他の女との関係が続いているのかよ。しかも子供こさえてるのかよ。

 ていうか娘ができたから再婚したのであって、子供が出来なかったレベルの他の浮気も充分あり得るな、これ。


「特筆すべきは、ラヴィル様は異世界転生者でいらしたことですわ」

「えっ」


 えっ。


「異世界の生活や品物について、周囲の方々によくお話をなさっていたそうです。

 シェリュア様がそれを参考にして、貴族向けの魔道具を開発販売を行っておられると。ほら、この冷風の扇ですとか」


 魔道具の扇かあ。最近流行ってるやつだ。

 送風の術式が刻んである扇で、魔力を通すと冷風が扇面に対して垂直に吹く仕組み。

 扇を顔を隠すようにかざしていれば、冷たい風が吹きつけて涼しいし、化粧崩れも防げる便利グッズだ。

 言われると確かに、手持ちの扇風機っぽい。ちなみに冬用の温風バージョンもある。

 ……なんか扇って、公爵令嬢とか婚約破棄をかまされる側が持ってて、略奪する側は持ってないイメージだったけど。

 まあピンク髪男爵令嬢のあたしも、冷風扇は何本も持ってるから、そんなもんか。


「ハーバルク家の系譜について説明した方がいいでしょう。

 お話は、先代のハーバルク伯爵エミリン様に遡ります。

 エミリン様は20年近く前に、彼女の2代前の伯爵の孫、つまり従兄弟であるアムルード様と結婚されました」

「政略結婚にしては血が濃いですけど〜?」


 隠し子がいる時点で恋愛結婚ではなさそうだけど。


「純然たる政略です。

 エミリン様のご母堂とアムルード様のご尊父は兄妹でして、お2人のご尊父である当時の伯爵は、兄君ではなく妹君のエミリン様の母となる方を、後継者に指名されました」


 この国では、王位や爵位は長子相続制ではない。だから弟妹が跡継ぎになるのは問題ないが。


「こう申し上げては失礼ですけど、兄がいるのに妹が爵位を相続するのは珍しくないですか〜?」


 南方の諸島連合から輸入したとおぼしい果物の砂糖漬けをつまみながら、あたしは質問した。

 明日からダイエット明日からダイエット。


「話によりますと、兄君はその、素行不良と申しますか、爵位を継ぐに相応しい知性や品位が身につかなかったと。

 対して妹君は優秀でしたので、彼女の爵位相続は当時の国王陛下も承認されだそうです」

「それは荒れそうですねぇ」

「荒れましたね。

 兄君は不服を申し立てて大揉めに揉め、一族全体が2つに割れるお家争いになったそうです。

 それを収めるため、兄妹の子供同士を結婚させ、双方の血を引いた孫を後継者とすると。

 このご兄妹はいずれもお亡くなりになっていますが、約定は今も有効でして、このお孫様がシェリュア様でいらっしゃいます」


 うわあ。仲違いしている者同士の子供が結婚かあ。

 その解決法ってどうなの? 家族仲が上手くいく気がしないんですけど?


「夫婦仲は……年の近い義妹がいることでお察しですかぁ……」

「はい。アムルード様は、エミリン様が病死なさった後にモーリア様と再婚なさいましたが、シェリュア様とは住まいを(こと)になさっています。

 シェリュア様は基本的に伯爵家の領地で事業と領地の経営、他のご家族は王都の屋敷にお住まいです」

「え、シェリュア様って未成年ですよね? 彼女一人で働いてるんですか?」

「はい。調査中なのですが、おそらくアムルード様はほぼ何の仕事にも携わっておられないかと」


 ヴィエリア様の眉がやんわりとひそめられている。彼女レベルの淑女が表情に出ているというのは、かなりご立腹だ。

 ご自分も王子殿下の婚約者として学びや公務に忙しいから、この親父はちょっと許せないだろう。多分あたしも同じような表情になっている。

 実母は死亡。実父には愛人と隠し子がいて、母の死後に再婚、彼らが仲良く遊び暮らしている間に自分は1人離れて仕事してる。

 いやまじでシェリュア様、完全にドアマットヒロインじゃん。


 ……あれ?


「ヴィエリア様、それじゃ今の伯爵は」

「シェリュア様です」


挿絵(By みてみん)


 だよね。爵位は直系子孫が相続するのが基本。

 配偶者であっても、従兄弟のような傍系は優先順位が低い。母親が亡くなった時点で、娘のシェリュア様が爵位を相続したはずだ。

 さっきから、ヴィエリア様はシェリュア様の父親であるアムルード・ハーバルクを『伯爵』と呼ばなかったのはそのせいだ。


「シェリュア様は未成年ですので、ご尊父アムルード様が伯爵代理となっておられます。

 しかし18歳のお誕生日、すなわち成人まであと2ヶ月となりました上に、今は社交シーズンの始まりです。

 わがフリザーリュ家とはお付き合いはなかったのですが、いい機会ですので、初めてハーバルク伯爵をこちらに招待いたしました」

「で、こんなことになったと」

「そうなんですの」


 吐息をつきながら、ヴィエリア様は新しく()がれたお茶に、銀の小さなトングで薔薇の砂糖漬けをひとひら入れた。一口飲んで、話を続ける。


「長くなりましたが、次はシェリュア様の婚約者であるミーティン侯爵令息マリエス様。20歳。

 侯爵の三男ですが、お年を召してから授かった末っ子で、かなり溺愛されておられるご様子。行く末を案じて、資産家であるハーバルク家のアムルード伯爵代理に頼み込んで、シェリュア様の婚約者にねじ込みました」


 名前と人間関係全部暗記しているヴィエリア様すご〜い。

 でもねじ込んだって言っちゃったよ、この人。


「でも親の心子知らず、マリエス様とやらは義妹のラヴィル様と浮気して、婚約破棄騒動を起こしたんですね〜?」

「親の心……? まぁ、言い得て妙ですわね」


 おっと、これは日本のことわざだった。異世界知識があると、こういう時にごっちゃになる。


「シェリュア様とマリエス様のお仲は? まあ良くはないでしょうけど」


 婚約破棄騒動を起こすくらいだもんな。

 ただシェリュア様側は惚れているとか、マリエス様がかまって欲しくて婚約破棄騒ぎをぶっ込んできたとかはあり得るかも。


「手の者によりますと、マリエス様はシェリュア様を嫌っていらっしゃるとか。男友達に『婚約者は無表情で性格も辛気臭い。服も顔も野暮ったくて気に入らない。義妹の方がいい』と語っていらしたとも。

 シェリュア様は、贈り物やお手紙、定期的なお茶会などは(おこな)っておられます。

 ただ親しいお友達がいらっしゃらないので、実際どうお思いなのかはなんとも」


 半日経ってないのにそこまで調べてくる手の者すご〜い。


「もう手の者に任せておけば、そのまま犯人を捕まえてくれるんじゃ?」

「情報を集めることと、そこから結論を出すことはまた別ですから」

「まあそれはそうなんですけど〜」 


 ヴィエリア様は、ふと壁際の大時計をご覧になった。


「まあ、すっかり長引いてしまいましたわ。セルティ様もお疲れでしょうに、申し訳ございません」

「あたしは全然大丈夫ですけどぉ、事件当時のあらましをうかがっていると夜中になってしまいそうですね〜。

 今日はここまでにしまして、続きは明日にした方がよろしいかと〜」

「そうですわね。明日になれば新しい捜査情報も上がってくると思いますわ。

 では明日の朝昼兼用(ブランチ)でお会いしましょう」


 ヴィエリア様は、近くに控えていた家令らしき人に目線で合図した。


「セルティ様を客室までご案内してちょうだい」

「かしこまりました。お嬢様、こちらへ」

「お願いします」


 あたしは席を立ち、ヴィエリア様に一礼した。


「ありがとうございます。ヴィエリア様、おやすみなさい」

「おやすみなさい、よい夢を」


挿絵…………_| ̄|○

すいません。イラストの左側はヴィエリア、右側はセルティのつもりでした。

2人が家系図について話している場面のつもりだったのですが、位置的にラヴィルとシェリュアの名前の真下だったために紛らわしいことに……_| ̄|○

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― 新着の感想 ―
[良い点] 固唾をのんで拝見しちょりますが、 めっちゃわかりやすい家系図&シェリュアとラヴィルの挿絵キターーー!(歓喜の舞) どっちもめっちゃかわゆいですが、ラヴィルのあざとそう感、素晴らしいです!!…
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