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19話 "海象と牙"




ニューロッズの街並みは先ほどのパーカーを着たスキンヘッドの男とトレンチコートを羽織った蚊神の戦闘でざわざわと騒がしくなっていた。


「なに?今の?」「おい!誰か騎士団を呼べ!」「騒がしいな!なんだよ」


口々にあらゆる方向から声が飛び交う。

そしてしゃがみ込んでいたスシカに好奇の目を向ける。


「なあ?あんた大丈夫かい?」


汗をハンカチで拭きながら太った男が手を差し伸べる。


スシカはその手を跳ね除けて足早に去る。


平気、まだ平気よ。いや逆に最高よ!犯罪者も!カガミさんもいなくなった!完璧!これで後は向かうだけ!


ニューロッズの最奥に一際、賑わっている地域があった。出店や手品師、曲芸師はたまたサーカスまでやっていて子供の歓声とカップルがよく目立つ。


その地域には大きな映画館があった。

まだ昼なのにも関わらず多色の電飾やライトが煌びやかに光り輝いている。


映画館の壁にはポスターがたくさん貼られていた。

よく見ると綺麗に枠にハマっている映画ポスターもあった。


映画館の入り口には七色の電飾で"|海象と牙《エルヴィス&ファング》"と書かれていた。


そこの受付にスシカはいた。


「ご来場ありがとうございます」


手元しか見えないが声で女性だと分かる。


「あ、えーと"愛と平和"のチケット2つください」


「……かしこまりました。ご予約はされていますか?」


「はい。座席はSの13で2名です」


「お名前は?」


「スシカとワイヤーです」


「分かりました。少々お待ちください」


スシカは腕を触りながら下を向いていた。


「大変お待たせして申し訳ございません。ご確認できました─スシカ様。シネマ5で上映です。お間違えないようお気をつけてください」


そう言って受付嬢はチケットを一枚(・・)くれた。


中は広く最新映画のキャラクターの等身大フィギュアやゲームセンター、ポップコーンなどを売っている売店などが並んでいた。


映画館なので辺りは薄暗く親子連れや老夫婦、若いお客もたくさんいた。


白い電気でシネマ5と書かれている看板を見つけてスシカは鞄を強く持って向かった。


シネマ5では 緋色の研究 が上映されていてチケット確認の男性従業員がめんどくさそうにお客のチケットを切りながら通していた。


スシカもその列に並んで前にいる子供連れの夫婦を睨んでいた。


早く!早く!もう遅い!やっとここまでついたのに!何でこんなに遅いの!


「ねえ楽しみだねー!ホームズ勝つかな?」


子供が母親の手を握りながら笑顔で話す。


「どうだろうな負けちゃうかも」


母親は子供を茶化しながら答える。


「それにしてもすごいよな。あの転生作家の蛭間昼前ひるまひるまえ先生の小説がこんなに早く映画化するなんてな」


父親は腕を組み頷きながら喋る。


「実は1番楽しみなのパパなんだよー」


「えーそうなの!?」


「そりゃそうさ!パパは蛭間ひるま先生の本、全部持ってるからなー。特に赤毛のアンなんて最高だっ……」


「ちょっと!静かにしてくださる?」


親子が驚いてスシカの方を振り向く。


「えーと何か?」


「うるさいって言ってるの!」


スシカは貧乏ゆすりをしながら喋りかけた父親を睨む。


「ここはあなただけの…」


「次の方どうぞー」


「ほら!早く行きなさいよ!」


父親の方は2回も話を遮られて苛立ちを隠さなかった。


「パパいいわよ。行きましょ」


母親はスシカを睨みながら3枚のチケットを従業員に見せる。


「なによ!私だってね!大変なのよ!」


「次の方どうぞー」


親子連れはすでにシネマ5の扉を開けていた。


「これ」


スシカは従業員にチケットを見せる。

従業員の顔が微かに引き締まる。


チケットを千切るとほんの一瞬、チケットから力点ポイントが発生した。


「どうぞ。あ、トイレはあちらですから」


従業員はシネマ5の奥にあるトイレを指差す。


スシカはチケットを奪うように取りながらトイレに向かう。


金髪の若い女性が化粧を直している以外、他には誰もいなかった。


1番奥のトイレに入る。

そこでスシカはチケットに自身の力点ポイントを入れる。


「スシカ・アイ」と自身の名前を聞こえないように小声で言う。


瞬きをした。その瞬間。

心地よいジャズが聞こえ始めた。

床も扉も天井も黒くなり金の装飾がされていた。


トイレの扉を開けると先程の化粧をしている女性は消えて代わりに酔っ払いの赤毛の女性が便器を抱えながらいびきをかいていた。


看板は変わっておりシネマ5〜15と書いてあった。


緋色の研究と書かれていた看板が

シネマ5 担当 ワイヤーと変わっていた。

スシカは両開きの扉を開ける。


すでに辺りは真っ暗で何やら映像が流れていた。


『もうどうしようもないわよ!』


『いや愛の力があればきっと世界は平和になる!』


そんな男女のやり取りが聞こえる。


スシカは音を立てないようにワイヤーを探す。

ワイヤーはシアタールームの真ん中の座席に座り大きなポップコーンの袋を持ちながら映画を見ていた。


スシカはワイヤーの隣に座る。

そこでようやくスシカは鞄を離した。


ワイヤーは唇を縫うかのように三つの縦に傷があり真ん中の傷は顎まで達していた。


髪は茶髪でまだ20代後半だった。


キャラメル味のポップコーンを食べながらワイヤーはスシカの方を見る。


「今回は配達使わなかったんだね。俺ドキドキしたよスシカさんが捕まらないか」


「あ、ありがとうございます?」


「じゃあ貸して?」


ワイヤーは大きなポップコーンの袋をスシカに渡して鞄を受け取る。


「ポップコーン食べていいからね。あ、濃いのはダメだよキャラメルかかってない奴ね」


ワイヤーは鞄からピースの錠剤を取り出して数え始める。

スシカはキャメルがかかってないポップコーンを一粒食べた。


『愛と平和でこの世界を救おう!!』


クッションを入れたかのような胸筋の俳優が女優に話しかける。


『無理よ!誰も平和を望んでいないわ!』


『何言ってるんだ!愛があれば!』


『平和の価値観は人それぞれよ!これはあなたの平和を押し付ける。ただの世界征服だわ!』


スシカはポップコーンをまた一粒食べながら予想に反して映画の展開が面白いので見入っていた。


『そ、そんな!俺はこの世界が幸せになればと』


『いいえ!それはあなたの自己満足。決して真の平和なんて訪れないわ!これは映画の世界じゃないから』


映画の登場人物がそれを言ってる事にスシカは少し笑った。


「はい。27錠あったから13万5000Gね。それと札束があったけど貰っていいの?」


「ダメですよ!あと区間検問くかんけんもんっていつ終わります?」


ワイヤーは腕時計を確認する。


「あと2時間で日の入りだからそのぐらいで終わるんじゃない?」


ワイヤーは札束を鞄の中に入れてスシカに返す。


「じゃあ区間検問くかんけんもん、終わるまでこの映画見てていいですか?」


ワイヤーはスシカが持っているポップコーンの袋からたっぷりキャラメルがかかっているのを一粒、食べる。


「いいけど最後この主人公、世界に絶望して自殺するよ」


「何で言うんですか!!」


『この世に平等なんてないのよ!あるのは差別と暴力。それがこの国なの!』


ヒロインの女優は涙ながらに主人公に訴えている。


「これイマーゴが舞台なんだよ。皮肉だよね」


「え?そうなんですか?」


ワイヤーは微笑みながらポップコーンの袋をスシカから返してもらう。


「ヒロインのモデルはスカルガーデンの住民さ」


スシカは何故か納得して座席に背中を持たれながらたっぷりキャラメルがかかったポップコーンを一粒、食べた。




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