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15話 "21〜22" (3)




11月23日 21区 労働の街 バアルリン───


スシカは鞄に詰めた錠剤のピースを胸に抱えながら小走りで22区に向かう。


あと少しあと少しで22区、ここまで長かったわ。

でもこれで13万5000G。


スシカは薄汚れた路地で足を止めてため息をつく。


家賃も代行も何もかも後回しにしても1万5000G足りないわ──売り上げも回すしかないけどそうしたら私どうやって生きていけば……


勢いよくドアが開く音がしてカランカランと鳴る音が路地に響く。


「え、なに!?」


スシカは驚いて音が鳴った方を探そうとキョロキョロと見回す。


パーカーを頭から被った筋肉質な男が走って逃げて行く。


服屋からは、誰も追いかける人はいなかった。

スシカは興味本位で服屋の方に向かう。


向かう途中で何かの束が落ちているのが目に入る。

スシカは服屋を通り過ぎてその束を掴む。


その三束ある札束を急いで鞄に詰める。


な、何これ?お金?何で?……でもこれで助かる!


スシカはパーカーの男を追いかけるように走って現場を後にする。


しかしすぐに止まる。


だ、ダメよ。やっぱり危険すぎるわ。誰か見てたかもしれないし、今ならまだ返せば平気よ未遂で済むはず。それでムシノスローンのこと話しちゃば……いやそれもダメだわ。鞄の中にピースが入ってるし…とりあえずこの札束は戻しておかないと。


スシカは服屋がある路地に戻った。


しかしそこで騎士団では無く、スーツを着た2人組が走ってきたのを見てスシカは何か釈然としない気持ちになる。


あれ?あの人達が騎士団の人?……いや違うような気もするし


すると服屋から金を盗み出した犯人が現場に戻ってきた。


犯人はキョロキョロと辺りを見回していた。

スシカは犯人が私の事を見てたら口封じに殺される!と思ってなるべく走らないように意識してその場を後にした。


お金、盗んじゃった。それに犯人に顔見られたかも……もう!もう!何でよ!私ばっかりこんな目に遭うの!


スシカは大きなため息をついた。鞄を胸に抱き寄せた。


区間くかん検問けんもんしている前まで行き、そこで立ち止まった。


終わりだわ。これじゃあ22区まで行けないじゃない!どうすればいいの?誰か教えてよ!


スシカは検問官をチラチラ見ながら行ったり来たりしていた。


どこが抜け道はないか探してはまた元いた所に戻るそんな事を繰り返していた。


立ちながら貧乏ゆすりをして髪を掻きむしった。


運送馬車が一台、自分の目の前にある区間検問を突破した。


そうか。運送馬車!あそこに乗って隠れてれば見つからないわよ!


「早く追いかけましょうよ!」


声のする方を慌てて振り返る。

若い検問官が無精髭の検問官に何やら訴えているようだった。


「逃げちゃいますよ!急がないと!」


スシカは直感で自分の事を言われてるのが分かった。

チラッと検問官を見ると無精髭の方が見返した。


スシカは鞄を胸に強く押し付けて猛ダッシュで逃げる。

時々後ろを振り返りながら追って来ないか確認していた。


肩で息をしながら疲れて近くにある壁に寄りかかりながら座る。


目を瞑りながら区間検問が終わる事を祈っていた。

何分か経った時だった。

誰かがスシカの肩を叩いた。


しまった!怪しまれた!どうしよう持ち物検査とかされたら、終わりよ今度こそ終わり!


しかし予想に反してその声は聞き覚えのある声だった。


「スシカさん?こんな所で何してるんですか?」


「え?」


首をあげるとそこには不思議そうにしているカガミの姿があった。


「大丈夫ですか?」


「カ、カガミさん……私、どうしたらいいか分からなくて」


どこかで猫の鳴き声が聞こえた。


「……何があったんですか?」


カガミは優しく尋ねた。


スシカはそこで口を閉じた。

そして自分がこの世界で真実を話せる人は誰もいない事を知った。


「何でもありません」


崖っぷちに立っていると思った。


この人は良い人かもしれないけど、上司は怖いわ。カガミさんだって言いなりかも


「でも困ってるんでしょ?事情は聞きませんから何で困ってるか教えてくれません?」


下を向いているスシカにカガミは胸に抱えてる鞄を見ながら言った。


「……区間検問」


「それがどうしました?」


「通りたいんですけど」


スシカは上目遣いで言った。


「……分かりました。どうにかしましょう」


カガミは軽くため息をついたがすぐに歩き出した。

スシカもカガミの後を追って行く。


さっきとは違いスシカは妙な安心感が胸に広がった。


少し歩いてから今度は眼鏡をかけた真面目そうな検問官と寝癖がついた検問官の前でカガミは止まった。


「ここ通っていい?」


眼鏡の検問官はカガミを手で止めた。


「身体検査をさせてもらってもよろしいですか?」


スシカは身体を硬直させる。


「エルヴィスさんにお使い頼まれたんだ。それでも平気?」


眼鏡と寝癖が顔をしかめる。


「わーたよ。見逃してやっからほれわかんだろ?」


寝癖が手のひらをカガミの方に差し出す。

眼鏡は立ちながら貧乏ゆすりを始めた。


「いくら?」


「20」


「ダメだ。5」


「ふざけんな。18だ」


「あんたこそ。大丈夫なのか?俺があんたの顔覚えててエルヴィスさんに告げ口でもしたら」


「わーたよ!じゃあいくらならいいんだ」


カガミが後ろを振り向きスシカを見る。


「いくらなら平気ですか?」


「え?私が払うの?」


蚊神は頬をひきつらせた。


「なんで俺が払うの?」


沈黙が流れた。スシカはカガミの見た事ない顔にクガを思い出させた。


同じなんだわ。きっとこの人も。


スシカは鞄から財布を取り出して2万Gを手に持つ。

その時に慌てて入れた為、30万の札束があらわになる。


「見るからに怪しいのにな」


眼鏡の男がため息をつきながら眼鏡を拭いた。

寝癖は二枚の紙幣を確認すると同じようにため息をついて手で追い払うようなジェスチャーをした。


網の壁が開く。


22区 骨の大都会 ニューロッズ────


ニューロッズの街並みは活気あふれていた大きなレンガ製のビルや出店もあり人の声であふれていた。

見回りの騎士団員も巡回に目を光らせている。


「ここからは1人で大丈夫です」


スシカが前を行くカガミに言った。


「どこに行くか分からないですけど……なんて言うか危ないんじゃないですか?色々と」


そう言ったカガミはスシカの知る優しい笑顔をしていた。


「あ、ありがとうございます。でも平気ですから」


「そんな……でも」


カガミは引き下がる。

しかしスシカは後ろにいるパーカーを被った男を目撃する。


まずい!あれは犯人だ!お金を盗んだ犯人!


パーカーの男から目を離せない。


はやく!違う所を見ないと!バレる殺される!殺される!


「どうしました?後ろに何か?」


後ろを振り返ると蚊神はパーカーの男と目が合う。


ダールはついさっきも見た白髪が目立つ女性がこっちも見ているので自分も目を向けたするとその前にいた薄いパーマをかけた男と目が合う。


蚊神とダールはお互いを見合う。


「やばい!まずいです!カガミさん!あれ強盗です!」


しかし蚊神はスシカの方を振り返りはしなかった。


ダールはさっきヴェニスから買った武器をポケットの中で持ちながらゆっくりとカガミの方に向かった。

口元には予期せぬ所で会えた幸福がダールの口角を上げていた。


「見た事あるなーどうせ恨み買ってんだろ。殺す気満々って顔してやがる」


ダールがいきなり力点ポイントを発生させて蚊神の方に走る。


スシカは勘違いしてしゃがみ込んで悲鳴をあげる。


「うるせえ密売人だな」


蚊神はダールから目を逸らさずに後ろ向きで走りながら人混みに溶け込もうとする。



今、ニューロッズで3人の思いが交錯する!




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