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14話 "21〜22" (2)




イマーゴ共和国の全域に蔓延る情報網が一度に集まる秘密組織 "夜想曲ノクターン



カフェ ノクターンのガラス製の扉が開くと子供の笑い声が店内に響く。


子供が親に連れられてトイレに行く。

ダールはそれを見ながら微かな尿意を催す。


しかしダールは一直線にレジカウンターに向かう。


「らっしゃいせー」


若い女性店員がダールに気づく。


「ご注文はお決まりでしょうかー?」


店員はカウンターにあるメニュー表をチラチラ見ながら言う。


「……曲を歌いたいんだけど」


「…?」


女性店員は首を傾げる。


ダールはカウンターに手を置く。

手のひらに少量の力点ポイントを発生させる。


するとトランプ程の大きさの黒いカードが出現した。

全体的なカラーは黒だが所々に紺色の装飾が施されてるカードだった。


ダールはその会員メンバーカードを店員に見せる。

店員はカードを受け取り発行日付と所有者の名前を確認した。


チール(・・・)・ドッコイ様、おトイレはあちらでございます」


店員は手のひらをトイレの方向に向ける。


「……ありがとう」


親父が※22(ダブルセカンド)会員メンバーでよかった。


※ノクターンは区ごとに入れる会員メンバーが分けられておりダールの場合は父親が22区の会員メンバーであった為、22区でのみ入れるのであった。


ダールはトイレの扉を開ける。

そこには何の変哲もない洋式トイレと代えのトイレットペーパーがあるだけだった。


ダールはトイレの扉を閉めて用を足した後に便座に座る。


ダールは一呼吸してから扉を開けた。


そこは先ほどのカフェでは無く小さな部屋に変わっていた。


観葉植物があり小さな趣味のいい絵画が2点、飾ってあった。扉には金色で22とマークがあった。


両開きの扉の前には恰幅のいい男が2人立っていた。


空間ごと移動したのか?それとも空間を作り出したのか?

前者なら増強型、後者なら補助型…か。


ダールは立ち上がりながら扉の前に向かう。


「ここから能力はおろか力点ポイントすら使えませんので注意してください。またご帰宅される場合は同じ扉からお願いします」


扉の前の男の1人が言った。


空間転移、空間生成に妨害まで追加かよ。

これ、流石に複数人の合わせ技だよな?

1人で全部やってたらそれこそ……


「分かりましたか?」


もう1人の男に言われてダールは思考するのをやめた。


「あ、ああ分かった」


「ではごゆっくりお楽しみください」


2人の男が扉を息を合わせたように一斉に開く。


中はナイトクラブのようだった。音楽は流れていたが静か過ぎずうるさ過ぎずで誰もが曲なんて気にしない程度に流れていた。

水着を着た女性がポールダンスを踊っていたり近くの席では酒を楽しむマフィア風の男達もいた。


ダールは札束をポケットの奥にしまう。


アルコールの匂いと聞き慣れた薬品の匂い。


ダールは鼻をかいた。


これピースか。

あのクソ親父こんな所にガキだった俺たち連れてったのかよ!


ダールは近くの席に座りバーテンダーにウォッカを注文する。


少ししてウォッカが運ばれたと同時にダールはバーテンダーを止めた。


「ここにヴェニスっていう商人いないか?それともそんな名前のやつ知らないか?」


「ヴェニス…ああ知ってますよ」


「どこにいるか分かるか?」


「運がいいですね。H・VIP(ハイ・ビップ)フロアにいますよ」


「どうやって行くんだ!そこに!」


「いや行けませんよ。呼び出す事は出来ますけど応じるか分かりません」


「と、とりあえず呼んでくれ」


バーテンダーは少しため息をついた。

いやついたフリをした。


自分が入った扉の前にあるドアマンを指差す。


「あの人達にお願いしてくださいよ」


ダールはウォッカを一気飲みするとドアマンの所に向かう。


H・VIP(ハイ・ビップ)にいるヴェニスさんに商売の話がある。呼んでくれ」


「分かりました」


黒のスーツを着た筋肉質なドアマンは感情のこもっていない声で言った。


ドアマンは目をつぶる。


「今、お呼びしていますので少々お待ちください」


3、4分待つとドアマンは目を開けた。


「ヴェニス様からH・VIPの個室招待されました──どうなさいます?」


「もちろん行く」


「わかりました」


ドアマンはまた目を閉じる。

今度は開けるのに30秒もかからなかった。


ドアマンが扉を開ける。


ダールは中に入って行く。


そこは自分達がいた所とはまるで違った。

心地よいクラシック音楽が流れていて個室の酒場をイメージしていたダールは目を見開いた。


「……これは」


まるでホテルだ。それも超一流の


ダールが動けないまま固まっていると冷蔵庫の扉が勝手に開いた。中からワインボトルや氷が飛び出して動きながら机の上に置かれる。


「大丈夫かい?」


すぐ近くから声が聞こえてダールは驚く。

シルクハットを被った若い青年が立っていた。

髪は灰色で目はオレンジ色で驚いたダールを面白そうに見ていた。


「商売の話をしにきたんでしょ?」


「あ、ああ」


ヴェニスとダールは向かい合いながら椅子に座った。

グラスが動いてダールの前で止まった。

グラスが止まったのを見計らって今度はワインボトルが宙に浮いてガラスの中に濃い紫色の液体を注いでいく。


「氷は?」


「え?氷?」


「そう」


「いや俺はいい」


ヴェニスはグラスを持ち上げるとワインボトルはヴェニスのところまで行きグラスに並々と注いだ。

そこに氷がまるでプールに飛び込むかのようにグラスの中に入っていった。


ダールは飛び散るかと思ったが予想に反してワインは水面すら立たなかった。


「どんなのが欲しいの?」


「あんたは能力がついた剣やら槍やらを売ってるんだよな?」


「そう。で?どんなの?」


「そうだな。とりあえず拳につける武器がいいな」


ダールはワインを一口飲んだ。

やっとスタートラインに立った気がした。


「何に使うか聞いていいかい?ムカつく奴がいるとか?」


ヴェニスは一口で半分以上飲み干した。

カランと氷がグラスに当たる。

すぐさまワインボトルが動きグラスに注ぐ。


「仇討ちだ。ぶっ殺したい奴がいる。弟の仇だ」


「そういう系ね。誰を殺したいんだい?」


「……話さなきゃダメか?」


「別にダメじゃないけど、気になる」


ヴェニスは好奇の目でダールを見た。

口元には余裕の笑みを浮かべてる。


「……13区にいる男だ。おそらくカガミとかいう奴だ」


ヴェニスは口元を押さえながら肩を揺らした。


「蚊神空木は僕の友達さ。あいつはよく人から恨まれる」


「カガミを知ってるのか!?」


「今、そう言った。弟を殺したのか?あいつは本当にすぐ殺しちゃうからなー全く変わってない」


ヴェニスは蚊神空木を思い出し懐かしそうに目を細めた。


「クソッ!武器は売っちゃあもらえねえか」


「なんで?」


「は?──いやだって友達なんだろ?」


ヴェニスは突然、立ち上がり歩き出した。

グラスもワインも氷が入った容器もヴェニスの後を追う。


「商売は商売だよ。私情は挟まない。でもさ?蚊神の事、恨んでる奴に武器たくさん売ったら蚊神は僕を殺しにくるかな?」


浮いたグラスを手に取り一気飲みする。


「さあな?邪魔なやつは殺すんじゃねえか?俺の弟もそうだった」


「いくら出せる?」


「120」


ダールは札束を机の上にばら撒いた。


「蚊神のやつ、ちゃんと久蛾って人に会えたのかな?借金取りやってんだろ?なんか知ってる?」


「ムシノスローンってのをやってるみたいだ」


ダールはチラシを机に置いた。

チラシが浮いてヴェニスの所まで進んだ。


「ふーーん。どうやって名前わかったの?」


「俺の弟が殺される時にカガミって呼ばれてた。もういいだろ?早くぶっ殺したいんだ!頼むよ!」


「分かったよ。いいのがあるんだ君にぴったり」


ダールは立ち上がる。勢いがついて椅子が倒れる。


「どんなだ!?」


「ちゃんとヴェニスから買ったって蚊神に言ってよ?それが条件」


「わかった!約束する。だから早く!」


「まずは値段からね」


「いいから早く!」


ヴェニスは焦るダールを見て今度は声に出して笑った。


22区 カフェ ノクターン前─────


復讐者に今、相応しい武器が与えられた。

復讐者はその武器を触りながら赤き黒い闘志を胸に燃え上がらさせた。







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