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冷蔵庫を開けた  作者: hs
1/3

かけ離れた時間を生きるという言葉を、俺はあの時初めて聞いた。


それは、サキの潤んだ目で震える唇から匍匐して出て来た。いかにも恐る恐るという感じで、周りの時間が止まってしまったように思えた。さて、クラスは男どもの博打にみんながたむろしていたから、それはそれは始業のチャイムみたくうるさかった。

騒音の原因を睨んだりしたが意味はない、何せ誰も気づかないのだから。


サキは涙を流して憂いの言葉を吐き続ける。何をそんなに恐れているのか、俺は気になって聞いてみた、壊れた時計に触るように。


「何が……あった?」


昔の俺にバカと言いたい。蜂の巣を突くよりも凶悪なことをしでかしてしまったんだ。


憂いの言葉は段々と罵声に近くなっていった。標的はまず、クラスメイト、次に学校、次に世間、ついには世界に向けて無理な理屈をつけて罵倒を繰り返し始める。どうしてか、標的はとても大きいのにとても小さい声だった。

俺は引くに引けなくなった。よしときゃよかったのに、俺はサキの今しか憂うことがてきなかった。


「おい?」


サキはようやくこちらを向いた。くりりとした目……とは申し訳ないが表現できない。細く、力強く、でも押しは弱い。あぁ、変なところから知識を持って来るから、負けに負けて泣いて帰って来るし、わざわざ俺の好きなキャンディーを持ってだ。全くだよ。


あの日は違った。


パッと開いた目。


潤んで弱々しい。そのくせ、俺を容赦なく突き刺しにする圧力を感じた。


「信じてくれる?」


有無を言わせぬ威力があった。


「……ただの脅しだな、あぁ、信じるよ」


チョーク臭い部屋の喧騒なんて遠くに行ってしまった。そう、空間が違う。サキの周りだけ歪んでるんだ。


内心は怖気ついていたよ。こんな状態にあったことが無かったもんで、間違えた、あんな状態にあったことが無かったもんでさ。一瞬、嘘十割の都市伝説にでも飲まれてしまったのかと思ったけど、サキの言葉で吹き飛んでしまった。


「私がこれを話すのは初めてよ。いい……私たちはもう居ないの」


はぁ?と疑問しか抱かなかった。もちろん、「はぁ?」と返した。予測済みだったんだろうな、解答用紙はびっしり埋まってた。


「ねぇ、私たちはなんでこんなことしてるんだろうって、もう足りないのよ。時間が、でも何時間もあるの。わかる?わからないよね。ごめんなさい。でも信じて、信じて!もう死んでるの!」


一体なんの話かさっぱりわからなかった。もう死んでるの。その言葉だけがぐるぐる脳を廻り続ける。えっと、うる覚えだが……サキは確かにいった。


「ねぇ、何回目、何回目?なんで私は、恨まれてるの?」


なるほど、これがかけ離れた時間の正体か。


ああ、そうか、そうゆうことか。


「なるほど、お前の心配も身に染みる」


俺は目を丸めた。

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