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1 ゴーレムに取って代わられた冒険者

 ――数多の『自立(・・)式』迷宮探索ゴレムを打ち壊し、目標を果たした冒険者たちに捧ぐ。




「あー、残念ながら、第八ダンジョン探索隊第四班は、今日で解散となる。明日から、集合しなくていいぞ」


 班長はさらっと言った。岩のような強面で、彼は太く重たい声を響かせた。

 ダンジョンの入り口で――「また明日」と仲間たちに声をかける場所で、本物の別れを告げた。

 それを聞いた班のみんなは、知性を無くしたようにぽっかりと口を開けていたと思う。


「は、いや、え……?」


 俺、ラダ=ホーエスもその一人。いかなる時も機転が求められるのが冒険者だというのに、状況が掴めないからと焦って頭を回し、とにかく納得できる理由を探し出した。そして理由を見つけ出したら、他人に確認したくなるのが人の性ってものだ。


「もしかしてダンジョンに、強力なモン――」

「危険なモンスターが現れたからではない」


 班長は否定する。

 別の理由を見つけ再びぶつける、


「もしかして、ダンジョンがほう――」

「第八ダンジョンに崩落の危険性はない」


 またも否定する。


「なら――」

「無駄な足掻きはやめろ。この部隊が解散される理由は、ただ単純にお前たちが使えないからだ」


 俺の縋りを、班長の横に立つ男が遮った。

 副班長のロディス=ハーケン。元、俺の――先遣隊の同僚。切れ長の三白眼に無造作な長髪、よれた白のローブを身に着けた魔導技師は、だるそうに欠伸を見せた。

 無能だからやめろと言われて、はいそうですかと頷いていられるか。


「納得がいかない。俺たちは忠実に探索を進めていたはずだ! それこそ班長と副班長の作成したマニュアル通りに未開の迷宮を切り開き、人員の損失だって他のダンジョンと比べれば少なく――」

「それ故だ」


 ロディスは、ため息と共に口を開く。


「盗賊・死霊術士で構成された先遣隊による観測、僧侶・錬金術師で構成された陣地構築隊による戦場整理、戦士・詠唱術士による直接打撃、収集者による戦利品の回収――これら一連の四工程は、ダンジョン探索において定石となった。機械的で事故も少ない。だが――進歩がない」


 ひとつ、疲れたとばかりに彼は長く息を吐き、また続ける。その仕草には努力による疲労が表れているが、何かを自慢する際に特有の高揚も滲んでいた。


「ダンジョン探索方式は概ね完成された。班員から改良の提案も為されなかった。ならば、次に改良するのは成員の質だ。威力偵察を行うために犠牲となる確率が高い、先遣隊――第八ダンジョンにおける第四班の改革が急務となる」


 そうして、と彼は区切った。細身に残る全力を振り絞り、高らかに宣言する。



「――オレは、自律式迷宮探索ゴーレムの実用化に成功した‼」



 両手を振り上げた刹那、迷宮の奥から鳴り響く音、音、音。およそ生物や自然のものとは思えない、一糸乱れる足音が蠢いて迫り――発生源が飛び出した。

 嫌悪を覚えるほど白い躯体がふたつ。成人男性の胴ほどの立方体に、下部の角から腕が四本伸びている。

 形状的に足でなく、明らかに腕。石か砂か土か――ともかく無機物により模倣された生物のパーツは、不安と不快感を見るものに与えた。四つ腕で虫のように、滑らかに駆動する様も相まって、最悪。

 その悪を、開発者は堂々と誇った。


「なんといってもだな、躯体の大半を占めていた演算部分の大幅な小型化に成功! これに尽きる! 狭い迷宮での運用を容易にし、ゴーレムの運用時の難点を解決、さらに駆動部はゴブリンの手を模倣し指先のみスライム表面構造を真似ることで円滑な移動を実現、ワームの通信手段を取り入れ群体の制御にも成功――」


 熱狂的に語っていたが、沈黙している観衆に気づいたのか、発表者は急に冷静さを取り戻した。


「――こほん。まあ、単純に言うと、性能が良いから生身の先遣隊は不要、ということだ。人が砂や泥を被る必要も、命を落とすような愚挙に駆られることも、先知れぬ迷宮の暗闇に身を投げることもない! 明日にはこのゴーレムたちが、お前たち以上にお前たちの役割を果たす」


 自信を微塵も隠さない姿勢には腹が立つ。だが、登場したゴーレムの俊敏さを目の当たりにした今は――単なる驕りでないと分かる。

 理解はしたが、すんなりと飲み込めるかは別の話だ。


「――新しい技術の開発に成功したのは喜ばしい。だからといって、『貴方の指示通りここを去ります』とはいかない。少なくとも俺はな。まだまだ生身の先遣隊は必要なはずだ」

「不要だ。オレの考えでは、このゴーレムにお前たちは劣る。とはいえ、こう口で言っても時間が無駄だからな、ふむ」


 創造主の意向に応じ、次々と被造物たちが集結しては臨戦態勢をとった。


「納得出来ない者は、今ここでオレの自信作に挑むといい。正面戦闘用ではないが、それなりの戦闘能力はあるからな。警備としてダンジョンの入り口に置く予定もある。これを突破出来たら、愛しのダンジョンに密入もできるぞ。やれないとは思うが」


 挑発に、俺は得物を構えることで応えた。呪符を結び付けたナイフ――盗賊と死霊術士の両方を務めることが可能な、ラダ=ホーエスの武具。

 先遣隊の他のメンバーも、各々の仕事武具を用意してゴーレムに相対している。


「では、やるか。ゴーレム側から仕掛けさせよう――行け、武装者を無力化しろ。怪我はさせるなよ」


 来る。死霊術士の探知魔法に、引っ掛かりがあった。

 だが、知覚と対処は別の話で――いつの間にか、俺は地面に転がっていた。


「はは、ははははは! よくやった、自慢の子らよ! それでこそロディス=ハーケンの子供たちだ!」


 この耳にこびりついているのは、結果に意外な歓喜を示した同僚の反応と、


「――ではな、敗北者たち。ここを去る際には、探索用の道具や武具は置いていけ。もちろん、仕事に使う猟犬などの動物たちもな」


 それと同一の喉から放たれたとは信じがたい、命令。

 ――それが憧れの場所を去る前に聞いた、最後の言葉だった。


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