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2、《未来のこと》





















「あー、分かる。俺もテトリスより、ぷよぷよの方が好きだなー。テトリスはあの棒が出てこないと、イライラしてくんだよなー」



カズキはまるで、給湯室にたむろして話し込む、共感と同意にまみれたOL達のような口調で、そう言った。





「だよなー。僕はぷよぷよって、あのガイコツのキャラ?なんとなく好きなんだよなー」


「あーあれなー。あのガイコツくん、何て名前?」


「え?うーん……名前?」


「お待たせいたしました!ラーメン大盛りです!」

すっかり聞きなれた威勢のいい声とともに、今日も定番の豚骨ラーメンが、僕たちの目の前に置かれた。







「いただきまーす」


僕とカズキは2人揃って、こってり系豚骨ラーメンを食し始める。




まずはスープから。このスープ、さらさらとしていて口当たりがよいが、しっかり豚骨のコクを感じることができる。かといって決してくどい味わいではなく、不思議と後味すっきり。この味に僕はすっかりはまってしまっている。春に福岡に来てからというものの、何度この店に通いつめているか。







「うまいわー。体があったまるわー」

カズキが幸せそうな顔で言う。


「何回食べても飽きないよな!福岡以外にも店だしてくれたらいいのにー。東京に進出してほしいー」









福岡の大学に進学して、最初は見知らぬ土地での1人暮らし、慣れない大学生活、おまけに友達も知り合いも誰もいない状況。これから4年間もこの生活が続くのかと思うと、げんなりしていた。帰りたかった。






あれからおよそ9ヶ月。


僕はこの街の生活にも慣れ、大学で出会ったカズキと一緒に過ごすことが多くなった。カズキも東京から来た1人暮らし組で、同郷の人が見つかったことがたまらなく嬉しくて、喋り倒してるうちに仲良くなった。











「お前、明日何時くらいに出発するんだ?」

カズキが少し上品に麺をすすりながら、僕に聞いてきた。


「んー、朝10時くらいにはもう出るかなー」






学校はもう冬休みに入った。


僕はこの年末年始、しばらく実家に帰ることにした。なんだかんだでまだ一度も帰省してないし、正月くらいは家族と過ごそうかなっていう、実に軽い理由だけど。






カズキはこのまま福岡で年越しするらしい。地元に戻ってぶらぶら過ごしてるぐらいなら、バイトに入って金儲けしてる方がましだとのこと。年末年始は時給200円アップらしい。



『大学を卒業したら東京に戻るつもりだし、それまでの間はこの街を楽しもうかなって。たぶん東京に戻ったら、もう福岡に来ることも、そうそうないだろうし』



カズキはなんだか、それがこの世界の当たり前のルールであるかのように、そう言っていた。



それについては、僕も同意見だ。僕も何となくだけど、東京に戻って就職したいなと考えているし、たぶん卒業したら、福岡に来る機会も、そう無いんじゃないかと思っている。














ただ、







それが当たり前なのかどうかは、僕にはよく分からない。











そうして、消費していくように過去が過ぎ去っていくことは、果たしてこの世界の当たり前なのだろうか。















ブゥゥゥゥー……



スマホが震えた。





「電話?」カズキが聞いてくる。



僕は画面に表示された履歴を確認して、こう答えた。


「……いや、ライン。」














「ありがとうございましたー!」


スタッフの威勢のいい声に見送られ、僕とカズキは冬の寒空の下に出た。




「うー。さみー」2人揃って体を縮こませた。


人通りも少ない裏通りで、街灯の明かりがぽつぽつと光っているぐらいしか明かりがなかった。










「じゃあなー。よいお年をー」


「あーい。よいお年を」





カズキとさよならをし、僕は自分のマンションに帰ってきた。部屋の明かりを付ける。明日の帰省の用意をしておかなくちゃ。









おっと、その前に。



僕は先ほどスマホに届いたラインのメッセージを開いた。
















『ごま豆乳坦々麺って、ほんとに美味しいのか?ほんとに辛くないのか?』





僕は小さく笑った。






『気になるなら、確かめに行こうか?』

そう返事をした。


















さ、明日の荷物をまとめよう。










僕は本棚にしまっていたドラクエのソフトを手に取り、カバンの中に大事にしまった。















《END》















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