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デリカシーのない男!


 ジェッツの言葉に一瞬意識を飛ばしかけた私は、気合いで思考を戻していた。


 私が殿下に復讐を企んでるなんて、死んでも有り得ないわ!

 誰よ、そんな事言い始めたのは……。


 すぐにでも文句を言いたかったが、今ここで怪しい態度を見せればジェッツはそれを信じてしまうかもしれないのだ。

 一度深呼吸をして、私の反応を見ているこの男が何しに来たのかを考える。


 ジェッツと私は幼馴染みだし長年の付き合いだけど、会う度に言い合いをするような関係だ。でも嫌いあっている訳ではない。

 それに先程ジェッツは、一応私に謝りに来たつもだと言っていた気がする。そんな相手に苦言を言いに来たとは思えない。

 そしてなにより噂話をすぐに信じる人間なんかじゃないのだ。


 だとしたら、確認と協力に来た……と考えても良いのかしら?



 そう思いながら首を傾げていると、ふいに私の名前が呼ばれた。


「クレア」


 その声に顔を上げると、何故か呆れ顔のジェッツが私を見ていた。なんでそんな顔をしているのかわからなくて、私はむうっと唇を尖らせてしまう。


「はぁ、お前は顔に出すぎだ。それになんだその顔、イラッとするからやめろ」

「なっ!か、顔に出てたって……」

「お前の考えなんか聞かなくてもわかる。単刀直入に言うが、お前は殿下に恨みなんか持ってないだろ?」

「…………」


 色々文句を言いたかったのに、こうやってちゃんとわかってくれるから、それを言う事もできなくなってしまう。

 だからこそ私はこの男が好きじゃないし、つい言い方がキツくなってしまうのも仕方がない事なのだ。



「わかってるなら何の確認に来たのよ」

「僕だって直接見ないとわからないさ。もしかするとクレアが物凄くやさぐれてるかもしれないだろ?正直そんなクレアは想像出来なくてな……」

「人をなんだと思ってるのよ!!」

「ふむ。殿下の言い方を借りるならゴリラかな?ほら、お土産に持ってきたお菓子でも食べなよ」

「ぐむっ!!もがもがー」


 文句を言う前に、お菓子を口に詰められてしまった私は、もがもがと反論しようとした。

 それなのに「淑女らしくないよ」と嗜められてしまい、今は仕方なく口をひたすら動かしている。


 本当なんなのこの男!デリカシーが無いったらない。こんなんだから、いつまでたっても婚約者が見つからないのよ。寂しいやつめ。


 私が心の中で憤っている間に、ジェッツは資料を取り出すと机の上に並べ始めたのだった。



「そろそろ話せるか?先に確認させて貰うけど、お前の事だから殿下を守る為に騎士になりたいとでも言ったんだろう?」

「むぐ……」

「まだ口に入っているのなら、肯定か否定だけでいい」


 その言葉に私は微妙な顔をして頷いた。

 とにかく早く喋れるように、私は紅茶を手に取る。


「それならお前の願いを叶えるために、僕が手伝った方が早いだろう。なにしろ今回の件はイレギュラーなことだ。普通は王子に婚約破棄された人間が、騎士になりたいなんて怪しい事このうえないからな。だからクレアが入団試験を受けるためにはどうしても、ハロルド殿下に確認と同意を得ることが必要だったんだ。そして今のところ、本来こちらに来なくてはいけない同意書が、どこかで止められている。だからこのままだとクレアは入団試験を受ける事ができない」

「なんですって!?」


 紅茶を流し込みようやく喋れるようになった私は、驚きのあまり声を上げてしまった。



 ジェッツの話だと、どうやら私が入団試験を受けられないようにするため、ハロルド殿下に同意書を見せないよう工作しているらしい。

 お父様は私のために頑張って同意書を準備してくれたと言うのに。

 きっとそれだけでも、とても大変だったはずなのだ。


 それなのに、こんなのってないわ!



 憤っている私を見て、ジェッツが紅茶のおかわりを注いでくれたので、おとなしくそれを飲みながら続きを聞く。


「落ち着け、僕はその同意書が何処で止まっているのかわかっている。確かに君の父君もわかっているとは思うが、もしかすると期間に間に合わないかもしれないんだ。でも僕ならその部署に繋がりがある。だからこそ、僕が手助けした方が早くクレアの願いも叶うはずだ」


 とてもありがたい条件なのはわかる。でもだ、ジェッツがこうやって、自分から手助けをしようとしてくれるときには必ず裏がある。いつもそうやって騙されてきたのだ、私にはわかる。

 それがわかっているからこそ、簡単に頷けない自分がいた。


「どうやらわかっているようだから、先に条件を言わせてもらう」

「そう思ってるなら、良い人ぶったように言うのやめなさいよ」

「ふん。勘違いする方が悪いんだ」


 そう言いながら、ジェッツは机の上にある一枚の用紙を私に渡してきた。その紙を見て私は眉を寄せてしまう。

 その紙には───。



『王宮で働くメイド募集』



 と書いてあったのだ。


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