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今までの経緯(過去話)


 私、クレア・スカーレットがハロルド殿下と婚約したのは、まだ10歳のころだった。


 当時から宰相補佐をしていた父と、国王陛下の近衛隊副隊長である母を持つスカーレット侯爵家は、国王と親密な仲であった。

 何より、ハロルド殿下と年があまり離れていないことから、私が婚約者に選ばれたそうだ。



 そして、初めての顔合わせでお会いしたハロルド殿下を見たその瞬間、私は衝撃に震えた。

 王宮の庭園で出会った殿下は碧い瞳が水面のように美しく、藍色の髪は光を受けて艶々となびき、まるで御伽噺に出てくる神話の神がそこに降り立ったのかと、錯覚してしまいそうだった。

 私はその出会いによって一瞬で恋に落ち、それは私の記憶へと鮮明に焼き付いてしまったのだ。



 その日から、私はハロルド殿下に見合う存在となるため、必死に努力をした。

 でもそれだけでは足りないと思った私は、自分が強力な魔力を保有していることから、魔法も磨くことにしたのだ。

 そして騎士である母に訓練をつけてもらい、もしもの為に剣の修行も同時に行なっていた。


 それが良くなかったのかもしれない。




 月日が流れ14歳になった頃、久しぶりにお会いした殿下を見て私は驚いてしまった。二つも年上の殿下は、私より身長が小さかったのだ。

 しかしそれは私の身長が伸び過ぎていただけであり、そのことを私は余り気にしていなかった。


 でも今思えば、ハロルド殿下はその事も気にしていたのかもしれない……。




 ─── そして事件は起きた。


 その日、私達は移動の為に馬車に乗っていたのだが、突然その馬車が止まったのだ。

 周りが騒がしいと思った私は、外の様子を見るため殿下に声をかけようとした。しかしその顔は真っ青で、何かに怯えるように体は震えていた。


 耳をすませば、金属音がぶつかり合う音があちこちから聞こえてくるのだ。殿下は第2王子であるため、刺客を送られる事もあるとは聞いていた。

 だから私はその噂は本当だったのだと思い、咄嗟に殿下へ問いかけた。



「殿下、今までにこんな事が何度もお有りですか?」

「……あ、ああ」



 絞り出すような声に私は殿下を抱きしめる。

 そして私は思ったのだ。


 何度も襲撃を受けているとはいえ、この怯えようは異常だ。きっと今までに殿下は、何度も危ない目にあったのかもしれない。


 そんな殿下を見ていたら、私はこの人を守らねばと使命感にかられてしまったのだ。

 もし騎士の隙をついて刺客がこちらに来たのなら、その刺客を倒すのは───。


 もちろん、私しかいないわ!!



 そう思った私は、ハロルド殿下が安心できるように力強く叫んでいた。


「ご安心ください!殿下に手を下す者が居るのならば、私が命に変えても守って見せます!!」


 言うや否や私は馬車の外へと飛び出していた。

 なんでもその姿は鬼の様だったと、後々近衛騎士の方々に言われてしまったことは、今でもなんだか解せません。




 そして全てが片付いた後、殿下の元へと戻ってきた私は、ゆっくりと殿下に寄り添った。

 いまだに顔を伏せたまま震えるその姿に、胸が苦しくなった私は、そっと手を差し伸べると優しい声で呟いた。


「殿下、もう大丈夫です。貴方の敵となる者は立ち去りました。さあ顔を上げてください」


 殿下はゆっくり顔を上げると、安堵すると共に驚愕と恐怖に顔をしかめた。

 それはそうだろう。私の着ていたドレスは切り刻まれ短くなり、真っ赤に染まっていたのだから。


 私は殿下がこのとき零した呟きを、一生忘れないだろう。



「クレア……君はゴリラか何かなのか……??」



 何故ゴリラと言われたのかは今でもわからないけど、そこが殿下に愛されなかった所なのだろう。



 



 そして殿下が17歳。私が15歳になったとき、殿下に運命の相手が現れてしまったのだ。


 お相手の名前はリリー・フランソワーズ様、14歳。宰相のお孫に当たる方らしく、とても小さくて可愛らしい。私とは正反対の令嬢だった。


 初めて会ったのは殿下の誕生祭でのこと。

 私は婚約者だったので殿下の横にいた所、宰相様から紹介を受けたのだ。


 そして殿下の表情を見て一瞬で分かってしまった。


 そのお顔は朱に染まり、お話も上手く出来ないようだった。

 そしてお相手のリリー様も同様で……お二人の一目惚れした瞬間を見てしまったのだ。




 そこからの2年は怒涛の日々だった。


 私はハロルド殿下を支えるために多くの事を学び、ハロルド殿下のために多くを尽くしてきた。


 しかしどう頑張っても、ハロルド殿下は私の事をゴリラとしか見ていなかったのだ。





 そしてついにこの日が来る。


 殿下が19歳となる誕生祭。

 それは私が婚約破棄を言い渡された、今日という日のことだった。


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