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「えっ?」
俺は驚きに一瞬止まった。
「理由を聞いても良いか?」
が、直ぐに修羅に質問をする事にした。
修羅が考えなしに俺の提案を断るわけが無いからな、何かしらの理由があるはずだ。
「主殿、これは私と冒険者ギルドの問題です。
それに主殿に迷惑を掛けるわけにはいきません」
修羅から話された理由は俺に迷惑を掛けるわけにはいかないという物だった。
修羅の奴、迷惑を掛けるなんてそんなの考えなくても良いのに…ここは強引に行くしか無いか。
「いや、修羅にはこの素材を必ず受け取って貰う」
「いえ、私も受け取る訳にはいきません」
だが、修羅も受け取る気は無いみたいだ。
「まぁ聞け、冒険者達に払う報酬についてはお前とギルドの問題じゃない。
俺が周りに正体をバラしたく無いといったのと、俺の邪魔にならない様にと修羅はダンジョンに冒険者達が入るのを規制したんだろう?」
俺がそう言うと修羅は頷く。
「俺の都合で冒険者達が本来受けるべき依頼を変更させたんだからその報酬は俺にも払う義務があるはずだ、それに」
「それに?」
俺は一度言葉を溜めてから話す。
「修羅が俺に迷惑を掛けたく無いと思ってくれるのは嬉しいが、俺は修羅の主であり親だ、別に迷惑なんて幾らでも掛けて良いし、頼ってくれるとこっちも嬉しいんだぜ」
俺は柄にもなく修羅に話す。
ゲームの中でも卵から産んで育てたのは修羅だけだから、実質俺が修羅の親といっても良いはずだ。
「主殿…」
修羅は俺の話を聞いて涙ぐんでいるが、この様子ならこの素材を受け取ってもらえそうだな。
「分かりました、この素材は有り難く受け取らせて貰います」
修羅はそう言って俺に頭を下げる。
「気にすることは無いぞ、家族なんだからな」
「はい、」
修羅は俺の言葉に小さく返事をする。
「さて、修羅が無事に素材を受け取ってくれると言ったことだし、話をしよう」
「話ですか?」
修羅は何故いきなりそう言い出したか分からないといった様子だ。
「おいおい、俺がいま渡した素材を売れば確かに冒険者達に報酬が払えるだろうが、わざわざ冒険者達に素材を捌ききるまで待ってくれって言うつもりか?、と言うことで、今回緊急依頼を受けた冒険者の人数と報酬を話してもらおうか」
「主殿…それは一体?」
修羅は状況が理解出来ていない様で頭の上に疑問符を浮かべている。
「だから、今は冒険者達に払う報酬が無いわけだろ、だから素材を捌ききる迄は俺が修羅に金を貸す事にする」
「そう言う事ですか…分かりました、今回緊急依頼を受けた冒険者の数は合計で89名、報酬額は一人当たり金貨40枚です」
修羅は俺にそう伝える。
成る程、一人当たり400万ぐらいか…命を賭けるには少ないと感じるだろうが、それだけ稼げれば当分は楽に生活できるぐらいの金額だな。
それが89人となると…金貨3560枚、日本円にして3億5千万位か…そりゃあ直ぐにポンと払える訳じゃ無いか。
ギルドにどれくらいの利益が出ているのかは分からないが、どうせ修羅のことだから冒険者のためになることに金を使っているのだろう。
「よし、金貨3560枚だな」
俺はストレージを操作して金貨3560枚を取り出す。
ストレージからお金を取り出す時は通常手に出るが、その枚数が手に持てない位になると何故か皮袋に入った状態で取り出される。
俺はそれを利用して、ストレージから金貨を40枚ずつとりだす事でわざわざ金貨を分ける必要無くする事が出来るのだ。
「よし、これで終わりだな…修羅、早速冒険者達にこの報酬を渡してきてくれ、俺はこれからここにある魔石に魔力を注いどくから」
「主殿、本当にありがとうございます」
修羅はお礼を言ってくるが、この金は俺がゲーム時代に修羅達と冒険して稼いだ金だから修羅の物でもあるから礼を言われる必要は無いんだけどな。
俺に礼を言った修羅は金貨の入った皮袋を持って部屋から出て行った。
「さぁ、始めますか」
そして俺も魔石に魔力を注入する作業を開始する。