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「何、先ほども言った通り、ただお前の前に移動して貴様を蹴っただけだ」
ハーネストは俺に向かってそう言い、俺の反応を楽しむ様にニヤニヤと下卑た笑みを浮かべている。
他人を見下ろして馬鹿にしている様を見るとコイツが悪魔だというのも納得できるな。
俺は念のため、蹴られた場所を手で抑えながら痛がるふりをしつつハーネストに話しかける事にした。
「何故だ?」
「ん?」
「何故お前は世界征服をしようとしている…」
俺はそうハーネストに問う。
「何故そんな事をもうすぐ死ぬ貴様に話さなければならない?…だが今の俺は気分がいい、特別に教えてやろう」
ハーネストは話し始める。
「私が世界を征服しようとしている理由は…」
ハーネストは言葉を溜める。
「五つの国の最深部に封印されている邪神の魂を取り込む為だ」
「なっ!?」
俺は驚きの声を上げてしまった。
邪神はあの時に消滅させた筈…それが五つの国の最深部に封印されているだと…あり得ない、というかあり得てはいけない事だ。
あの邪神の強さは戦った俺自身が一番よく知っている。
どれだけ攻撃をしてもすぐに破損部位を修復させる驚異的な回復力。
そして常に精神汚染をしながらも俺のフル装備時のDFEを突破してくる攻撃力。
あの邪神がこの世界に復活した場合、俺がどうにかしなければ確実にこの世界は崩壊してしまう。
それをハーネストは復活させようとしているのか?だとしたら絶対に阻止しなければならない。
「邪神の魂を取り込む…か、そんな事をして何が有るって言うんだ!」
「決まっているだろう!邪神の魂を取り込み俺は最強の力を手にいれ、この世界を支配するんだよ!…邪神を倒したっていう聖龍ユウヤはもう存在しない、それならば邪神の力を手にいれれば俺に敵う奴は一人もいなくなる」
そう言ってハーネストは笑う。
成る程、こいつはここで殺しておいた方が良いか。
万が一にも邪神の魂をこいつが手にいれてしまえば確実に力は暴走し、世界を危機に陥れるだろう。
「聖龍と同じ名を持つものよ、いずれ世界を統べる俺様に殺される事を誇るが良い」
そう言ってハーネストは俺を殺そうと魔力を纏った腕を振り上げ…そして振り下ろす。
そして俺は振り下ろされる腕に対して魔力を込めて一時的に物質化させた魔力刀を振り上げ、ハーネストの腕を斬り飛ばす。
「っ!?」
ハーネストはいきなり腕を飛ばされた痛みからか顔を歪ませ、そして直ぐに後退をした。
「惜しいな、そこで退かなければ一瞬で楽になれたというのに」
「不意をつかれたか、だが惜しかったな、先程の一撃で俺様を倒せなかったお陰で貴様の勝機は無くなったぞ」
ハーネストは俺に向かってそう言ってくる。
どうやら奴は腕を斬り飛ばされたのを自分が油断していたからだと思っているらしい。
「ふん、腕を一本取ったぐらいで勝ったつもりなのか?それならば甘いとしか言いようが無いな」
ハーネストはそういうと魔力を無くなった右腕の方に集めて、少し力む。
すると斬り飛ばされた根元から新しい腕が生えてきた。
おお~、悪魔レベルの生命力となると無くなった腕を直ぐに生やすことが出来るのか。
それとも魔力を使用して腕を生やす魔法技術があるのかも知れないな。
ゲーム時代ではこの様に腕を生やすモンスターは居なかったから感心してしまった。
「見ろ、これで先程貴様に斬られた腕は復活した、どうだ、必死に機会を窺って取ることが出来た腕は致命傷にすらならない」
どうやらハーネストは俺が感心して呆けていたのを頑張って斬り飛ばした腕が再生されて絶望している様に見えたらしい。
俺の反応を楽しみにしている様に語りかけてくる。
さて、状況をきちんと理解出来ていないハーネストをぶっ倒してさっさとこのスタンスピードを収める事にしよう。