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あの後、男が逃げようとしたら先回りして退路を塞ぐという行為を繰り返し、俺からは逃げられないと悟った男が折れた。
「クソ!逃げられねぇ!」
「もういい加減諦めなよ、君は俺からは逃げられないんだから」
「俺がお前から逃げられない事はもう分かった、だが俺たちのボスに何の用が有る、それを話さない限り俺はここから動かねぇからな」
どうやらこいつらのボスはずいぶんと部下に慕われているらしい。
「何、俺は君たちと取引がしたいだけだよ、でも話を纏めるんだったらトップと話した方が早いだろ?」
「っち!…こっちだついてこい」
俺がそう言うと男は一応納得した様で歩き出したので俺は男についていく。
いりくんだ裏道を通っていく男についていくと貧民街の様な場所に出た。
貧民街、異世界をモチーフにした物語に出てくる描写は見たことが有るが実際に見たことは無かった。
やはりこういう世界だと貧富の差が激しいみたいだな。
男とともに貧民街を通っていき、一際大きい建物の前に着いた。
「ここが俺たちの事務所だ、今ボスに話を通す、少し待ってろ」
男はそう言って建物の中に入っていってしまった。
少しの間待っていると男が出てきてついてこいといって建物に入ったので俺も建物の中に入る。
建物の中に入り、一直線で階段を上がっていく。
1階と2階には何人かの男達が居たが、3階には人の気配があまりしないし、そもそも部屋が1つしか無かった。
ここがコイツらの言うボスの部屋という奴だろう。
「ボスはお前と二人きりで話がしたいらしい、くれぐれも手を出すんじゃねぇぞ」
男は下に戻っていったので俺は扉を開けて中に入る。
「あんたがあたしに用があるっていう男かい?」
部屋に入って俺に話しかけてきたのはなんと女だった。
金貸しのボスと言ったらゴツい男のイメージが有るから反応が遅れてしまった。
「ああ、そうだ」
「あんたの話は部下から聞いている、大方あの教会の借金を帳消しにしろと言いたいんだろうがそうは行かないよ」
まぁ普通この状況で来たらそう考えるのも分からなくはない。
正義感で行動する奴はいつでも居るからな。
「いや、俺はそんなことを要求しない」
「成る程、どうやら正義感だけであたしに会いに来た訳じゃ無いみたいだね。
あたし達が金を貸したのはあの教会に居た前の神父、だがあの神父が教会を担保にした以上、借金が返せなければあの教会と土地はあたし達が貰う権利が有る」
この世界に連帯保証人の制度は無い…が、神父が逃げてしまった以上引き継ぎで来たシスターに返して貰うしか無い。
しかもシスターは子供達と教会に住む事になるから、教会が無くなってしまえば子供達の住む場所がなくなってしまう為、新しく来るシスターが 優しい人ほど逃げることは出来ない。
どうやら前任の神父はクズだが頭は悪くないらしい。
「あのシスターには気の毒だけど私たちも商売だ、前任の神父が借りた金貨300枚、返して貰えないとこちらがやばくなっちまう、あたしも部下を持っている身だ、何よりも部下の生活を大事にしなければならない」
部下を持つ身として…か、俺も自分の会社を持っていたからな、部下の生活を守るという大切さや難しさは良く分かる。
というより借金が金貨300枚とは…3000万円だぞ、良く神父は借りられたな。
まぁあっちとしては金が回収できるなら誰でも良いのだろう。
「まぁあんたの気持ちは痛いほど分かる、俺も部下を持っていたからな。
金貸しとして借金の回収をするのは当たり前だし、シスター達に手を上げた形跡も無いから手荒な回収をしている訳じゃ無いんだろう」
「それで、結局あんたはなんでここに来たのかを教えてもらおうか」
「それは勿論、金貨300枚、俺が代わりに返すと伝えに来たんだ」
「は?」
俺がここに来た目的を話したらボスの女は間抜けな声を出して固まった