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「ええぇ!って、そんなに驚く事か?」
俺がフェルと家族だという事を伝えると女性は凄く驚いたが、そんなに驚く事だろうか?
確かに俺は人間でフェルはフェンリル、種族は違うし顔が似ているわけでも無い…うん、こうして考えてみたら俺とフェルの共通点ってあんまりないな。
そう考えると俺とフェルが家族…って言うのに驚くのは無理もない、のか?
「そりゃあ驚きますよ!主人にご家族が居るなんて初めて聞きましたし、そもそも、フェンリル種の獣人は主人以外に居るなんて聞いた事が無いのでてっきり…」
まぁフェルはあんまり自分のことを話す様なタイプじゃ無いからな。
それに、この世界に居るモンスターの強さを考えたらフェル以外のフェンリルなんて存在しないだろうし、フェル以外のフェンリルが居ないのならばフェルに家族が居ないと思ってしまうのもしょうがないだろう。
「俺はとある場所でまだ小さかったフェルと出会ったんだ、そしてその時から一緒に過ごしてきたから俺とフェルは家族なんだよ」
俺はフェルと仲間になった時の事を女性に軽く濁して伝える。
まぁ実際にはゲーム内のイベントで手に入れた限定ポイントを注ぎ込んだガチャで出た訳なんだが…そんな事を言ってもこの人は何を言ってるんだ?ってなるのが見えているからな。
「そうだったのですか、それで貴方と主人は家族と言う事ですか…それなら主人が牙を渡していた理由にも納得出来ますね」
女性は俺の話を聞いて俺とフェルが家族だという事に納得してくれた。
「ですが1つ聞きたいことがあるのですが、良いですか?」
そして女性は難しい顔をしながら口を開くと俺に1つ質問をしたいと言ってきた。
「別に構わないぞ」
女性が質問をして良いか聞いてきたので俺は良いと伝える。
「貴方と主人はとある場所で出会ってから一緒に生活をしていた…と言いましたよね?」
「ああ、そうだけど、それがどうした?」
女性がさっき俺が言った事を確認してきたので俺は合っていると女性に話す。
「という事は…つまり主人はその時既に…」
ああ、そういう事か…
俺は女性はなにやら歯切り悪く何かを言おうとしている様子から何を聞こうとしているのかを理解した。
「何故かはよく知らないけど、俺がフェルと出会った時、周囲に他のフェンリルは居なかったな」
俺の言葉を聞いた女性は表情を一気に暗くした。
多分女性はフェルの家族について聞きたかったんだろう。
俺と出会って家族として過ごした、という事は本当の家族と暮らしていないということだからな。
でも結局の所、俺たちの他にフェルの家族と呼べる者は存在しない。
別にフェルの家族が既に死んでいて、もうこの世界に存在しないということでは無い、本当の意味で存在していないのだ。
普通なら親のいない子供なんてあり得ないが、結局の所フェルはゲーム内のイベントガチャで生成された存在だ。
まぁ実際にはユグドラシルオンラインはゲームでは無いので正確にはフェルはデータでは無いのだが…
ユグドラシルオンラインというのはゲームを媒体としてゲームをプレイするプレイヤーの精神を異世界に飛ばす、というものだからゲーム内にいる生き物はデータでは無く異世界を生きている存在という事になる訳だ。
でもフェルは俺がイベントガチャを引いた結果あの世界に生まれた存在だから血の繋がった家族は存在しない…という訳だ。
まぁ俺がガチャを引いた結果フェルが生まれたんだから、実質俺が父親って事でいいんじゃないか?
俺はそんな事を考えながら、女性の様子を見ると、女性は未だに暗い表情をして俯いていた。
多分この女性はそんなに小さい頃から家族が居なかったなんて…みたいな事を思ってるんだろうな。
女性は何よりもフェルの事を第一に考えているみたいだから俺の予想は多分間違って居ないと思う。
「おいおい、そんな顔するなって、その時フェルは1人だったかも知れないけどそれからは俺や仲間たちがフェルの家族だったんだからな」
俺は未だに暗い表情をしている女性にそう声をかけた。
フェルに血の繋がった家族が居なかろうと、俺がフェルの家族であるという事実は変わらない。