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「避難所に空間魔法を掛けている魔法陣を発見したが、人の気配も姿も無かった…そして、人の姿が魔法陣の近くに無かったという事は避難所にいた人たちが生贄にされていないという事だ」
俺がそう言うとヤヨイはホッとした様に息をつく。
ヤヨイは犠牲になっている人が居なくて良かったと安心しているのだろう。
「あれ?それでは何でマスターは人の姿が無かったと言った時、暗い表情をしていたのですか?」
きた!
俺はヤヨイの言葉を聞いてそう考えた。
ここでヤヨイに言う言葉を間違えたら俺は確実にヤヨイに怒られる。
だから俺はヤヨイが納得できる様な理由を言わなくてはならない。
「ああ、その事か…いや、生贄になっている人が居なかったのは良かったんだよ、犠牲になっている人たちが居なかったって事だからな…だけど」
「だけど?」
「ヤヨイ、生贄になっている人達が居なかったと言う事は、避難所に空間魔法を掛けている魔法陣に生贄以外の方法で魔力を供給しているという事になるんだ」
「確かに可笑しいですね…さっきマスターが言っていた様にあの規模の魔法を発動させる為の魔力を魔石から得ることは出来ない、だからマスターは人を生贄に魔法を発動させていると考えたんですよね…ですが生贄になっている人が居なかった、という事はどうやってあの魔法を発動させ続けているのでしょうか?」
ヤヨイは小さい声でどうやったら生贄以外の方法であの規模の空間魔法を発動させられるかを考え始めた。
よし、コレでヤヨイの意識をそらす事が出来た、後は話を続けてヤヨイを騙そうとしていたと悟られない様にすれば良い。
「魔法陣に魔力を供給し、避難所に空間魔法を発動させ続けているもの…それは俺たちがこの国に来た目的の物だった」
「私たちがこの国に来た目的…まさか!?」
ヤヨイはそう聞いてすぐに思いついたのだろう、驚いた様に声を上げる。
「そう、あの避難所に空間魔法を掛け続けている魔法陣に魔力を供給している物…それは邪神の力だった」
俺は真剣な雰囲気を醸し出しつつヤヨイにそう伝える。
「邪神の力は厳重に封印されている筈…なのに…何で?」
ヤヨイは邪神の力が魔力の供給源として使われていると聞き、困惑している様だ。
まぁヤヨイの反応は正しい。
暴走すれば周囲に甚大な被害を与える邪神の力をエネルギーにして、魔法を発動させるなんて想像も出来ないだろうし、仮にやろうと思っても実現できる者は殆ど居ないからな。
「誰かが邪神の力のエネルギーに目を付けたんだろう、邪神本来の力の一部だとしてもあの力は膨大だ、それを利用できないかと考え、それを実際に実行した奴がこの国に居る」
「そんな!?間違えたらこの国が更地になる可能性だって有るんですよ!?」
「ヤヨイの言いたい事は分かる、一歩間違えたら邪神の力が周囲に放たれ、公国自体に危機が迫る、そんな物をエネルギーとして利用しようとしたんだからな…だが、公国は実際にそれ行って邪神の力からエネルギーを取り出す方法を見つけた」
ホント、邪神の力をエネルギーとして利用するって考えた奴は頭おかしいんじゃ無いかって思うけど、それを実現出来るだけの技術が有った。
これを実現した奴は正に天才って言うのだろう。
「確かに邪神の力は膨大で暴走したら危険だが、邪神の力からエネルギーを取り出す方法が見つかったのが問題なんじゃ無い」
邪神の力から得た物だと言っても、それは純粋なエネルギーだ、使う者の意思によって薬にも毒にもなる。
今回の事で本当に問題なのは…
「ヤヨイ、本当に問題なのはもうすぐこの国が戦争をするという事だ」
「戦争…ってまさか!?」
そう、この国はもうすぐ教国と戦争をする。
つまりは…邪神の力が戦争に使われる可能性が高いって事だ。