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ブラットさんは俺の話を理解していた様だったが、俺はまさかここまで話せるとは思っていなかった。
この世界に義務教育なんて物は存在しない。
だからこの世界では知識を持っている人、持っていない人の差が激しい。
ブラットさんは貴族という訳では無いから学校に通っていた訳では無い、なのに先入観やら物事の本質などある程度の知識が無いと理解できない言葉を使っていたことに驚いてしまった。
まぁ冒険者は基本的にモンスターと戦ったりするのが仕事では有るが、モンスターの生態や攻撃方法などを調べるために資料を読んだりはするらしいからな、そこで知識を付けたのだろう。
分からなければ誰かに聞けば良いし、聞けば教えてくれるだろう。
そうして冒険者として生活していく上で必要な知識を蓄えてきた結果、今のブラットさんが有るのだろう。
となると長い期間冒険者をしていた者には一定以上の知識が有るのだろうか?
…まぁそれについては今考えなくても良いか。
今は冒険者全体がどの位の知識を持っているかではなく、ブラットさんの話が優先だ。
「じゃあ早速始めますよ」
俺は気持ちを切り替えてブラットさんに話しかける。
「おう、分かった」
俺はブラットさんの返事を聞いてからブラットさんに話を始める。
ブラットさんに父親が自分の事を愛していると思わせるために…先ずはガンテツさんの話からだな。
ガンテツさんの話ではブラットさんのお父さんが、ブラットさんが冒険者になる事を反対した理由はブラットさんに冒険者という危険な仕事に就かせたく無いからと言っていたからな。
「では先ずはガンテツさんがブラットさんに話していた話から始めますね」
俺はブラットさんが頷いたのを確認して、話し始める。
「ガンテツさんの話では、ブラットさんの父親はブラットさんを冒険者という危険な職業に就かせたくないから冒険者になるのに反対したって言ってましたよね?それについてブラットさんはどう思います?」
俺はブラットさんそう質問する。
「確かに冒険者は危険な仕事だ、モンスターと戦ったり、ダンジョンに潜ったりな、そしてそれで死んでしまう人は大勢いる…だからと言って本当に俺が冒険者になるのを諦めさせる為だったら普通あんな言い方はしないだろ」
成る程、ブラットさんは本当に冒険者になるのを諦めさせるだけならもっと他の言葉があるし、あんな言い方はしないだろうって言いたいんだな。
「まぁそうですよね、普通ならそんな言い方はせずにもっと他の方法で諦めさせようとしますよね…ですがブラットさん、貴方のお父さんの目的がブラットさんが冒険者になるのを諦めさせるという物じゃないならどうです?」
「何をいきなり…」
ブラットさんはそんな訳無いと言いたげの表情でそう言う。
だが考えて見て欲しい、先ほどブラットさんが言っていた通り、冒険者になるのを諦めさせようとしたらもっと他の言い方をする筈、なのにブラットさんのお父さんがあんな言い方をしたのには理由が有るんじゃ無いか?
勿論ブラットさんのお父さんが口下手で、伝えたい言葉がうまく言えずあんな言い方になったという可能性も有るが、俺はその可能性は少ないと思う。
「ブラットさん、貴方の話を聞いていた限り、ブラットさんのお父さんは真面目であまり多くを語る様な人じゃ無さそうです、そうだとしたら何故わざとブラットさんの心を傷つける様な言葉を言ったか…そこには何か理由が有るんじゃ無いですか?」
俺がそう言うとブラットさんは少し考えて口を開く
「確かに…普段の親父ならお前が冒険者になることは認めない、位の言葉を言って酒蔵に行くかも知れない」
ブラットさんは普段の父親ならこう言うかもという言葉を言った。
まぁそんな事を言われても喧嘩にはなりそうだがそれは良い。
どうやらブラットさんは俺の話を聞いてなんらかの違和感を感じたみたいだ。