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酒場に入ってブラットさん達の姿は直ぐに確認できた。
その場所は朝にブラットさんがお酒を飲んでいたカウンター席だ。
そこではブラットさんがフィオレさんと思わしき人と抱擁していた。
成る程…今現在の状況を見るにヤヨイがフィオレさんを連れてきたのはついさっきだったのだろう。
今まさに感動の再開をしていた所に俺が入ってきたのだろう。
会ってから今までずっと抱き合っていたのなら流石の俺も引いてしまう。
抱き合っているブラットさんの隣にはヤヨイが暖かい目をしてブラットさん達を見ていた
ん?俺の分身の姿が見えないぞ?
この酒場の近くに分身の反応が有った筈なのだが、分身の姿が見えない。
「どこかに言ったのか?」
分身の居場所が分からない俺は分身の居場所を探すことにする。
そして確認した分身の居場所は…何処だここ?
分身はここから少し離れた場所に居た。
どうして分身がそこに移動したのかは分からないが、俺は分身を消す事にした。
なぜ分身があんな場所に移動していたのか…それを俺は分身を消すことで分身の俺の記憶を見ることにしたのだ。
「成る程…そういう事か」
分身の記憶がオリジナルである俺に統合され、何故分身があの場所に居たのかが分かった。
俺が分身を作り、ヤヨイの事を探しに行かせた後、分身は直ぐにヤヨイとフィオレさんを発見した。
まぁブラットさん達が再開したみたいだからそこまで距離は離れていなかったのだろう
。
そしてヤヨイ達を発見した分身は合流する事もなくヤヨイ達の後ろをついていったらしい。
分身の記憶では後々オリジナルである俺が合流する時に、混乱が起きないようにヤヨイ達と合流するのを避けたらしい。
それで、途中までヤヨイたちについていっていた分身だが、とある人物を見つけたことで進路を変えた。
その人物とは俺とヤヨイが先日屋敷に侵入して魔法を掛けた相手、つまりはレントルード侯爵だ。
どうやらレントルード侯爵は俺が掛けた魔法によって悪夢を見るようになったようだ。
それで、今まで一度も見ることがなかった悪夢を見たのは何らかの呪いを掛けられたからだと言っていたようで、公国にいる凄腕の呪術師に呪いを掛けられているかを調べさせると言って何処かに向かっていたらしい。
随分と勘が良いな…それにしても一度悪夢を見たから呪いを掛けられたなんて考えるなんてレントルード侯爵の思考回路を疑ってしまうな。
まぁ実際には似たような物を掛けられている訳だが…
というより普通ならレントルード侯爵の解釈は呪いではなく被害者達の怨念ではないのだろうか?
まぁレントルード侯爵がどう考える考えるなんて特に興味は無いから別に良いが、分身体の俺はヤヨイ達についていくのを止めて、レントルード侯爵の後をつけることにしたらしい。
そして、レントルード侯爵を追跡している間に俺が分身スキルを解除したみたいだ。
う~ん、これだったら解除しなかった方が良かったな…が、解除してしまったのはもうしょうがない、レントルード侯爵を追跡するのは諦めるとしよう。
まぁレントルード侯爵の事は放っておいて、現状の問題はブラットさんの事だ。
「どうやら無事に再開できたみたいだな」
俺はブラットさん達の方に歩きながらそうヤヨイに声をかける。
「ええ、あの避難所でフィオレさんを探していたのですが、早目に本人が見つかって良かったです」
ヤヨイは俺にそう言うと少し安心したように息を吐く。
「そうだな」
今の二人を見たらフィオレさんをブラットさんの元に連れていこうと思ったのは本当に正解だったと思う。
「フィオレ…大事な話があるんだ」
俺とヤヨイがそうやって話しているとブラットさんが真剣な雰囲気でフィオレさんに話しかけ始めた。
「は、はい」
「えっと…本当からもっと雰囲気が良い場所で渡すはずだったんだけど…」
ブラットさんはそう言いながらポッケから四角い箱を取り出す…
「フィオレ…俺と結婚してくれ」
ブラットさんは指輪の入った箱を開き、フィオレさんに見せながらプロポーズをした。
そしてプロポーズを受けたフィオレさんはいきなり言われたからか固まってしまった。
だが、次第に状況が理解出来たのかフィオレさんはブラットさんに綺麗な笑顔で返事をした。
「…はい、私をブラットのお嫁さんにしてください」