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兵士の言っていたとおりに避難所を真っ直ぐ進んでいた俺とヤヨイだが、2~3分程歩いた所で広い所にでた。
其処には数百人は軽く入れるであろう場所が有った。
「すごいな…」
俺は素直に驚嘆の声を上げる。
避難所を外から見たとき、確かに大きかったが、ここまで大きそうな印象は無かった。
だが、中に入ってみればどうだ、この部屋だけでも数百人はくつろげるだろうし、遠くには他の場所に通じる通路も見える…
つまりは此処と同じ様な部屋があの通路の先に有るのだろう。
「空間に干渉するタイプの魔法で空間を拡げているのだろうか?」
避難所のあの外見から見て、此処の様なスペースはそれ程確保できない筈だ。
なのに他にもここの様な場所に通じるであろう道がある。
つまりはなんらかのファンタジー要素でこの空間を拡張していると考えるのが妥当か。
だが、空間に作用する様な魔法は総じて使用する魔力量が膨大だ、この様な空間を何個も用意しているとなるとどれ程の魔力が必要になるか…
俺はふと疑問に思う。
これ程の魔法を発動させる為の魔力のリソースは何だ?
はっきり言って個人で発動できる魔法では無い…しかもこの世界の魔法使いはそれ程魔力を持っている訳では無い。
この規模の魔法を発動させ続けているならまともな方法ではない筈だ。
いよいよキナ臭いにおいがしてきたな。
最悪の場合この魔法の維持に必要な魔力を大量の生き物を生贄にして得ている可能性も出てきたぞ。
人の命や魂には莫大なエネルギーが内包されている。
まぁ何十年…多くて100年以上も活動し続ける生き物の核だからそのエネルギー量は凄まじいだろう。
だからこそ、その魂のエネルギーを使えば、通常なら出来ないような事も起こせるという訳だ。
だが、魂が魔力に変換されてしまえばその魂は消失してしまい、二度と生まれかわる事が出来なくなる。
流石にこんなやり方をしているとは思いたく無いが、この規模の魔法を発動させ続けるのはこの世界の魔法使いが何千人居ても足りない筈だ。
例え魔法使い達がローテーションで魔力を供給しているとしても供給される魔力より消費される魔力の方が多いだろうし、そもそも魔力の回復速度を考えるとローテーションすら組む事すら出来ないだろう。
はっきり言って魔法系の転生特典を貰ったニックでも数分保てるかどうかってレベルの魔法だ。
生贄の他には空気中の魔力を吸収して魔法を維持するという方法が有るが、それには魔力を吸収し、この魔法に魔力を供給する為の核が必要になる。
当然大量の魔力の吸収、供給をするにはそれ相応の核が必要になってくるのだが…この世界にそれ程良質の核になる素材が有るとは思えない。
「ヤヨイ…急いでフィオレさんを探すぞ」
俺はヤヨイにそう話しかける。
今俺が知っている情報では、生き物を生贄にして魔法の維持に必要な魔力を得ていると言う説が濃厚だ。
そうなれば今この瞬間にも魔法を維持するために誰かが犠牲にになっている可能性が大きい。
その誰かがフィオレさんでは無いという確証が無い今、急いでフィオレさんを探し、ブラットさんの元に連れて行く必要がある。
「いきなりどうしたんですか?」
「ヤヨイ、ちょっとこっち来い」
「あっ、マスター?」
俺はヤヨイの手を掴んで人の居ない方に連れて行く。
俺はヤヨイを連れて人のいない場所を目指して歩く。
そして周りに人の気配がしない所に着き、止まる。
「いきなりどうしたんです?」
ヤヨイはどうしてこの様な場所に連れてきたのかを聞いてきたので、先程俺が考えた事を話す。
「…行きましょう、マスター、一刻も早くフィオレさんを探し出して魔法を止めないと…」
そう言って行動しようとしたヤヨイの手を掴んで止める。
「マスター、急がないとこの時に」
俺はヤヨイの言葉を遮ってヤヨイに話す。
「それは分かってる、だがこう言う時に闇雲に動いても効果は薄い、だから今ここで簡単な打ち合わせをしてから行動に移るぞ」