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「っと、ここがそうか?」
ヤヨイが避難所の場所を聞き、俺の前を先導していたが、とある建物の前に止まったのでヤヨイにそう尋ねる。
「はい、聞いた話が間違っていないならここであっている筈です」
ヤヨイが話を聞いた人がわざわざ嘘の避難所の場所を教えるメリットは無い、だから多分この建物が避難所の筈なんだが…
「誰も居ないな」
「はい、誰も居ませんね」
俺たちの目の前にある避難所と思わしき建物は入り口の門は閉まっている状態で、本来なら門の前に居るはずの見張りの兵すらも居ない状態だった。
「これじゃ入るに入れないぞ?」
無理やり入っても良いが、それは最終手段だ。
だからと言って兵士が居ないんじゃ入れてもらえない。
「お前たち!そこで何をしている!」
どうしようか考えていた時、後ろから声が聞こえてきた。
俺たちは声の方向を向くとそこには鎧を装備している男性の姿があった。
あれが見張りの兵士か?
男はこちらに向かって歩いてきている。
「ヤヨイ…あの兵士が近くに来たら演技をする、ヤヨイは俺の後ろに居てくれ」
俺は兵士に聞こえない様に小さい声でヤヨイにそう伝える。
「分かりました」
ヤヨイはそういうと俺の後ろに回る。
「既に市民の避難は終了している筈だ、お前たちはここで何をしている?」
どうやらこの兵士は俺たちの話を聞いてくれるらしい。
俺は兵士に対して演技をしつつ話をする事にした。
「あの…俺たち、昨日まで旅行をしていて…帰ってきたら戦争とか聞いて、避難所に来たんですけど…」
演技の設定は旅行に行っていたが今日公国に帰ってきて戦争が始まると聞き、避難しに来たという物だが。
いきなり兵士に声を掛けられたという事で緊張でうまく喋れていない感じで話しているが。
「そうか…それは大変だったな、ほら、門をあけてやるから早く中に入りなさい」
俺の演技が功を奏したのか、そう言うと兵士は避難所の門を開ける為に門の方に歩いて行った。
「随分とあっさり開けてくれるんだな」
ブラットさんの話を聞いた感じだと話を聞かずに追い出されたという事だったが、本当にあっさりと門を開けてくれそうだな。
「そうですね…ブラットさんの話では話を聞かれる事も無く門前払いされたんでしたっけ?」
「ああ、俺がブラットさんから聞いた話ではそうらしい」
やはり冒険者は絶対に通すなという命令でも出ているのだろうか?
それとも見張りの兵士が違う人なのだろうか?
まぁ今はそれを考えていてもしかたない。
俺たちの目的はブラットさんの彼女さんを探し出し、ブラットさんに会える様にする事だ。
「ですが今回はすんなりと通した…私たちを完全に避難しに来た人と思っているのでしょう」
やっぱり普通の格好で来て正解だったな。
ヤヨイとそんな会話をしていると兵士が門の横に付いていたレバーを引いた。
すると避難所の門が開いていく…門が開ききった所で兵士がこちらに向かって歩いてきた。
「これで門は開いたぞ、他の避難している人達は中に入って真っ直ぐ進めば出会える筈だ」
「あ、ありがとうございます」
俺は兵士にお礼を言う。
因みにヤヨイは後ろでぺこりとお辞儀をしている。
「おう、元気にやれよ!」
兵士がそう言ってくれたので俺は一度兵士にお辞儀をする。
そして俺たちは避難所の中に入る。
「良し、これで無事に避難所に入ることが出来たな」
「そうですね、特に問題も起きなかったですし、マスターの作戦勝ちですね…というかあの演技、普段のマスターと違いすぎて凄く違和感がありました」
「言うなよ、流石にあれは俺でもやりすぎたかなって思ってるんだから」
今考えたら流石にあそこまで緊張している演技をしなくても良かったんじゃないかと思う。
「まぁうまく言ったんだし良いだろ…それよりも、問題はフィオレさんがこの避難所に居るかって所だろ?」
1つの避難所に全ての国民を避難させる事は出来ないから、フィオレさんがこの避難所に居るかは分からない。
「そうですね、ここに居なければほかの避難所にも向かわないと行けないですからね」
俺たちはそう言いながらも兵士に言われた通りに真っ直ぐ避難所を進んでいく。