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「成る程、そう言う事ですか…いえ、お客様、失礼致しました」
俺の行動を見た商人はそう言って謝ってくる
良し、商人はちゃんとこのカバンをマジックバックと思ってくれたみたいだな。
現在の俺の手持ちは肩に掛けているバックだけだ。
勿論肩に掛けているバックに金貨100枚など入っている訳では無い。
もし入っているならバックはギュウギュウになっているし、商人なら分かるだろう。
だからこそ、商人は俺を金を持っていないのに来た冷やかしか犯罪者と思ったのだ。
だが、先ほど、俺がバックを叩いた事で、商人に俺のバックはマジックバックだと思い込ませた。
マジックバックなら、通常なら入らない様な量の荷物が入るから、金貨100枚を持っていてもおかしくないと思わせた訳だ。
それに、マジックバック自体が超高級品なので、マジックバックを持っているなら、金貨100枚以上を用意するのは容易いと考えたのだろう。
実際に俺が王国で見たマジックバックは、容量が少なくても金貨100枚以上だったからな。
「いえ、このような格好では疑ってしまうのは仕方ありませんよ…ですが、後ろに居る護衛の方は少し力を抜いても良いんじゃ無いですか?ここは天下の往来ですし、こんな所で犯罪を犯そうとする人なんてそうそう居ませんよ」
謝罪を受けた俺は暗に護衛の態度が悪い事を指摘をする。
護衛はさっき、商人が指示していないのに剣の柄に手をやっていたからな。
商人は信頼が重要だから、犯罪者かも知れないとは言え、まだ何もしていない客に向かって剣を向けるとなったら信用は無くなり、取引が上手くいかなくなるかも知れない。
「そうですね、ご忠告ありがとうございます…ここ最近は戦争が始まるという事で少し雰囲気が悪くなっていた様です…皆さんも聞きましたね…」
商人は後ろに居る護衛達にそう言った。
護衛達は商人の言葉を聞いて頷く。
「それでお客様、私の雇った護衛がご無礼をしてしまい申し訳ございません…つきましては今回の取引では少し勉強させていただくという事でよろしいでしょうか?」
護衛達に一言注意をした商人は俺を見てそう言ってきた。
これは商品を値引きするから口外するな、という事だろう、値引きという名の口止め料って感じだな。
「いえ、自分も気にしている訳では無いですし、値引きはして貰わなくても大丈夫ですよ…もちろん他の人に言ったりもしないので安心してください…ですが、取引が終わったら1つ聞きたいことが有るのですがよろしいですか?」
俺は値引きは良いから聞きたいことがある事を商人に話す。
「そうですか、ええ、全然構いませんよ、1つと言わず何個でもお答えしましょう」
商人は直ぐにそう返事をしてくれた。
よし、これで目標である情報を聞き出すというのは達成出来そうだな。
商人からしたら商品の値引きをしなくても良くなり、聞かれた事に答えるだけで良いのだからどちらも損は無いだろう。
「では商品を見せてもらえますか?」
「ええ、もちろんでございます、私の扱う宝石は公爵様も大変気に入った程の良品ばかりですよ」
商人はそう言ってカバンから大きめな箱を取り出した。
商人が箱を開くとそこには指輪やらネックレスやらと言った宝石があしらわれた装飾品が並んでいた。
中に入っている商品は露店に並んでいる物よりも何倍も高い値段が付いている物ばかりだ。
成る程、露店では一応盗まれたとしても懐が痛まない程度の物を並べ、大口の取引や貴族などに売れる様な物はカバンに入れていたと言うことか。
「それでお客さん、彼女さんのプレゼントとおっしゃっていましたが、プロポーズですか?」
「いえ、自分は冒険者なんですけど、彼女とパーティを組んで3年目になりまして…その記念にプレゼントしようとおもいまして」
俺はその場で考えた設定を商人に話す。
「彼女さんも冒険者の方なのですか…でしたら丁度ピッタリの物が御座いますよ」
商人はそう言うと、カバンから1つの指輪を取り出した。