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「ヤヨイ、目標は達成した、戻るぞ」
レントルード侯爵に魔法を掛け終わった俺は部屋の外で見張りをしているヤヨイに声をかける。
「分かりました、すぐにマスターの元に向かいます」
ヤヨイはそう言うと扉を開けて部屋の中に入ってきた。
「ヤヨイ、俺が部屋の中に居た時に誰か人は来たか?」
俺はヤヨイにそう聞く。
「はい、見回りの兵士が来たので、魔法で追い返しておきました」
成る程、しっかりと対処した訳だな。
「ちゃんとバレないようにしたか?」
今回俺たちは誰にもバレない様にこの屋敷に侵入し、誰にも気づかれない様に脱出しないといけないからな。
貴族の屋敷に侵入した者が居たとなれば多少大きな問題になりかねないからな。
そこの所は普段よりも気を付けないといけない。
「はい、それについては問題有りません」
見回りの兵士は仕事として必ずレントルード侯爵の寝室の前を通る。
屋敷の中の見回りなのだから当然だ。
ヤヨイ自身は気配遮断などで兵士に見つかる事はないが、部屋の前には俺とヤヨイが眠らせた兵士が居るからな。
縛られた状態の兵士を見つければ何か有ったと直ぐにわかってしまう。
普通なら、見回りの兵士に気づかれない様に部屋から遠ざけるなんて出来ないだろう。
どれだけ隠密行動に長けていても、部屋の前で待機していた兵士が気絶していたり、寝ていたりしたら直ぐに分かるからな。
だがヤヨイならそれが出来る。
ユグドラシルオンラインでは魔法スキルの熟練度が高ければ並大抵の現状は魔法で再現する事が出来る。
その代わりに消費する魔法が大きいというのが難点だが、俺やヤヨイのレベルはカンストしてるから余裕で行使する事が出来る。
ヤヨイの事だから見回りの兵士に魔法で兵士がいる様に幻影でも見せたのでは無いだろうか?
見た感じここの兵士にはヤヨイや俺が使う魔法を見破る事が出来る奴は居なさそうだしな。
見回りの兵士は幻影を見て、きちんと警備をしていると思ってそのまま通り過ぎたのだろう。
「じゃあ早速脱出…の前に…」
転移で脱出しようと思ったのだが、俺はとある事を思い出したから先にそれをやる事にしよう。
「マスター?」
俺は部屋の外に出て、扉の前に眠っている兵士達の拘束を外す。
「ああ、そう言う事ですか」
このまま俺たちが脱出して、朝に兵士が拘束された状態で見つかったら忍び込んだ意味が無いからな。
拘束を外して、見張りをしていたが、居眠りをしてしまったという事にさせてもらおう。
他の人に発見される前に兵士達が起きれば、眠っていたという事を隠すだろうし、見つかった場合には誰かに眠らされたと発言をするだろう。
だが、誰かに眠らされたと言っても屋敷に侵入者が来た形跡は無いし、兵士達の言っていることは保身の為の嘘という風に判断される筈だ。
「よし、これで大丈夫だろう…ヤヨイ、行くぞ」
「はい」
俺が声を掛けるとヤヨイは俺の腕を取る。
ヤヨイが俺に触れているのを確認した俺は転移魔法を発動させ、屋敷から脱出。
その後、俺たちは異空間にある屋敷に戻って、眠る事にした。
「マスター…マスター…朝ですよ、起きてください」
遠くから俺を呼ぶ声が聞こえる…
「マスター、朝です!」
そして微睡みの中から俺の意識はぼんやりと現実に戻される。
俺が目を開けると、目の前にはヤヨイが立っていた。
「…ヤヨイか?おはよう」
俺はヤヨイに挨拶をする。
「おはようございます…もう朝ごはんは出来ていますので顔を洗ってから降りてきてくださいね」
「…分かった、直ぐ向かう」
俺の返事を聞いたヤヨイは一度頷いてから部屋を出て行く…
「ふぁぁ~」
俺はあくびをしながら魔法を発動させ、温水を顔に当てる。
そして濡れた顔を風魔法で乾かし、温水を窓から外ひ投げ捨てる。
「…行くか」
顔を洗った事で意識が完全に覚醒した俺はヤヨイの待っているリビングに降りていく。