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一時休戦しませんか?


 天都を捕まえたのは昼休みだった。単身で彼女のクラスに乗り込んで「話しがある」と、屋上まで引っ張ってきた。


 彼女はそれに抵抗しなかった。


 ただ屋上についても、彼女はそっぽを向いていて、こちらを見ようとしなかった。そんな態度が気にくわない。


「風紀委員から怒られたらしいな。ざまあみろ」


「先輩こそ、ちゃんと副会長から許してもらえましたか?」


 そんなジャブの打ち合いから始まった。


「お互い、昨日は忙しかったみたいだな。どうだ、成果は?」


「お答えする必要はないと思いますが?」


「あるな。大いにある。忘れたか? 私たちは勝負の真っ最中だ。それを忘れて他の何かに熱中してもらっては困る」


 彼女は鼻を鳴らすと、やっとこちらを向いた。そして馬鹿にしたような視線で挑発してくる。


「その方が先輩としては助かるんじゃありませんか?」


「勘違いするな、小娘。君が本気を出しても、私が勝つんだ。変な言い訳を作られたら癪だから、忠告してやってるんだ」


 強がりでもなんでもない。これは事実だ。この勝負は私が勝つ。スクープ合戦で私が負けるはずはないし、そんなことは許されない。


 ただ、さすがにカチンと来たのか、彼女も黙っていなかった。


「忠告をしたのはわたくしです。あの男は狙うなと言いましたよ。先輩こそ、昨日は何をされていたんですか? どうせ忠告を無視したんでしょう」


「目に物見せると言ったぞ」


 彼女はそれにかぶり振って、苦渋に満ちた表情をした。


「……わたくしの言葉が過ぎたのなら、謝ります。ですから、関わるのはやめてください。あの男は本当に危ないんです」


「三年前みたいになるのか?」


 そう切り込むと彼女は信じられないという顔をした。


「まさか……」


 呆然とする彼女をよそに、私は胸ポケットからメモ帳を取り出し、あるページを開いた。


 昨日仕入れた情報を整理したページだ。


「三年前の七月十日。幹本は路上で未成年の少女に手をあげるという暴挙にでた。通りかかった会社員が彼を抑えて、そのまま警察に通報。幹本は署に連行された。幸い、保護された少女に大きな怪我はなかった……。本来なら逮捕されるはずが、幹本は何事もなかったように許された。親のコネだろうな。ただし、条件があった。二度とその少女に近づかないことだ」


「…………っ」


「少女は納得しなかったが、幹本の親は芸能事務所の社長。影響力は大きい。母親の仕事の関係で女優の知り合いが多く、自信も将来の夢が女優である彼女は、その影響力を考慮して、それ以上は何もできなかった……。彼女の両親は娘の身を案じ、高校は全寮制の女子校に入学させた」


 読み上げていく内容が事実と相違がないかどうかを、彼女の表情からよみとる。苦虫を噛み潰したような顔をしているところを見ると、どうやら概ね事実らしい。


「この少女というのが、君だな」


「……だから、マスコミは嫌いなのです」


 顔を伏せた彼女は、小さく肩を震わせていた。


「これが、君があの男に執着する理由か」


「あれはゲスです。わたくしだって、二度と会いたくなかった……」


 あの日の夜、幹本の姿を見た彼女がひどく驚いていたのを思い出す。あのときまでは余裕だった彼女の態度は、あれ以降、こんな感じでずっと不安定だ。


 彼女の中では、あの男の存在はそれだけ嫌悪すべきものなんだろう。


「幹本と君は芸能関係者のパーティで出会ったそうだな。そこで幹本が君を気に入って、しつこく言い寄ってきた。諦めが悪かったので、仕方なく一日だけ相手をしたら、そういう事件が起きてしまった」


「……どこまで調べてるんですか」


「必要なものは全て調べる。記者だからな」


 そして、どこまで必要かなんて調べてみないとわからないから、結局、全部調べることになる。


「そこまで調べているなら、あの男の危険性はわかってるはずです。関わらないでください」


「いいや、私より君だ。すぐにあの男のことを忘れろ」


 メモ帳をパタンと閉じて、間違いなく反感を買う忠告をしたら、案の定、彼女は眉をつり上げた。


「いくら先輩でも、そんなことを言われる筋合いはございません」


「馬鹿。幹本の制約は、君に近づかないことだ。君から近づいてどうする。あの男がそんなチャンスを逃すと思うのか」


 そんな男じゃないはずだ。きっと、これを機にまた彼女を狙うはずだ。


 彼女があの男のことを許さないと思い行動することは、どうしようもなく危険だ。


「関わるな。あれは私がなんとかしてやる」


 彼女があの男に関わるのは、不知火先生の存在だ。危険な男と、知り合いの先生が付き合ってるから、じっとしていられない。


「約束してやる。あの男の危険性は、私が先生にちゃんと伝える。だから、もう動くのをやめろ」


 どうしてそんなことを私がしないといけないのか、自分でもわからない。ただ、これ以上彼女が危険な目にあうのはダメだと思った。


 単純にそれが嫌だった。


「…………」


「約束を破ったら、あの写真をばらまいてもいい。だから、あの男のことは忘れろ」


 これ以上ない譲歩のつもりだった。


 彼女は何も返事をしなかった。さっきと変わらず睨むような視線だけを向けてくるだけだ。


 そして足音をたてながら屋上から立ち去った。



10



 自分らしくないと思う。


 新聞は誰か一人のために作られるものじゃない。広く公に、事実を開示する必要があることを報じるんだ。そのために記者がいる。


 ただ、今の私がしていることはどうだろうか? 


 幹本のことは公のためにやっていることだろうか?


 


 風紀委員に目をつけられたので、私は少しの間だけ大人しくしていた。


 しかし、土日に入った瞬間にそれをやめた。即座に寮から外泊許可をもらい、街へ繰り出した。


 余計なことをしていられない。この二日間で決着をつける。


 狙うは幹本の醜聞。それを掴み、まずは不知火先生に知らせる。そしてそのネタを、知り合いの週刊誌の記者に売り飛ばす。


 これで先生は守れるし、幹本にも社会的な制裁がくだされる。天都の溜飲を下げるには、それくらい必要だろう。


 私が張り込みの場所に選んだのは、あの女性から聞き出したホテルだった。


 さすがにホテルの前で張り込むことはできない。ただ、近くにちょうどいいビルがあったので、そこを利用することにした。


 ビルの側面にあった階段の踊り場からはホテルの入り口がよく見えた。


 カメラを用意して、そこで待機する。


「……長くなるな」


 静かにそう覚悟をした。まだ午前中だ。とりあえず、お昼まではここで待機。彼が昨晩からホテルに入っていて、出てくることを祈るだけの時間。


 祈るというのは柄じゃない。一応、うちの高校にも礼拝堂はあるが、利用したことはなかった。


 ただ、どうやら女神様はいるみたいだった。


「――きた」


 張り込みをはじめて一時間ほどで、チャンスは訪れた。


 なんと、狙い通りに幹本が現れた。しかも女性と一緒に。二人で、とても楽しそうに肩を組んでいる。その姿をしっかりと撮影した。


「……よしっ!」


 これで第一関門をクリア。あまりに順調で拍子抜けしてしまう。ただ、ホッとしている暇はない。私はすぐに荷物を持って、ビルから脱出した。


 その間に幹本たちは車に乗り込み、どこかへ消えていった。


 ただ、それは大きな問題じゃない。彼の動きくらい、予想できている。

マスコミの方に本気で関わったことってありますでしょうか?


僕は一度あるんですが、本当に、何でも知ってますよ、あの人たちって。

マジで恐ろしいなって恐怖を感じたことを今でも覚えてます。

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