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新聞部の本気

8




 行動力で負けたら記者として失格だ。


 知りたい情報があるなら、掴みたいネタがあるなら、それがある場所に足を運び、頭を回転させて、どんな手を使ってでも結果を出す。


 どれだけ高度に文明化しても、これは変わらない。机に座ってるだけで、調べられることなんてたかがしれている。


もしそれが情報の全てだと思えるのなら、浅い頭に生まれてきたことに感謝しながら馬鹿として生きればいい。


 そんな馬鹿がいるから、記者は生きる価値があるんだ。




「体の調子がよくないから、今日は休む」


 寮で同室の同級生にそう告げると、彼女は眉間にしわを寄せた。


 前日、門限に遅れて帰ってきたくせに、今は私服に着替えながら堂々と仮病を使ったんだから当然だった。


「……私は知らないからね」


「安心しろよ。迷惑はかけないから」


 ルームメイトは肩をすくめて、部屋から出て行った。


 その後に私も外に出た。ちなみに、また外出許可を得る必要があったので「体の調子がよくないから、かかりつけ医に見てもらう」という嘘をついた。


 昨日、天都に言われた言葉は、私にとってこれ以上ない侮辱だった。


 確かに私は高校の新聞部として動いてる。だけど、志も行動も、プロのつもりでやっていた。私は記者だ。それに誇りを持っている。


 あの発言は許せない。何が何でも、彼女にギャフンと言わせてやる。


 天都は何か、幹本と個人的な因縁があるようだ。だからあの夜、先生と会っていた彼を見て、驚いていたんだろう。


 きっとろくでもない過去だ。深入りしないでおこう。


 幹本に顔を見られてしまったので、今日はめがねとマスクで変装をした。私服姿だし、ぱっと見ただけじゃわからないだろう。


 まず、彼が籍を置いている会社に行った。


 都会の一角にあるビルの三階がオフィスらしい。正面から訪ねるわけにもいかないから、しばらくビルの入り口付近で暇を潰した。


 二時間近く待ったところで、ビルから一人の女性が出てきた。中年で少しだけふくよかな体型をしている。服装から見るに、営業ではなく、事務職だろう。


 私はすぐに彼女のあとをつけて、人通りの少なくなったところで声をかけた。


「あの、すいません」


 肩を叩いてそう呼び止めると、彼女はかなり驚いた。


「な、なに?」


 彼女の手には大きめの封筒があって、そこには幹本が勤める会社の社名がしっかりと記されていた。


 私はめがねとマスクを外して、頭を下げた。


「私、記者をしてます。中山と言います」


 堂々と嘘の自己紹介をした。


「はあ」


「会社に幹本さんっていらっしゃいますよね? その人について、お話をうかがえないですか?」


 そう切り出すと、彼女は顔を険しくして、その場を去ろうとした。咄嗟にその手を掴む。


「お願いです」


「ごめんなさい、仕事中なの」


「報酬を出します」


 彼女の耳がピクッと動いた。よし、いける。


「あなたの名前は伏せますから」


 彼女は少し悩んでいたが、最終的には頷いた。





「悪い噂しかありませんからね、あんな男」


 喫茶店に入り、席に座った途端に彼女はそう切り出した。


「教育って大切だって思いますよ」


 私がメニューを差し出していることも気づかず、彼女は続けた。


「お金と七光りで育つと、ああなるんですよ。ほんと、どうしようもない」


 笑みが零れそうになるのを必死でこらえた。これは大当たりだ。この女性は口が軽い。


「そうですか。具体的なことを聞いてもいいですか?」


 彼女はやっとメニューの存在に気づいて、それを手に取ると一番高いメニューを指さした。


 私はウエイターを呼んで、自分の分のコーヒーと、そのメニューを注文した。


「調べるくらいだから聞いてるでしょ? とにかく女癖が悪いの。酔ったら暴れるし」


「ええ、それは聞いてます。一度警察に捕まりそうになったとか」


「そう! 捕まえるべきよ、あんなの。一度、痛い目をみないとわからないのよ」


 何度も何度も頷く。


「そのときのことはご存じですか?」


「もちろん。あの馬鹿息子のせいで、色々大変でしたから」


 話しによると、彼女はあの会社に勤めて二十年近くになるベテランらしい。ずっと事務職なので、社内の事情はほとんど知っていると豪語した。


 そして幹本のことは心底嫌いらしい。たぶん、仕事を増やされたことが一度や二度ではないんだろう。


「警察に捕まりそうになったのは……三年前だったかしら? 相手の女性を殴ったって。しかも道ばたで。通行人に通報されて、連行されたのよ。そこで親の登場ね。すぐに色々と根回しして、厳重注意にとどめたの」


「相手の女性っていうのは」


 彼女は首を左右に振った。


「そこまでは知らないわ。相手も身元を出されたくないみたいだったし……でもね」


「はい」


「噂じゃ、未成年だって。だからこそ、親が強権を使ったのね。ただの暴力沙汰じゃ済まないもの」


「……そうですね」


「まあ、問題はそれ以外もたくさんあるわよ。仕事にはちゃんと来ないし、そのくせちょっと遠出しただけで、出張費だの、交際費だのってお金をせびりに来るの。領収書もなしによ?」


 そこからは単なる愚痴の嵐だった。有益なものはなくて、幹本の日頃の態度に対する彼女の鬱憤をひたすらぶつけられた。


 それを聞き流しながら、私は一つの仮説を頭で組み立てていた。確認する必要があるが、多分あっていると思う。


「今、幹本さんは出社されてるんですか?」


「ああ、今日は来てましたけどね。気持ち悪いくらいに上機嫌でした。なんかあったのかしら?」


 嫌な予感がしてくる。それを顔に出さないために、苦いコーヒーを啜った。


「今日はなんの用で?」


「いつものことですよ。ホテルの領収書を持ってきて、経費で落とせって言うんです。交際費を出せって。交際費ってそういう意味じゃないのに」


 思わず、ガタッと椅子を動かすほど反応してしまい、彼女を驚かせてしまった。


「す、すいません。ただ、よろしければ、そのホテルの名前を教えていただけませんか?」


「……報酬は?」


「もちろん、増やします」


 彼女はにっこりと笑って、彼の行きつけのホテルの名前を教えてくれた。


 そこからは三十分ほど、また愚痴に付き合わされた。


「全部、お金でどうにかなると思ってるんでしょうね。お金持ちって」


 喫茶店から出て行く際、彼女はそう吐き捨てた。


 私が渡した報酬を大切そうに手にしているのに、何を言っているんだろうと呆れた。


 彼女が出て行ったあとも、私は席に座ったまま、入手した情報を頭の中で整理していた。


 時間を確認すると、まだ三時だった。伝票を手にして立ち上がって、これからの動き方を考える。一度、幹本から離れよう。


 調べないといけないことができた。知りたくもないが、無視できない。


 人脈を頼れば、調べ物は簡単に終わってしまうだろう。


 それなのに、全く乗り気になれない。そんな調べ物は生まれて初めてだった。





 翌日はちゃんと学校に行った。


 ただ、登校するなり副会長に捕まった。


「来なさい」


 声こそ穏やかだったが、明らかに怒っていた。あ、これはまずい。そう思ったけど、時すでに遅しってやつだった。


 連れてこられたのは生徒会の会議室。大仰に『0』の形をした大きなテーブルがあって、会議の時には二〇人を超える役員がここに座って、あれこれと話す。


 その椅子の一つに副会長は座って、私は座ったら怒られそうな気がしたので立っていた。


「どういうつもり?」


「いや、どの件が?」


「そう、思い当たることがいくつもあるのね」


 副会長は、あからさまに大きなため息をつくと、不機嫌そうに頬杖をついた。


「一昨日は門限を破って、昨日は仮病で欠席――役員として、どういう自覚をしているの?」


 口の軽いルームメイトだと顔をしかめた。


 とはいえ、ここでみっともなく言い訳を並べる趣味はない。


「悪かった。ただ、事情があった」


「そんなこと関係ないわ。品位を汚すなと言ったはずよ。違って?」


 そう問いかける副会長の目は、いつも以上に鋭く尖っていた。違うはずがない。ここ数日、さんざん言われてきたんだから。


 答えられない私をそんな目で睨み続けていた副会長だったが、また大きなため息をつくと、諦めたように「もういいわ」と言った。


「処分はなしか?」


「あなたの件は私がなんとかすると、会長に約束してしまったのよ」


 つまり、ここで私を処罰すれば副会長自身が、会長に監督不行きだと怒られてしまうわけか。本当に悪気はなかったので、申し訳ないばかりだ。


「ただし、次はないわ。次に何かやってみなさい、二度とこの部屋に入れなくするからね」


 それはつまり、私の部長職や役員職を剥奪するという意味だろう。彼女は風紀委員長で、生徒会のナンバー2だ。実行できるし、きっとするだろう。


神妙に頷いて「わかった」と返事をした。


「肝に銘じておいて。二人で何をしているか知らないけど」


「……二人?」


「あの演劇部の二年生と何かしているんでしょう? 昨日だって仲良く休んで……」


「ま、待て。昨日は一人で活動していた。彼女のことは知らない」


 首を左右に振りながらそう弁明すると、副会長は意外そうな表情をした。


「あら、そうなの? だって門限も一緒に破ったんでしょう?」


「あ、あれは確かにそうだが……」


 詳細を話せないのが口惜しい。本当だったら、私は門限を守れていた。彼女があんな行動をしたせいだ。


 言いよどむ私を副会長は怪訝そうに見ていた。


「天都さんにも厳重注意が風紀委員から入ってるはずよ。さすがに二日連続で門限を破られると、無視できないもの」


「彼女、昨日も夜遅かったのか?」


「そう報告を受けているわ。詳細は知らない。私はあなたのことで怒り心頭だったから」


「……根に持つ女だな」


「政治家の娘だもの」


 副会長はそれ以上は何も言うことなく、会議室から出て行った。


 これで今後、あんまり目立った行動はできない。今回は恩赦があったが、本当に二度目はないと思う。


 しかし……。


「どうしたものかね、本当に」


 昨日集めた情報と、今聞いた話。きっと無関係じゃないだろう。天都はきっと、またあの件で動いている。


 それは仕方ないことだと思う。彼女はどうしても、あの男が許せないんだろう。


 しかし、勝負を忘れてもらっては困る。あれは彼女が仕掛けてきた話しだ。


 そのことを思い出してもらおう。

というわけで、更新再スタートです。


ここから最終回まで、休みなしで毎日更新していきます。

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