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転生前からぶたでした!~新世界のストーリーテラー~  作者: 井上ツバサ
プロローグ 青春の屋上から異世界へ飛び込んだ夏 著:百合こだま
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『ここはスグミヤの森だ』


 他にも誰かいるのか。声のする方を向くと、旅人の格好(緑を基調としていてロビンフッドっぽくもある)をした、赤い長髪のおっさんが、土の上に横たわった丸太に座っている。


「……スグミヤ?」

『イスニアの大半を覆うマッツの樹海さ』


 おっさんが答える。俺は左右を軽く見渡した。松の木に似た樹木がまばらに生え渡っている。松なだけにマッツってか。なるほどなー。


「…………」


 いや、それより問題なのは、おっさんの言葉だ。さっきから男の話している言葉は明らかに日本語ではない。

 それにもかかわらず、俺は何故か彼の言葉を理解している。

 ふとさっき《ポータ》とかいう機械音声が言っていたことを思い出した。

 ゲンゴノウリョクノカクトク、すなわち、言語能力の獲得。先ほどの頭痛はその反動によるものだったのだろう。

 となると、ここは本当のマジで異世界であるらしい。

 わお。

マジであったのか異世界。アニメの中だけの存在じゃなかったんだな。

俺としては正直妹と変なことをした青春の一ページとして終わるんじゃないかと思ってたけど、これは意外というかなんというか。

 不思議の国のアリスみたいなめちゃくちゃ長い穴に落ちたとはいえ、何も考えていないで勢いでここまで来たからちょっと戸惑いが隠せない。


「いや、なぁ」


ふと、アニメでやっていたネット小説原作のアニメを思い出す。そういう世界だと大抵中世風の生活水準だったりで、主人公がめちゃくちゃ強い能力を持っていて……。

となるとやばいな、もしかして俺たち異世界で無双しちまうのか。


「…………ふぅ」


俺は浮き立っている心をなだめるため、とりあえず軽く深呼吸をする。

まぁ何事も慎重に行くべきだ。

ここは一先ず、このおっさんと対話を試みるべきだろう。

俺は日本語ではないその言語で彼に自己紹介をする。


『えっと、俺は百合こだまで、こいつが妹の百合梨央奈と言います。

あなたは誰ですか?』


 すると、おっさんと妹、二人が同時に驚いた顔をする。


『見たところ異国から来たとばかり思っていたが、随分と流暢に話すね』

「お兄ちゃんすごい、異世界の言葉話せるの?」


 いや、それが俺も驚いていましてって……あれ?

 男に軽く会釈をしつつも、身体を起き上がらせて妹の顔を見る。


『おまえ話せないのか?』


 俺がこの異世界語を話せるのはおそらく、あのとんでもない頭痛と同時に言語能力を獲得したからだ。

だとすると、俺の後に頭痛で苦しんでいた梨央奈も話せないとおかしくないか?

しかし、妹は首を横へ振る。


「うん。言ってることはわかるけど、話すのは無理」

『へぇ?』


 聞き取れるのに、話すのは無理ってよくわからんな、と思いつつも、そういえば自分がこの異世界の言葉で彼女と話していることに気づく。

なるほど、本当に聞き取ることはできるらしい。

しかし、聞き取ることはできても話せないんじゃなぁ。


『本当にまったく使えないのか?』


 そう尋ねると彼女は悔しそうに口をすぼめて答える。


「何その言い方。話すことはできないけど、書くことはできるよ」


 そう言って梨央奈は俺の尻元しりもとらへんの地面を指差した。

 そこには、なるほど日本語ではない言葉で「こだま」と書いてある。


「さっきまで指で地面に書いてこの人とお話ししてたの」

『おお』


 ひっこみ事案の我が妹にしてはなんと上出来ではないか。いったいどんな状況だったかは知らないが妹の成長が見れて兄は嬉しい。

 てか、土で筆談って、なんかすごく忍耐が必要そうなことをしてたんだな。このおっさんもよく付き合ってくれたものだ。もしかして、いい人なのでは?


『それで、どんな話を?』

「まだあんまり。なんか森の奥で倒れてた私たちを介抱してくれたんだって」

『おお』


めちゃくちゃいい人ではないか。

誰にも助けてもらえなかったらきっと路頭に迷っていただろうことを考えると、もはや命の恩人であると言っても過言ではない。

俺はおっさんの方を向き直る。


『倒れているところを助けていただいたそうで、大変ありがとうございます。

それで、えっと、あなたのお名前は……』

『ああ、忘れていたね』


 おっさんは、いわば彼らにとっての異世界語である、妹の日本語に困惑していたのか、軽く眉をひそめていたが、俺が尋ねると優しそうな笑顔で答えた。


『私は街々を歩き渡っているものだ。ちょっとした詩を歌い聞かせている』

『へぇ、吟遊詩人ってやつですか』

『ま、そんなところだな。そうだ。せっかくだから、ここで一つ短い話をお聞かせいただこうか』


そう言うと彼は座ったまま、バッグから三味線のようなウクレレのような弦楽器を取り出し、俺が遠慮する間もなく楽器を演奏しだし、そして、詩を歌い始めた。


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