001
真夏の暑さはハンパない。
体内の水分を搾り取ったあげく、薄い半袖のシャツでさえぐっしょりと濡らす。
俺は右指の隙間をすべて閉じて小さな団扇を作ると、右耳のあたりへ向けてゆっくりと仰いだ。
ぱたぱた、ぱたぱた。何度か繰り返す。
………………………。
わかっていたけれど、何の気休めにさえなりそうにない。
当たり前だ。なぜなら今日は四十度の真夏日。
常に湯船に浸かっているようなものなのだ。
今年の夏至がいつかは知らないけど、これより上がるというなら、俺たちはフライパンに敷かれた油のごとく、地熱で両足を焼かれて宙へ跳ね上がるに違いない。
それほどにこの暑さは常軌を逸している。
もう昼も過ぎてるんだぞ?
俺は左腕を胸元まで上げると、時計を覗き込んだ。
時間はすでに夕方の4時を回っている。
「まじかよ……」
もう夕方と言ってもおかしくない時間なのに、太陽は地平線の上で呑気に俺たちを見下ろしている。
幸か不幸か快晴の空は、未だに赤く染まる気配もない。
「はぁ……」
早く教室に戻りたいなぁ。そんなことを思った。冷房でキンキンに冷えた教室に戻りたい。
とはいえ、この後は用事が控えているし、
目前の状況を置いて、一人すたこらと暑さから逃げるわけにも行くまい。
というのも今、俺は、
青い天井の下、白いコンクリートで四角く象られた校舎の屋上にて、
名前も曖昧なクラスメイトの女の子と、対面していた。
☆
それは数分前、教室でのことだ。
俺――とある町のとある高校に通う百合こだま17才にはとある用事がある。だからその集合場所へと向かうべく、HRが終わるなり、俺はバッグを持って椅子から立ち上がった。
聞きなれたクラスメイトの会話が聞こえてきたのはその時だ。
「――ちゃん、ホントにこだまくんに告白するの?」
それはクラスでも口うるさい女子の声だった。
なんでああいう奴ってそういう聞かれてはいけない話を大声で話すのだろう。
本当によくわからない。
本当なら俺も聞かなかったふりをするのが道理だったのだろうが、
どうしようもないことに、そちらの方を向いてしまっている自分がいて。
そして、
「ちょっ、さくちゃん大声だよ」
と確認するようにこちらを向いた当事者のなんとかちゃんと目があってしまった。
「…………」
「…………」
状況を理解するのに数秒を費やした後、
俺はバッグを片手に教室から逃げようとしたが、
当事者の声がそれを止めた。
「待って」
振り向くと、彼女は真剣な視線で俺を見つめていた。
「こだまくん」
多数の目線が見守る中、彼女は俺に向けて言ったのだ。
「お話があります」
☆
人がいないところで、ということで屋上を選んだのは正解だった。くそみたいに暑い日差しの中、こんなところに出てくるバカなんて他にいるわけがない。もっとも、暑過ぎてやっていられないわけだけど。
「で、用事って?」
俺は彼女を見据える。なんとかさん、えっと、たしか佐藤さんっていう黒髪ポニーテールの同級生。
平均的な背丈であろうその子は、茶色い瞳の大きな両目で俺を見上げていた。
その頬はかすかに赤くなっている。
「百合くん」
見た目と声から察するに、おそらくスポーツ部かどこかに所属しているのだと思う。日頃スポーツドリンクで潤っていそうな喉で発した声は、かすかに震えていた。
俺はその時点から、すでに罪悪感を持っていた。だから、
「私、百合く――」
と、彼女がその言葉を言いかけたところで、思わず、
「その」
なんて口を挟んでしまった。
はたして、それが男として正しい行動なのか間違っている行動なのかは、自分でも判断しかねるが、
自分としては、彼女に恥をかかせたくはなかった。
「俺――」
再び右手で団扇作って仰ぎ始めると共に告げる。
「実はこの後、異世界に行かなきゃいけないんだ」
遅筆ですがぼちぼち更新していきます。
とりあえず次回は早めに投稿できるよう頑張りたいです。
よろしくお願いします。
2019/1/2:推敲しました。




