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チート能力はまだわからないけどとりあえず神童です。

タケルの能力:五歳にしては語彙が豊富

 異世界転生から五年。俺は五歳になった。

 美しく優しい母と十人の姉たちに囲まれて、すくすくと成長中である。言葉も話せるようになったし、尿意や便意も我慢できるようになり、この頃ようやく動物から人間になれたという実感が湧いてきた。

 え? いきなり五年飛ぶのかよって? だって平和な幼少期なんかチマチマやったらお前らどうせすぐブラバするんだろ? おっぱい飲んでねんねして五年経った! 以上!


 前世の記憶を持ったまま生まれてきたわけだから、言語や諸々の知識が最初から備わっており、新たに覚える必要がない。それだけでも、ある意味立派なチートである。

 サンガリアの救世主と福音の騎士エリウの間に産まれた子、しかも五歳にして豊富な語彙を操る天才。家族の中でも俺は神童扱いされていた。


 一つ問題があるとすれば、顔が前世の俺の五歳の頃とそっくりなことである。

 姉たちは皆母親の方に似て美形なのだが、どういうわけか、俺だけは父親である俺の遺伝子を色濃く受け継いでしまったらしい。普通はむしろ女の子のほうが父親に似やすいって言うけど、この家族だけは真逆になったというわけ。せっかく転生するんだから、どうせならイケメンに生まれ変わりたかったし、俺もエリウの方に似て生まれればそれなりに整った顔立ちになったと思うんだが、まあ世の中そうそう上手くはいかないもんだ。


 そんな俺を、エリウは最近よく外に連れ出すようになった。屋敷の中庭で、ぽかぽかと温かい日光を浴びながらのんびり昼寝をしていると、エリウが突然やってきて、俺に声をかける。


「タケル、また寝てるの?」

「んん……何だよ、母さん」

「勉強しなくても頭がいいからって、寝てばかりいるとすぐバカになるよ」

「大丈夫大丈夫。寝る子は育つって言うじゃんか」


 若干五歳にして慣用句を操る俺。神童と呼ばれる所以である。


「物には限度、とも言うでしょう。それに、少しは体を動かさないと、強い子になれないし」

「俺は知性派なの。別に強くなれなくたって」

「いいから来なさい。一緒に散歩に行こうよ、ほら」


 エリウはそう言うと、俺の小さな体をひょいと抱き上げ、屋敷の中へ声を投げた。


「カボタ、ちょっとタケルを連れて散歩に行ってくるわ」


 カボタとは、この屋敷で働く初老の女、つまりエリウの出産に立ち会い俺を取り上げた使用人の名前だ。痩せた体に白髪交じりの髪。生活苦が滲み出すような容貌ではあるが、見た目に反して明るく人当たりのよい性格の持ち主で、勤勉かつ優秀な使用人である。

 カボタは元々ロンディムで暮らしていたサンガリア人で、エリウが小さい頃から面識があったらしい。ゴーマ人の侵略によって家族を失い、ロンディムがゴーマに占領されてからは、ゴーマ人の奴隷として暮らしていた。俺たちがロンディムを奪還し、ゴーマ人から解放されて新しい仕事を探していたところで、ロンディムに新居を構えたエリウに声をかけられたというわけ。

 幼い頃からの知り合いだけあって、カボタに対するエリウの信頼は厚く、ロンディムを離れることになっても嫌な顔一つせずについてきてくれた。両親を失ったエリウにとって、カボタはいわば肉親のような存在なのだ。


「は~い、お気をつけていってらっしゃいませ~!」


 と、屋敷の中からカボタの声が返ってくる。いつものことだから顔を出すこともなく、いちいち見送りしたりもしない。四人の女で十一人の子供の面倒を見るのは大変な仕事、無駄な動きをしている余裕はない。エリウ自身も母親だから、カボタの多忙さをよく理解していた。


 俺を抱いたまま屋敷を出たエリウは、外の厩へ直行する。そこでは逞しいオスの栗毛馬が飼育されていて、馬の名はアストラといった。元々はロンディムでゴーマの軍馬として飼われていたが、ロンディム攻略の際にサンガリアが接収し、今ではエリウの愛馬となっている。


「アストラ! 散歩にいくよ!」


 エリウが声をかけると、アストラはブルルと鼻を鳴らしてこちらへ寄ってきた。エリウはアストラを厩から出すと、一度俺を降ろし、アストラに手早く頭絡をかけて、再び俺を抱き上げる。


「タケルも、そろそろ一人で馬に乗る練習始めないとね」

「ええ、なんで?」

「なんでって……強い男になるために決まってるじゃない」

「馬に乗れなくたって強くはなれるじゃん」


 いや、ぶっちゃけ落馬が怖いだけなんだけど。だってさぁ、車と違って馬は生き物なんだぜ? いつ何をしでかすかわからねえ。アストラだって、エリウに対しては従順だが、カボタやカルラ、イリーナには結構反抗するらしいし。馬ってのは、機械である車と違って、乗る人間を試しやがる。


「腕力や剣の腕がいくら強くても、馬の心を掴めない男は強い男じゃないの。馬とはちょっと違うけど、タケルのお父さんだって、光る船をとても大事に扱ったから、サンガリアに来られたのよ」

「そ、それは……」


 仕事道具を大事に扱うのは当たり前じゃねーか。それに、車と動物は違うし。


「だから、タケルもきっと、いつか上手にアストラを乗りこなすことができるようになると思う。さ、行きましょう」


 エリウはアストラの背にまず俺を乗せ、その後ろに自らも跨り、裸馬のままでアストラにゴーサインを出した。


 穏やかな風にそよぐ、見渡す限りの大草原。館の北、サンガリア方面には鬱蒼とした森が広がっているが、南側のゴーマ方面は、ところどころに小さな森が点在するものの、基本的にはだだっ広い草原である。

 エリウの駆るアストラは、なだらかな丘の頂上にある館から斜面を駆け降りて、その広大な緑色の海原へと突き進んでゆく。猛スピードで走っているはずなのに、揺れは意外と小さかった。まるで新幹線に乗っているみたいだ。エリウによると、乗っていて背中があまり揺れない馬はいい馬なのだそうだ。

 頭上を仰ぎ見れば、紺碧の空に幾筋かの巻雲がたなびき、空の頂に輝く太陽から眩い日光が降り注いでいる。いやぁ、絶景かな、絶景かな。屋敷を出るのはめちゃくちゃ億劫だが、いざ外に出てみると、やっぱり来てよかったと思える。自然にはそういう不思議な力があると思う。


 それから小一時間ほど馬を走らせ、小川の流れる小さな森を見つけたエリウは、そこで馬を停めて休憩することにした。のんびり草を食むアストラを眺めながら、親子揃って木陰に寝そべる。

 エリウは言った。


「ねえ、タケル……」

「なに?」

「お父さんに会いたい?」


 エリウは近頃、時折俺にこう尋ねるようになった。そしてその度に、俺の心は、心臓を握り潰されるような痛みに襲われるのだ。

 俺はケンタの生まれ変わりだ――何度そう伝えようと思ったかわからない。しかし、俺が既に死んでいることをエリウが知ったら、彼女は大いに悲しむだろう。それを考えると、喉元まで出かかっていた言葉を飲み込まざるを得なくなる。

 エリウがこの苦しい生活を敢えて選んだのは、俺――つまりケンタの帰りを待っているからだ。その俺が死んだとわかれば、もしかしたら、エリウはラスターグ王のプロポーズを受けてしまうかもしれない。俺はそれがたまらなく怖かった。いかに前世の記憶を持っているとはいえ、今の俺はエリウの息子。母親であるエリウと結ばれることは叶わないのだから。


 彼女にとっては、帰らぬ人を待ち続けながら今の生活を送るより、ロンディムで王妃として暮らすほうが遥かに幸せだろうし、俺もそれを願うべきなのかもしれない。だが、エリウが目の前で他の男の妻になるなんて、俺は絶対に嫌だった。エリウがあのEXILE風の男に抱かれる姿など、想像したくもない。NTR属性とか俺には皆無なのである。


 とはいえ、転生した俺が五歳になったということは、ケンタがエリウの前から姿を消して、既に六年近い年月が経っていることになる。お父さんに会いたいか、とエリウがこの頃頻りに尋ねるのは、きっと彼女自身が寂しいから、俺に会いたくてたまらなくなっているからなのだろう。

 毎日顔を合わせているのに、そのことを伝えられない。

 伝えるべきか、伝えないべきか。そして、伝えてしまったらもう二度と後戻りはできないのだ。

 結局俺は、エリウの問いに対して、いつも通りの答えを返した。


「別に。父親なんていなくても、生きていけるし」






 ……え、お前の話なんていいからさっさと十人のロリっ娘を出せって?

 そんな変態ロリコン紳士諸君は、次回を待て!

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