転生したら自分の息子だった件
本作は『トンネルを抜けると異世界であった。~タクシードライバーの救世主日誌~』の続編になります。
『異世界転移ができたのだから、異世界転生ができない理屈はあるまい?』
どこか得意げなタクシーの声が響いたその直後、完全に無音だった世界が急に騒がしくなり始めた。
ひゅぅひゅぅ、ゴーゴー、ドクンドクン。
という妙にくぐもった音が、断続的に、そこかしこから聞こえてくる。辺りは真っ暗闇で何も見えないし、体を包み込むような浮遊感も変わらなかったが、音以外の大きな変化は温度だった。ついさっきまで熱さも冷たさも全く感じなかったはずなのに、今は何だかとても暖かい。この温もりのせいだろうか、俺はこの空間に深い安らぎと懐かしさを覚えていた。
息ができないのに苦しくもなく、真っ暗なのに恐怖を感じない。ずっとここで眠っていたいと思ってしまうほどの心地良さ。俺は体を丸めて眠りながら、色々な夢を見た。
時折、物音に混じって、聞き覚えのある女の声が聞こえてくる。誰だろう、よく知っているはずの声なのだが、頭がぼんやりとして何も思い出せない。女の声を子守歌に、俺はひたすら眠り続けた。
そのまま、どれぐらい眠っていただろう。ある時、暗闇の中に突然一筋の光が差し込み、俺の体はその光の方向へグイグイと押し出されていった。針の穴ほどに小さかった光は、たちまち俺の体を飲み込むほどに大きくなって、俺はいきなり光の中に放り出される。
光の世界はとても肌寒く、眩しくて目も開けられない。俺は思わず声を上げた。
「おぎゃあ、おぎゃあ」
「エリウ様、産まれました! 元気な男の子ですよ! サンガリアの救世主の血を受け継いだ、立派な男子です!」
エリウ……?
サンガリア……?
救世主……?
それらの断片的な単語が、意識の奥底に沈んでいた記憶をチクチクと刺激する。
その直後、俺の体を包み込む柔らかい肌の感触と女の声が、全ての記憶を呼び覚ました。
「ああ……私の子供……私と、ケンタの……」
ケンタ――それは俺の名前。そして、今俺を抱いている女の名はエリウ。俺が初めて本気で愛した女だ。しかし、エリウはたった今、俺のことを『私とケンタの子供』と言った。ということはつまり――?
俺はエリウの息子として転生したってことか?
俺を取り上げた女(声の雰囲気から察するに初老ぐらいの女だろうか)が、声を弾ませながらエリウに尋ねる。
「お名前は、もうお決まりですか?」
「ええ……男の子が産まれたら、『タケル』という名をつけようと決めていたの」
「タケル……でございますか」
「そう。ケンタの生まれた国の神話に伝わる、勇ましい軍神の名前なのだそうよ」
日本武尊のことか。そういえば、いつだったか話の流れで日本神話のことを話したような気もする。となると、俺のフルネームは佐藤タケ……おっと、どこかの芸能事務所からクレームが来そうな名前になっちまったじゃねーか!
「なるほど。素晴らしいお名前でございますね!」
「ああ……タケル……いつかケンタが帰ってくるまで、姉たちと一緒に、どうか健やかに育ってね……」
「あら、タケル様、もう目をお開けになっておりますよ!」
瞼を開いても、視界はやけに眩しく、ぼんやりとして何が何だかわからない。耳が聞こえるのがせめてもの救いである。エリウが何気なく言った『姉たち』という言葉が気にはなったが、この時の俺は周囲の状況を把握するので精一杯だった。
「まあ、本当……目元がケンタにそっくりだわ」
「左様でございますか。タケル様もきっと、サンガリアの民を導く偉大な男子となられるでしょう」
「ええ……。早くケンタにこの子の顔を見せたいわ……」
そのケンタが俺なんだって! ……と声を上げることもできず。
兎にも角にも、俺はこうして、エリウの息子、つまりエリウと俺の間にできた子供として異世界転生を果たしたのである。俺がどんなチート能力を持って転生したのかは、未だ、神のみぞ知る。どうせだったら、なんかエロいことに応用できる能力がいいなwww
前作に引き続き、世界一下品な異世界ファンタジーを目指して頑張ります。