表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/11

第九章 最後の戦い

 ルウ子と蛍は非常階段を降りていく。手すりを頼り、足もとをたしかめながら。しんがりに熊楠。バクの姿はない。

 エレベーターは使えなくなった。電灯もすべて消えてしまった。パートナーを失ったニコのスイッチが自動的に切れ、日本中に散っていた地属性のテスランたちが皆、青いケータイの中へ強制収容となったのだ。

 一方、バクは夜目を活かしていち早く地上にたどり着くと、傘の下ですくんでいる職員たちを横目に、人工池のほうへ走った。

 浅い池の底。孫と和藤の遺体。

 突風でも吹き上げたのだろうか、驚くほど傷みが少ない。密着して落ちたはずの二人は、少し離れて横たわっていた。

 バクは池に入ると、和藤の左手を持ち上げ、孫の右手に組ませてやった。

「俺にあんたほどの執念があれば、ミーヤは死なずにすんだかもな」

 バクはうなだれた……が、すぐにかぶりをふると、孫のスーツを探って胸ポケットからケータイを取り出した。試しに開いてみたがニコは姿を現さない。真っ暗のままだ。

 バクはケータイを懐にしまうと、タワーの非常階段口へ駆けもどった。

 そこでルウ子たちと落ちあうはずだったのだが……バクは我が目を疑った。

 NEXAの傭兵五人が出口を塞いでいたのだ。熊楠は女二人の盾となって防戦しているが、この闇と豪雨のせいで思うようには戦えず、圧されっぱなしだった。

 腑に落ちなかった。孫や和藤の手際とはどうしても思えなかった。が、今はそんなことを考えている場合ではない。

「ルウ子!」

 バクが叫ぶと、ルウ子は声がしたほうに抜き身の短剣を放った。

 剣は弧を描いてアスファルトに突き刺さった。

 バクは剣を引き抜くと、雄叫びを上げながら戦いの中へ突っこんでいった。

「オラアアアア!」

 バクは一閃で五人すべて斬った。

 闘神熊楠でさえ一瞬目を奪われるほどの早業かつ力業だった。

 もう誰も失いたくない。その一心が闇の力を増幅ブーストさせたのだろう。

 叫声を聞きつけたのか、周りにいた影がこちらへ近づいてくる。

「ニコは確保した。はぐれるなよ!」

 バクの声にルウ子たちはうなずく。

 四人はゲートめざして突っ走った。


 タワーの周囲に比べ、ゲートの警備は手薄だった。

 バクは詰所に押し入るや三人を気絶させ、残る一人をロープで縛り上げた。

 一味の中に熊楠がいるとわかると、その男はひどく怯え、すぐに口を割った。

 停電のせいで開閉システムは機能しない。すべて手動でやるしかなかった。

 バクは詰所を出て地面の鉄蓋を開けると、門番の言っていたハンドルを見つけた。

 熊楠が駆け寄ってバクと代わると、男は機関車のごとく鉄輪をまわした。

 巨大な格子門扉が横にスライドしていく。

 そこを抜けて少し走ると、また同じ構造があった。

 バクが外門の詰所に押し入っている間、熊楠が蓋下のハンドルをまわす。

 犬の声が近づいてくる。

 今度の門扉は一秒に一センチずつしか開いてくれない。待つ時間がもどかしい。

 先頭の犬が内門のすき間に鼻をのぞかせた。

 外門が小さく開いた。二十センチあるかないか。

 四人はそれぞれ、横に向けた体をそのすき間へ強引にねじこんだ。

 犬が吠える。兵隊も吠える。

 バクたちはゲートを抜け、雨と風と暗闇の街へ駆け出した。


 皮肉なことに、NEXAが発したはずの避難命令は、お膝元の街にはうまく伝わっていなかった。

 オフィスビルの玄関や軒下はラッシュアワーと化していた。一寸先を怖れてとりあえず避難したのだろう。エンストした車を降りてボンネットを調べるのは若者ばかりだ。年長のドライバーは前か後ろにもたれかかり、なにを思い出したのか悲嘆に暮れている。

 誰もいなくなった水浸しの歩道を、バクたちは走る。

「あっちだ」

 バクは地下鉄口の一つを指した。

 バクにとって地下は庭だった。訪れた地域の地下鉄口はすべて頭に入っているし、構内図と路線図を一度見れば、たいていの場所は迷わず行ける。

 一行はバクを先頭に列車のように縦列して、階段を降り、改札を抜け、プラットホームから線路へ飛び降りた。

 地上の人々は、不安や不満を口にしながらも行動は冷静だった。それに対し、地下の人々は早くも理性の留めピンが外れていた。闇雲に出口を探して人や壁に激突する者。メガネをなくした近眼者のごとく地べたを這いまわる者。暗所恐怖に悲鳴を上げる者。

 凄惨な恐慌を背に、『責』と刻まれた巨石に押し潰されそうになりながらも、バクは心の中で人々に呼びかけた。

 すまない……。朝までの辛抱だ。 

 バクたちは、大村と〈臣蔵〉が待つ港の最寄り駅をめざした。

 線路を歩きはじめてすぐ、電車がトンネル内で立ち往生している場所にぶちあたった。一行は六両編成の脇、幅一メートルもない退避空間を行く。車内で怯える人々。暗闇、密室、孤独……。重いトラウマを抱えてしまうかもしれない、と蛍が心配している。

 それからしばらく、なにもない直線が続いた。

 昂ぶりが引いてきたバクは、そこでやっと口をきく気になった。

「熊楠。孫との決闘のこと、なんで知ってた」

「うむ。実はな……」

 熊楠は廃港でバクと別れた後のことを語った。

「私は昭乃の介護をしつつ、看護師見習いとしての日々を送っていた。といっても、患者は海賊ばかりだがな。そんなある日、昭乃が夢の中で富谷の異変を察知した。私はそばを離れたくなかったが、昭乃がどうしてもと言うので様子を見に行った。昭乃のそれは正夢だった。富谷はすでに滅んでいた」

 バクはあえて訊いた。

「ミーヤの最期はどうだった?」

 熊楠は一度ためらってから、口を開いた。

「私は見ていない」

「そうか」

 バクはうつむいた。

 熊楠は続けた。

「私が富谷からもどると、黒船島に大きな変化があった。ヌシが亡くなり、タチが拾った富谷難民が新たなヌシとなっていた。百草先生だ」

「先生は無事だったか……」

 バクはほっと息をついた。

「それからしばらくは安泰な日々が続いた。ペリー商会が重症患者を出さないでくれたおかげで、私と昭乃は二人きりの時間を満喫できた。やがて私たちは夫婦の契りを結んだ。だが……幸せは長くは続かなかった」

「NEXAか?」

「うむ。電力網の復活で人々の生活環境は向上した。そのせいで、今までは空気のように思えていたものが、黒煙のように目立ちはじめた。治安問題だ。孫は湾岸住民の不安や不満に応えるべく、海賊討伐を宣言した。有力海賊のペリー商会は真っ先に攻撃目標となった。

 NEXA軍は苦手な海戦を避け、湾岸からの執拗な砲撃で黒船島を痛めつけていった。我々は一戦も交えることなく、残った船で逃亡するしかなかった。一隻、また一隻と沈められ、私と昭乃と百草先生が乗る帆船が最後に残った。砲台の射程からは逃れたが、今度は蒸気船団が待ちかまえていた。私は一緒に乗りあわせていたタチとともに矢で応戦した。四隻対一隻……数では圧倒的に不利だった。そこで私は望楼に上がり、敵の士官ばかりを狙い撃った。指揮官をすべて失った連中は、混乱を極めた末に追撃を諦めてくれた」

「昭乃が言ってたよ。あんたの矢は、まるで的のほうからあたりにいくようで怖いってな」

 熊楠は苦笑いして続けた。

「どうにか統京湾を抜けた我々は、これというあてもなく北へ逃げた。積んでいた清水みずが尽きようとしていたとき、連なる断崖のすき間に小さな港を見つけた。我々は商船を装って寄港すると、とりあえず港町にくり出した。

 このまま逃避行を続けるべきかと悩んでいたところ、街角である男が私に声をかけてきた。私は驚かずにいられなかった。その男は富谷の生き残り、しかもお互いよく知る旧友だったのだ。彼はなにも訊かず、自分が暮らす山村に来ないかと誘ってくれた。私と昭乃は決断した。船には乗らず、その男についていくと。百草先生も同行を決めた。それともう一人、タチもだ」

「タチは根っからの海賊じゃなかったのか?」

「そのようだが、私の戦いぶりに惚れたから弟子にして欲しいと言ってきた。海賊からはいっさい足を洗うと」

「弓使いからすれば、あんたは神様みたいなものか……」

「そして我々は田之崎たのさきという名の村に入った。そこには旧友の他にも三十人ほど生き残りがいた。昭乃や百草先生の無事に皆は涙したが、私一人だけは歓迎されなかった。故郷を捨てて殺戮に走ったのだ。昭乃の夫でなければ、私がその村で暮らすことは叶わなかったろう。私は人目を避けて小屋に籠もり、ひたすら昭乃の介護に尽くした。やがて、診療所を開いた百草先生から看護師をやらないかと誘いがあった。私は迷ったが昭乃が背中を押してくれた。私はしばらく村人に疎まれていたが、仕事を続けていくうちに少しずつ認めてもらえるようになった。

 田之崎ではかつての富谷に劣らぬくらい、静かで平和な暮らしが続いた。だが、私の頭からは孫やNEXAのことがどうしても離れなかった。できることなら様子を探りたいが、私には昭乃がいる。仕事もある。そこで私はタチを密偵に仕立て、統京へ送りこむことにした。

 しばらくして、タチは統京湾でシバを見つけた。巧みに海軍網を抜ける工作隊の後を尾行つけていくと、その先は宮根島だった。君とシバの戦いには間にあわなかったが、決闘の話を耳にしたタチは、急ぎ私のもとへ帰ってきた。孫を倒すなら今しかない。そう判断した私はすぐに上京、潜伏し、奴が油断する機会を密かに待っていたというわけだ」

「なるほど……」

 バクは熊楠やタチの活躍に感心しつつも、一つの疑問が浮かんだ。

「ところで、昭乃のことは放っといていいのか? 寝たきりなんだろ? 診療やってる先生一人じゃ……」

「ああ、そのことなら問題ない。こうなることもあるかと、私の代わりとなる看護師を一人育てておいた。腕力に乏しいのが少々心配だが、昭乃は安心して身をまかせている」

「あんたの腕力を基準にされたら、そいつはたまらないだろうな」



 10月2日


 夜が明ける少し前、バクたちは埠頭にたどり着いた。

 雨は小降りになっていた。

〈臣蔵〉以下、離島船団は健在。列強艦隊の姿はまだない。

 上陸作戦に巻きこまれぬよう、バクたちは急いで〈臣蔵〉に乗りこんだ。

 一行の無事に一人号泣する船長大村。

 バクは彼の耳もとで、行き先だけをそっと告げた。

 

 雨上がりの朝焼けのもと、離島船団は湾を脱して外海に差しかかった。

 前を行く九隻はそのまま直進し、島への帰路に就いた。

 一方、最後尾の〈臣蔵〉だけは取り舵を一杯にして、本土の東岸に沿って北上する航路を取った。

 バクは〈臣蔵〉の船首に立ち、果てしない海原を眺めていた。

 嵐は去ったが、海はまだ大きなうねりを残している。船室にいたほうが安全なのだが、どうもじっとしていられない。

 速い潮に流されているのかそれとも風のせいか、岸からはだいぶ離れてしまって目印になるものがない。大洋での単独行はひどく心細いものだが、離島船団の者たちのことを考えれば、それはまったくもって贅沢な悩みといえた。列強艦隊は伊舞諸島の南東方面から押し寄せてきており、両者が遭遇する可能性は高かった。軍の機密とやらの用はもうすんだらしく、船倉はすべて空なので、大きな騒ぎにはならないはずだが……。敵の大将が紳士であることを祈るしかない。

 あれこれと思いをめぐらせていると、水平線上に黒い鋲のようなものが、一つまた一つと増えていくことに気づいた。

「?」

 バクは目をこらした。

 鋲はどんどん増えていく。四つや五つなどではない。それらは頭に縮れ毛のようなものを一本ずつ生やしていた。十や二十……いや三十どころでもない!

 望楼の男が叫んだ。

「敵だ!」

 船員がどやどや集まってきて、手にしていた双眼鏡を目にやった。

 南方からやって来る艦隊とは国籍がちがっていた。その数、五十を超える。

 離島海軍はその戦力のほとんどを領海内の警備にまわしている。遠洋の索敵能力には限界があった。

 危険を避けたつもりが裏目に出たのか。いや、どのみちこうなる運命だったのだ。

 下を向いていると、熊のようなごつい手がバクの肩をがしとつかんだ。

「絶望すんのは死んでからにしろい」

 バクはキッとふり返った。

 船長の大村だった。

 バクは弱気を悟られたのが癪で、つい声を荒げた。

「死んじまったら絶望なんかできねえだろ?」

「ダッハッハ! それもそうだ」

 豪快な笑いとは裏腹に、いつもの日焼けした虎髭顔は船酔い客のように色を失っていた。

 考えていることはバクとそう大差はないようだった。だが、心の底になにか期するものがあるのだろう。絶対に生かして港まで届けてやる。そんな強い意志が熱風のように伝わってくる。

 二人のすぐ後ろにいた細身の副長が大村に進言した。

「このままでは巻きこまれます。迂回しましょう!」

 大村は副長の胸ぐらをつかみ上げた。

「ど真ん中だ! そのまま真ん中を行けい! 一ミリでも舵切りやがったら……殺す!」

 大村の指示は狂気の沙汰かと思われた。

 だがその読みはあたった。大村は海図ではなく風を読んでいたのだ。下手に逃げようとすれば乱気流に巻きこまれ、逆に航行の邪魔をしてしまうところだった。抵抗の意志ありと誤解されたらそれこそおしまいだ。

 艦隊が近づいてくると、大村をはじめとする船員たちは、漁網を片手にいかにも不機嫌そうな顔で待ちかまえた。

 列強の海兵たちは双眼鏡を手に、〈臣蔵〉の装備を焦がさんばかりに観察している。

〈臣蔵〉は戦艦と戦艦の谷間を行った。

 すれちがっている間も、海兵と『漁師』の睨みあいは続いた。

 艦隊は何事もなかったように、ひたすら直進していった。

 早々に船室に放りこまれたバクは、ルウ子とともに、丸窓から半分だけ顔をのぞかせ、物量にものをいわせる大艦隊を見送った。

 ニコは蛍の胸の谷間、アルはルウ子のパンツの中で眠っている。

〈臣蔵〉は一路、北をめざした。



 10月3日


〈臣蔵〉は無事、断崖の狭間にある武慈むじ港の埠頭につけた。

 船員たちに別れを告げ、バク、熊楠、ルウ子と渡り階段を降りていった。

 蛍がそれに続こうとしたときだった。

「すまなかった!」

 大村はいきなり土下座した。

 蛍は大声にびくっとして、ふり返った。

「大村さん?」

「松下が死んだのは俺のせいだ。『あれ』は……俺がやらせた」

「顔を上げてください」

 蛍は微笑んだ。

「……」

 大村は伏せたままだ。

「大村さんがいなかったら、今の私たちは在りません。あなたは孤独だった私たちに手を差しのべてくれた。それで充分です」

「……」

 大村は動かない。

 蛍は笑顔のままふっと息をつくと、明るい声で言った。

「ああ、そういえば」と手を打つ。「どうしてくれるんですか、大村さん」

「?」

 大村は顔を上げた。

 蛍は手を差しのべた。

「昨日の分で、お釣りを出さなければならなくなったじゃないですか」

「す、すまねえ」

 蛍と大村は固く握手をして別れた。

 大村はいつまでも子供のように泣きじゃくっていた。

〈臣蔵〉が島へ帰っていく。

 バクたちは埠頭を後にした。


 武慈の港町は天も地も鈍色に煙っていた。統京のようなパニックこそないものの、色あせた商店街のそこここでは、地元の人々が冴えない顔を突きあわせていた。

 一行はそれを横目に、熊楠の案内で田之崎村へ向かった。最も近道なのは、廃線跡の半自然歩道を利用する三十キロの道程。バクたちは市街地を離れると、リアス式のうねった海岸沿いに走る線路の上をひたすら歩いた。

 かつてはここを地元経営の短い列車が走っていたという。軌道、踏切、信号機、鉄橋、駅舎、プラットホーム……人の手が入らなくなった鉄道設備は潮風のなすがまま、あるものは赤茶けた砂に、あるものは雑草の肥やしに還ろうとしていた。

 一行は五キロほど歩いたところで、早くも顔に疲れの色を浮かべていた。海沿いとはいえ数百メートル級の山脈の片側をばっさり切り落としたような地形だ。山がちな路線の勾配は、激動の二日間をすごしてきた三人にとってはきついものがあった。

 それを見かねたように、熊楠は「馬を連れてくる」と言って線路から逸れ、山手の崖を野鹿のごとく駆け上っていった。

 バクはそれを呆然と見送った。とうに四十をすぎた男の脚力とはとても思えなかった。

 トンネルをいくつかくぐると、断崖のすぐそばに出た。左を見下ろせば絶壁と海。右を見上げれば急斜面と密林。崖崩れでもあったのか、線路の左半分は地面がなく、剥き出しで、道幅は大人の身長分もなかった。カーブのせいで視界が悪い。ここが最大の難所だ。

 一行はバク、蛍、ルウ子の順で縦列し、線路の右側の砂利を慎重に歩いた。

 列はすぐにちぎれた。バクが一人先を行き、蛍とルウ子が団子になっている。

 断崖の高さに蛍の足がすくんでいるのだ。単独で敵地に紛れる度胸はあっても、こういうことはまったく別の次元にあるらしい。

「ったく!」

 ルウ子は蛍の尻を足蹴にした。

「ひゃあ!」蛍はあわてふためき、その場に縮んで石になった。「す、すみません……」

 蛍が慣れるのを待つしかなさそうだ。

 バクは立ち止まり、水平線に目をやった。

 曇り空。海は凪。鏡と化した海面は、どこまでも続く雪原のようだ。

 これまでいろんなことがあった。想い出を白いスクリーンに投影する。

 上映が終わると、これからのことに思いを馳せた。

 ルウ子は中立国に逃れるなどと言っておきながら、結局ここまでついてきてしまった。ニコを誰かに託す気配もない(蛍は単に持たされているだけだ)。あの大艦隊を実際に見て気が変わったのだろうか。

 孫がルウ子に言ったという、厳しいひと言が脳裏をよぎる。

 ……国連は事実上消滅した。そんな今、発電の全権が集中したユニット……マスター・ブレイカーをいったいどこで誰が管理するというのです……

 孫が倒れ、ルウ子は黙し、欲望と破壊の時代は去りつつあるのかもしれない。人間という爆弾を抱えてしまった自然界にとっては、望むところなのだろうが……。では、これから飢えようとする国民や、すでに飢えている世界の人々はどうなるのか。人と自然……立体交差をくりかえす二つの道はいつどこで交わるべきなのか。悩みは尽きることがない。

 顔にほのかな熱を感じ、バクはふと空を見上げる。

 雲が薄まったのか、日輪のかたちを認めた。

 視線を下げていくと、秋色に染まりかけた斜面の林が目に入った。

 枝葉のすき間に煌めく、銀の柳葉やないば一つ。

「しまった!」

 バクはルウ子たちのもとへ駆けもどった。

 間にあわない!

「アアアアアッ!」

 矢は蛍の太腿に突き刺さった。とっさにルウ子をかばったのだ。

「蛍!」

 ルウ子はふらつく蛍を背中から抱きとめた。

「だ、大丈夫です……」

 蛍は笑顔を見せるも、唇がひどくふるえている。

 上から舌打ちが聞こえた。

 バクはそれで正体がわかった。

「出てこい! シバ!」

「油断したなァ、ボウズ!」

 赤髪の男が姿を現した。斜面の中腹、密林から突き出た太枝に立っている。

「今さらなんの用だ! 孫は死んだ。NEXAはもう終わりだ!」

 シバは尖った鼻先を斜めに上げた。

「知ってるぜェ! 流浪の魔女一味が、お宝を持ち逃げしたことをなァ」

 ルウ子は言った。

「なるほど……タワーの周りで兵を指揮してたのは、あんたね?」

「フッ」シバは鼻で笑った。「さァて、今持ってんのは誰だ? ンン?」

 シバは眼下の三人を見比べた。

 バクは言った。

「ニコをどうする気だ!」

「知れたことよ」

 蛍は痛みに顔を歪めつつ、シバに怒りをぶつけた。

「電気があろうがなかろうが、他人が苦しもうが関係ない。永遠の若さを手にして、永遠に享楽の人生を続けたいだけ。あなたの頭の中身なんて、その程度よ!」

「ヘッ」

 シバはまともに答えようとしない。

 ルウ子は意地悪そうに言った。

「残念だったわね。孫が死んだ今、ニコの電話番号知ってんのはあたしらだけよ」

「湾岸の発電所を漁っていたら、こんなものが出てきたんだがなァ」

 シバは十一桁の番号が書かれた紙切れを見せ、それを読み上げた。

「あ!」

 バクとルウ子は同時に叫んだ。

 ニコの前のパートナー、平賀源蔵は番号を覚えるため何度も紙に書いていた。その処分が不完全だったのだ。

 シバは高く笑った。

「そういうことだ。なに考えてんのか知らねえが、契約を渋ったのは正解だったなァ。素直によこしゃあ、助けてやってもいいンだぜ?」

 もし誰かがニコと契約を交わしていたら、今頃三人はシバの『銃』で皆殺しだったろう。いや、どのみち奴はそうするつもりなのだ。シバとはそういう男だ。

「従うことないぞ」

 バクは女二人をかばうように立った。

「やめとけよ。そんなヤワな盾じゃ突き抜けちまう」 

「俺はただの盾じゃないぜ」

 バクはゴールキーパーのごとく大きくかまえた。

「なら、試してやろう」

 シバは矢を放った。

 バクはそれを片手で払いのけた。

 二の矢。

 バクはそれも払った。

「ずっとそこでそうしてろ。そのうち熊楠がもどってくる」

 シバから笑みが消えた。

「ボウズ、逃げんじゃねえぞ!」

 シバは矢を捨て、猛然と斜面を駆け下りた。

 バクたちとシバは十メートルほどの間をおいて相対した。

「あンときはてめえにツキがあった。だが……」シバは天を指した。「今度は俺様だ!」

 厚い雲の彼方、日はまだ高いところにある。

「それはどうかな!」

 バクとシバは同時に短剣を抜いた。

 戦いの場は平均台のように狭い。進むか退くかだ。

 シバは一歩また一歩と砂利の上を行く。

 バクは動かない。

 シバは歯を見せた。

「今度こそ噴水ショーにしてやるぜ!」

 シバは獲物を定めた豹のごとく駆け、ヒュッと剣を突き出した。

 バクはかろうじてこれを払う。

 シバは打ちこむ。

 バクは払う。

 一方的な攻防がしばらく続いた。

 シバは打ちこむ。

「諦めろ!」

 バクは払う。

「まだだ!」

 シバの顔に焦りの色がにじんでいく。熊楠との接触を怖れているのだ。

「そうかい!」

 シバの左腕。手中に光るものがった。

 シバは右で剣を打ちこむ。

 バクはそこに剣をあわせる。

 その隙、ナイフを放たんとシバは左腕を引いた。

 来た!

 バクはさっと頭を下げた。

 その背後。

 石を手にしたルウ子のジャンピングショット!

「ウッ!?」

 石はシバの左手を直撃。一瞬動きが止まった。

「シバアアアアア!」

 バク、渾身の突き。

「……」

「……」

「……ク」

 切っ先はシバの脇腹を貫いていた。

 バクは剣を引き抜く。

 シバは剣とナイフを手放すと、片膝を落とし、ゴロと横たわった。

 バクはシバの武器を拾うと、崖下の海へ投げ捨てた。

 シバは赤黒くなった腹を押さえ、かすれた声で言った。

「き、汚ねえぞ……いきなり助っ人……アリかよ」

「暗器使いのあんたに言われる筋合いはないわ」

 ルウ子は赤茶けた手の埃を払った。

 宮根島でシバを取り逃がしたバクは再戦に備え、先の連携撃をルウ子と打ちあわせておいたのだった。

 それにしても、恐るべきはルウ子の集中力だ。ぶっつけ本番。風に暴れる小旗のごとく不安定なターゲット。一度きりしか通用しない戦法。その道のプロでも外しかねない場面だった。

 バクは深く深く息を吸い、そして吐いた。

 ともかく、決着はついたのだ。

「蛍」

 バクは赤く染まった短剣を蛍に差し出した。

「……」

 片足引きずる蛍はルウ子にもたれかかると、力無くかぶりをふった。

「仇はいいのか?」

「そんなことをしても、私の両親は喜びません。それにルウ子さんも」

 蛍の言葉に、ルウ子はうなずいた。

「カラスの餌なんかほっといて、さっさと行くわよ」

 バクは剣の汚れを太腿の間で拭うと鞘に収めた。

 負傷の蛍をルウ子から引き受け、背負ったときだった。

 地面が低く笑った。

「ヘヘ」

「!」

 バクたちは固まった。

 シバは腹から赤いものを滴らせながら、ゆらりと立ち上がった。そしてなにを思ったか、右手で左手首をぐいと引っ張ると、肘から下が根こそぎちぎれて、刀の先端のようなものが露わになった。

 シバの左腕は義手だったのだ!

左腕コイツさえ失ってなけりゃ……あの細目野郎にこき使われることはなかった。奴は海でしくじった俺を拾い……戦車の試作にまわすはずだった大金を……この世界一精巧な義手につぎこんだのサ」

 シバの息は荒いものの、まだ数太刀報いるだけの気力も血液も残っているようだ。

 バクは蛍を下ろしてルウ子に預け、さっと剣を抜いた。

「逃がさねえ……てめえら道連れだ!」

 シバは叫ぶや、バクに襲いかかった。

 バクは冷静だった。

 腕では劣る。とにかく時間を稼ぐんだ。

 シバの一閃。

 バクはそこに刃をあわせた……。

「?」

 ……が、そこに光るものはなかった。

 代わりに、バクの腹から赤いしぶきが飛び散った。

 幻惑された!? 牽制フェイントに引っかかってしまった!

 激痛に目が眩む。体中の全感覚が裂けた一点に集まり、手足に力が入らない。

 シバが立ち上がれたのは、拷問に耐える訓練を受けたプロの戦士だからだ。その差が命取りとなった。

「死ねやぁ!」

 シバはバクの心臓めがけて刃を突き出した。

 バクは動けない。

「バクゥゥゥ!」

 ルウ子と蛍の絶叫。

 ……ひどいもんだ。

 ……残りの人生と引き替えに稼いだのが、たったの数秒とはな。

 ……こんなんじゃ、あの世で『あいつ』にあわせる顔がない。

 ……そんなことないよ。

 ……えっ?

 バクはそこで我に返った。

 シバの全霊を賭けた突き……が寸止めのまま固まっている。

 赤髪の男は尖った左腕を突き出したまま、おそるおそる下を向いた。

 鋭く隆起した左胸。その突端から赤水が噴き上げた。

「逃げ切れなかったのは……俺か」

 シバはどうと地に臥し、そのまま果てた。

 遮るものがなくなったその先には、弓を携えるタチがいた。

 雑草のごとき蓬髪や髭はさっぱりして、今や別人だ。

 タチは低く言った。

「裏切り者は生かさねえ。それが海の掟だ」

 タチの背後に、二頭の馬を連れた大男が近づいた。

「そのセリフはこれで最後になるんだろうな?」

 タチの肩がびくっと跳ねた。

「も、もちろんスよ師匠!」

「それより手当だ」

 熊楠はバクと蛍の応急処置をすませると、三人をタチに預け、線路に咲いた一輪の矢羽のほうへ歩んでいった。

 タチは意識なかばのバクを一人馬に乗せ、自身は女二人ともう一頭にまたがり、熊楠を待った。

 熊楠はうつ伏せの男を見下ろした。

「孫を殺し、ニコをわが物にする機会は何度もあったはずだ。我欲の塊のような貴様が、義手一つの恩にこだわっていたとはな」

 熊楠はシバを抱え上げた。

「海に還って出直してくるがいい」

 亡骸は崖下の海に消えた。

 二頭の馬は村へ急いだ。



 10月4日


 バクは病室で目覚めた。

 秋の優しい西日が足もとを温めていた。

 四人部屋。ベッドは一つ空いている。

 正面に蛍の顔があった。先に起きていたようだが、まだ目が一本線だ。隣のルウ子は無傷のくせにまだ泥眠している。

 深手を負ってからのことは、なにもかもうろ覚えだった。坂道を登り切り、森を抜けると、小麦色の絨毯が広がった。はじめて見るのにどこか懐かしい感じがした。白衣の男となにか一言二言交わした。先生の顔は絞りたての真夏のTシャツみたいだった。

 思っていたより傷は浅かったのか、それとも先生の腕の賜物か、トイレくらいなら一人でも行けそうな気がした。

 バクは布団をめくると、もぞもぞと起き上がり、スリッパをはいた。

 病室は空気を入れ替えるためか、ドアを開け放してある。

 廊下から女たちの声が近づいてきた。

「クッ、まだまだ……」

 これは昭乃の声だ。すぐにでも駆けて行きたかったが、急には動けない。

 棒が倒れたような音。

「だめですよ、無理しちゃ。練習は三十分までって言われたでしょ?」

 これは熊楠が育てたという新米看護師か? それにしてもどこかで……。

「ダメ?」

「少女の目をしたって無駄です」

「!」バクはバッと立ち上がった。「イッツツ……」

 あまりの痛みに腹を押さえるしかなかった。

「一摩さんより厳しいな」

 昭乃のため息。

 イスがきしむ音。

 車輪が床をする音。

 病室の出入口に昭乃の姿が見えた。

 昭乃はバクを見つけると微笑んだ。

「起きたか」

 そこでぴたりと車椅子が止まる。

 昭乃は続けた。

「あれからずいぶん苦労したそうだな」

「ま、まあな。っていうか昭乃」

「うん?」

「まさか……歩けるようになったのか?」

「夫と手を繋いで歩きたい。私はひたすらそれだけを願った。先生はよく言っていた。奇跡の決め手は医師の力ではなく」昭乃はぎこちない手つきで胸に手をやった。「『意志』の力にあったのだと」

「それを言うなら」バクは頭突きの真似をした。「『石』みたいなガンコさじゃないのか?」

 昭乃はしらっと目を細めた。

「おまえもそんなくだらんことを言うような歳になったか」

「ちょっと乗っかってみただけだって」

 二人は笑った。

 車椅子はなぜか止まったまま、それ以上進もうとしない。

 昭乃はじれったそうにふり返った。

「なにをしている。恥ずかしいのか?」

「だ、大丈夫です」

 車椅子の脇から白衣の女が現れ……。

 ナースキャップを外し……。

 おさげ頭を露わにした。

「おかえりなさい、バク」

「ミーヤ! ゆ、幽霊じゃないよな?」

「さわってみる?」

 ミーヤは歩み寄ると、潤んだ瞳でバクを見上げた。

 バクは抱きしめた。

「ミーヤ……」

「バク……」

 言葉も、ふるまいも、それで精一杯だった。

 光が満ちてなにも見えない。

 真っ白だ。

 喜び、安堵、そして苦悩の記憶……昂ぶる三つの原色が一つに重なりあっていた。

 白んでいた視界が少しずつ晴れていく。

 二人は唇を重ねた。

 それがあまりに長かったせいか、騒ぎで目覚めたルウ子が野次を入れた。

「世界を二人だけのものにしないでくれる?」

 そこでようやく、バクとミーヤは我に返った。

 ルウ子は続けた。

「ほっといたら、そのままそこでベッドインしそうだったわ」

 二人はそろって赤い顔を下に向けた。

 バクはミーヤに訊いた。

「処刑されたって聞いた。いったいどんな魔法を使ったんだ?」

 ミーヤが口を開きかけたとき、廊下のほうから男の声がした。

「私はそんなことを言った覚えはないぞ」

 白ずくめの熊楠が車椅子を押しながら入ってきた。

「は?」

「私は『ミーヤの最期は見ていない』と言っただけだ」

 熊楠は事情を語った。

 彼がそう言うのも当然だった。ミーヤを窮地から救ったのが彼自身なのだから。

「知ってて……黙ってたのかよ」

 バクは大粒の雫を床に落とすと、ミーヤを再び抱き寄せた。

 熊楠はあたふたと両手の平を見せた。

「す、すまん。言えば二度と口をきいてやらんと、昭乃に脅されていたのだ。君を村に連れてくるなら、どうしても驚かせたいからと」

 昭乃は激しくかぶりをふった。

「ち、ちがう! 私は百草先生に入れ知恵されたんだ」

 そこへ百草が入ってきた。

「妙だな。私は熊楠君に相談を受けたんだが……」

 むなしい責任のなすりあいだった。

 なぜなら、そのときすでにバクとミーヤは……。



 11月28日


 バクとミーヤの再会から二ヶ月。

 統京で情報収集を続けるタチから便りが届いた。

 列強軍団は難なく本土上陸を果たした。孫と電気を失ったNEXA軍に戦う意思はなく、NEXA本部は無血開城となった。 

『科学帝国日本』が世界支配の野心を抱いている、というのは軍拡のための建前で、彼らの真の目的はルウ子が読み切ったとおり、マスター・ブレイカーなるものをその手に、発電の利権を独占することにあった。

 軍人たちは母国と変わらぬ停電の国に戸惑っていた。諜報員が命がけで送った報告書や写真はいったいなんだったのか。調査隊の結成が急務だったが、上陸した国々の間で牽制合戦がはじまると、互いに身動きが取れなくなっていった。

 そんなとき、世界中の新聞に上陸作戦時の写真が載った。

 見出しは『大義なき侵略』

 非列強諸国はおろか、出遅れた列強国までもが態度をがらりと変え、この事件を痛烈に非難した。侵略者のレッテルを貼られた国々の立場は悪くなる一方だった。

 そして当月25日、ついに全軍撤収命令が下った。日本に駐留していた軍隊は、マスター・ブレイカーを手にするどころか、その存在の真偽さえ確認できずに母国へ引き返していった。


 列強が日本上陸を果たして間もない頃、世界各地で離島海軍の船が目撃された。欲に目が眩んでいたのか、列強首脳はその報告を「些事である」と歯牙にもかけなかったという。

 


 11月29日


 その日の晩。バクと蛍の全快を祝い、近所の住民を集めて宴会が催された。

 その席でのこと。

 酔いのまわった蛍は、仲むつまじいバクとミーヤを物欲しそうに眺めていた。

「いいな……」

 蛍は人差し指をくわえた。

「あんたには、あたしがいるでしょ?」

 ルウ子はその指を取り、「はむ」とくわえた。

 蛍はバッと身を引いた。

「ええええええっ!? ル、ルウ子さんて実は『そういう』趣味だったんですか?」

「バーカ! あたしにはまだやることが残ってんのよ。自動的にあんたも道連れ」

「は、はぁ……」

「それが一段落ついたら、オトコを探してあげるわ」



 11月30日


 ルウ子と蛍が忽然と姿を消した。

 今朝、ミーヤが二人を起こしに宿舎の部屋を訪ねたとき、そこはすでにもぬけの殻だった。

 ミーヤは宿舎前に人を集め、捜索にあたろうとした。

 そこに、一枚の紙切れを持ってバクが駆けつけた。

 バクが酔いつぶれて眠っている間に、ルウ子が懐に忍ばせたようだ。

 それはたった三行の短いメッセージだった。


 死に満ちた世界へ行ってきます。

 あんたたちも、生きのびてね。 

           ルウ子(with蛍)

 

 夕方、タチから便りがあった。

 ふた月前の大停電以来、首都圏は混乱を極め、食料をめぐる争い事が絶えない。

 人々はそろって同じことを口にしていた。

「第二次パワーショックがはじまった」と。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ