表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/16

05話 ~とある少女の憤慨~

 緑色の血を塗りつぶすかのように、私の鮮血が舞う。

 不思議と痛くはなかった。

 でも、びっくりするくらい熱くて。冷たかった。


 ――ドサ。


 大の字になって、その場に倒れる。どうやら少女の直剣が私の胸を割いたらしい。


 「なん……で」


 辛うじて保っていた意識。その中で、少女の絶望に染まった呟きが聞こえた。

 どうやら、私は魔族とやらではないらしい。

 そんなことは端から知っていた。十何年もこの体と付き合っているんだ。自分の血の色くらい知っている。


 「おい、しっかりしろ! しっかり……してくれ」


 ぼやけた視界に映るのは、真っ青な顔をした銀髪の少女。悲痛な顔をして、私の体を持ち上げる。


 「……どうして私はいつも。――おい、早くポーションを!」


 温度すらわからない液体が、私の体を濡らす。スーッと、制汗剤を使ったような心地のよい清涼感と共に、だるくて動かせなかった手足が、次第に元通りになった。


 「……ん、い、たた」


 ようやく痛みを感じた。ヒリヒリと、それでいてとげで刺されたような、そんな気分の悪い痛みを。


 「おい大丈夫か!」


 あ、また。


 従者であろう冒険者が持っていたのは、先ほど黒い人たちがくれた最高級品のポーションだった。まさかこの人たちも持っていたなんて。


 「――ッ、店長!」


 頭がボーっとしていたけれど、血まみれの店内を見て我に返る。

 ウググとうなり声を上げて倒れている店長を、私は抱きかかえる。「ごめんね、いたかったよね」と、ポッケから先ほど譲り受けたポーションを取り出し彼にかける。


 「おい何をしてるんだ!」

 「黙ってよ!」

 「確かに君は人間だった。けどそいつは……」

 「魔族とか何だとかは知らない。けど、それでも私にとっては店長だから」


 白く発光したその液体は、店長の傷をあっという間に癒してくれた。

 こんなものを作り上げてしまうのだから、愛の聖女はすさまじい人だ。


 「あり、がと。ふふ、やっぱりタバネちゃんはタバネちゃんね」


 いつの間にかに、その姿は私の知っているいつもの店長になっていた。

 そうして大きな手のひらでゆさゆさと頭を撫でられる。


 「あり、えないだろう。何なんだお前たちは。魔族と、人間なんだぞ。相容れるわけがない」


 「確かに。人と、私たちの確執は大きい。でもね、私も今確信した。きっと共存はできるわ」


 と、店長は私をぎゅっと抱きしめ「この子みたいな人もいるから」と続けた。


 「ごめんね、タバネちゃん。私たち、あなたをだまし続けていたの」

 「……ううん、いいの。別に、何かが変わったわけじゃないから」


 言い放つと、店長は大粒の涙を流した。


 「ほんとに、あなたはこの村の『宝物』よ」


 私的には、すべてが大団円に終わったつもりだった。けれども青い顔のまま立ち尽くす銀の少女は違うらしい。


 「は、はは。じゃあなにか、良い魔族もいて。人間のお前はずっとここで、そいつらと暮らしてたのか」


 「うん。たぶん、そうだと思う」


 今思えば、幼い頃いじめられていたのは、別にレベルだけが理由じゃなかったのかもしれない。

 私だけが人間で、この村にとっては『異物』だったから。


 「……そうか。言い切るのか」

 「私、魔族とかそういう言葉知らなかったけど。でも、たぶん私たちと変わらないんじゃないのかな」

 「だったら勇者はどうなる。何のために勇者は存在している」

 「……私はね、勇者とかそんなのも知らない。けど、悪い人をやっつけて、弱い人を助ける『勇気ある人』が、勇者なんだと思うよ」

 

 「……まさか。こんな田舎の小娘に、私の価値観を全否定されるとはな」

 

 そう言葉にしたものの、銀の少女は出会ったときよりもさわやかな顔をしていた。いや、本来こんな柔らかい顔だった気がする。

 前世でであった彼女は。


 「帰る」


 「……え?」


 きびすを返し、扉へと向かう少女。

 「今回は見逃してやる。だがやはり魔族は敵だ。私の気が変わらないうちに避難することだ」

 そういい残した少女は、足早にお店から出て行ってしまった。

 まったくもって、今日は嵐のような一日だ。


     ○


 「と、いうことがありました」


 「は、はい」


 私は家へと帰ると、お父さんを正座させて座らせていた。

 母の命日だから、きれいなお花を買ってきたよ~と無邪気な顔で帰宅してきた父を、問答無用で怒鳴りつけて。


 「私はとっても怒ってます。理由はわかりますか?」

 「……魔族のこと隠してたから?」

 「少し違います」

 「村のみんなが、タバネとは違う魔族だから?」

 「違います」 

 「お、お父さんがふがいないから?」

 「それはあるかもしれない」

 「え、えぇ~。教えてほしいな。タバネが怒っている理由」

 

 分からないのかな。

 

 「……何も言って、くれなかったから」


 「え。そ、それは――」

 「仕方がない? 違うよ。たぶん、怖かったんだよね」


 図星とばかりに顔を伏せる父。


 「店長がまったく別の姿になったとき、すごく驚いたよ。言ったらあれだけど、私から見たらすごく怖かった」


 「……」


 父は私の言葉に、さらに気落ちした顔になる。今にも泣き出しそうなほどに。


 「でも、それがなんなの。いまさら嫌いになる訳ないよ。教えてくれなかったってことは、私を信じてくれてなかったってことじゃない」


 「ち、ちが」


 「ちがくないよ。それにお父さん。私にまだ何か隠してるよね」


 「……」


 うすうす気づいていたんだ。この村の違和感の正体は、さっき分かった。やさしい嘘だらけのこの村には、もうひとつだけ隠し切れない偽りがあった。


 「私たち、本当の親子じゃないよね」


 「――そ、それは」


 父はさっき、口を滑らせたんだ。『村のみんなが』って。つまりお父さんも魔族ってことになる。


 「正直に、言ってほしい」


 「……そのとおり、なんだ」


 やっぱり、そうなんだ。

 父は顔をしかめて、まるで死刑執行される直前の死刑囚のような顔をしていた。断罪されるのを、待っているかのような。


 でも、嘘をついていたのは父だけじゃない。

 私も、とても大きくて決していえない『嘘』を抱えていた。

 いい機会かもしれない。


 「タバネはね、信じられないかもしれないけれど泉のほとりにいたんだ」


 「え? それって、捨て子ってこと?」


 「正直わからない。でも、五歳くらいだったタバネは、ピクリとも動かずに、そこにただ立ったままだった」

 

 五歳、くらい?

 小さいころの記憶は確かにないけど、そんなことって。


 「僕が声をかけても、しばらく死んだ人みたいだった。ようやく喋るようになったのがその一年後くらいかな?」


 「つまり、どういうこと?」


 「うん。お父さんにも分からないってこと」


 そ、そんなばかな。抜けているとは思っていたけど、一切事情の分からない私を今まで育ててきてくれていたなんて。

 お人よしが過ぎるよ、お父さん。


 「でも、そんなタバネだったけどお母さんは溺愛してた。子供、いなかったしね。それでタバネが人間の子だって分かって。お父さんとお母さんの力で、村の人を人間らしく見せる結界を張ったんだ」


 「そんなすごいことできるの?」


 「あぁ、うん。そして、村人全員と協力して、タバネを育てた。バレないように、外の世界とのかかわりを断って」


 そっか。そうだったんだ。

 私が世界に対して無知なのは、そう育てられたからなんだ。


 「――そういえば私って、どうして魔法が使えるの?」


 「そ、それは分からないよ。魔族だって、魔獣の力を借りないと魔法は使えない」

 

 分からないのかい。ますます謎は深まるばかり。もしかして、私が『転生者』であることとなにか繋がりがあるのかな。


 「でもきっと、タバネは特別な存在なんだと思うよ」

 「そんな。私は」


 「きっといつか、魔族と人間をつなげて結んで、束ねてくれる。そう信じてる」

 

 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ