第6話 魔法の使い方
すいません、ちょい短いです。
身体の中を熱い何かが駆け巡る。まるで血潮のように激しく流れるそれは、先程まで一切感じ取れなかったものだ。
「これが、魔力・・・」
俺の全身から立ち昇る黒いオーラはまるで煙のように形を変えながら、ふわふわと俺の周りを漂う。そのオーラを俺がみていると、アンジェリカから声をかけられた。
「さて、魔力を目覚めさせたわね。後は、それをコントロールするトレーニングよ」
俺は彼女の声に返事はせず、少し不満そうな表情を見せてやる。
「なに?なんか文句ありそうね」
「いきなりあれはねえだろ!本当に死ぬかと思ったわ!」
「大丈夫よ、魔力が目覚めれれば絶対に死なないくらいの威力で撃ったから」
「目覚めなかったら死ぬんだよなぁ・・・」
まあ、結果オーライと言えば結果オーライだ。実際に俺は生き残り、魔力も目覚めた。だとしたら、俺には彼女を責める権利は無いのだろう。俺は彼女と初めて出会った時から、復讐の為に全てを捨てる覚悟はしているのだから。
「ま、いいや。でも、コントロールね」
「そう、例えば今の貴方の状態。オーラが煙みたいに揺らめいてるでしょ?」
「ああ」
「それを身体の中に抑えて、必要な分だけ出す。そうしないと、直ぐに魔力が無くなっちゃうから」
言われてみると、確かにあの白髪の少年は、俺とは違ってオーラが身体の周りに留まっていた。恐らく、あれは身体強化の分に使っていたのだろう。
ならば、あれをイメージすれば良い。あの少年は言った。魔力をイメージで固めるのが魔法だと、だから、先ずはこの魔力を身体の中に抑え込むイメージを持つ。
すると、周りを揺蕩う煙が身体の中に入り、身体の中で魔力が渦巻き始めた。そして、それを少しだけ身体の外に纏うように出す。
心の中でやった通りのイメージ、だが、少しだけ出そうとした瞬間、魔力が一気に流れ出た。
「くっ!」
すると、アンジェリカが大変楽しそうに腹を抱えて笑い出す。
「アッハッハ!まあ、最初はそんなもんでしょ。寧ろ身体の中に抑え込めただけ、上等だよ」
「くっそー、難しいな」
扱ってみて初めて分かった。魔力は水に似ている。身体の中に流すだけなら、身体の中という器の中で流れるため制御は容易いが、外に出すとなると、その難易度は一気に跳ね上がる。少し身体の外に出そうとすれば、一瞬開いた扉から、爆発的に魔力が流れ出てしまう。それこそ、まるでダムから放水する如く。
その後、2時間ほど根気強く続けるが、全く解決策が見えてこない。そして、最早何度目ともわからない魔力を放出する動作を行なったところで、身体の中の何かが切れる感覚がした。
「あら?魔力が出ねえ・・・」
そう、先程までは無限かと思えるほどに湧き出ていた魔力が一切出てこないのだ。
俺が首を傾げていると、遠くでレイと遊んでいたアンジェリカがこちらに寄ってきた。
「約2時間、それが貴方の魔力を無造作に放出した場合の限界ね」
「あ、やっぱりこれ限界とかあるのか」
「当たり前よ、それでその状態が魔力をオフにしている状態。つまり魔力を一切使っていない状態、その感覚を覚えておきなさい、それが普段の状態だから。で、魔力を使いたくなったらさっきまでの感覚を思い出せばいいわ。多分、1時間もすれば魔力は元に戻るから。後、魔力使用状態では基本魔力を身体の中に抑えていないと、すぐに魔力無くなっちゃうから覚えておきなさい。」
「う、うーん?」
魔力などこれまで使ったことが無いから、どうにも感覚が分かりづらい。常に魔力を不使用状態にしていたから、使用状態から切り替えるというのが、非常に難しいのだ。
言葉で伝えてもらえるのはありがたいが、感覚の話になると辛い。
「ま、1時間は魔力トレーニングが出来ないし、とりあえずは体力作りね。これはレイも参加してもらうわ」
「おー!」
「え、さっきまで俺トレーニングしてたんだけど・・・」
「とりあえずは・・・」
完全スルーである。絶句する俺のことを完全に無視しながらアンジェリカがドンドンと殺人的なメニューを積み重ねていく。
メニューを聞くたびに目をキラキラと輝かせるレイの姿が少し羨ましい。
「さて、こんなもんね。2時間もあれば終わるから、行くわよ」
「ん?2時間って・・・俺の魔力トレーニングは?」
「ゼロの魔力は夜のレイを抑え込むようにとっておいて、魔力トレーニングは1日2時間程度で十分だから。それに、戦闘センスの方が結局実戦で役に立つし」
「まあ、ごもっともだな」
言葉はこれまでとばかりに、アンジェリカが構えを取る。最初のトレーニングは一回5分の組手を3人で疲れきるまで行うこと、1組目は俺とアンジェリカからだ。
「さて、あんまり肉弾戦は得意じゃ無いんだけどね」
「『暴食』のグラ、我に力を」
俺が加護を発動すると同時にアンジェリカが先制攻撃を仕掛けてくる。その速度は、非常に速い。だが、あの少年よりは遅い。
とはいえ、俺も加護の力を全力の3分の1程度しか出さないため、かなりギリギリのタイミングで躱す。
このトレーニングは戦闘の感覚を掴み、スタミナを増やすことを目的としているため、全力ではなく、弱い力で長時間というのが大事なのだ。それに引き出す加護の力が小さければ、後に出てくる反動も小さくなるため、夜のレイのトレーニングにも支障が無い。
俺はいつもより制御のしやすい身体を動かしながら、身体の感覚をつかんでいった。
× × × ×
「はー、疲れた・・・」
「風が気持ちいいわね」
湖の向こう側に見える山から風が吹き降りてきて、火照った身体を冷やす。現在、俺とアンジェリカは、草原の近くにあった湖のほとりで休憩していた。先程までのトレーニングで予想以上に体力と精神力をすり減らしてしまったためだ。
というのも、レイが予想以上に強く、3人の中で加護や魔力を抜きにした身体能力だとぶっちぎりでレイがトップに立つため、2人がトレーニング中に命の危険を何度か感じてしまったせいである。
ちなみに、超本人のレイは元気に湖ではしゃいでいる。
「おっおー!すごーい、魚が沢山だー!」
「呑気なもんだな」
「あんまり、深刻になられてもトレーニングが進まないからね・・・さて、おーい!レイ、そろそろ月が出る。魔法を解くからこっちに来て」
アンジェリカが呼びかける。すると、しゃがみながら、湖の中を覗き込んでいたレイがすぐに立ち上がって、こちらへと走ってくる。
彼女が走ったことにより、弾けた湖の水が夕陽に照らされて、彼女がまるで血路を走って来てるかのように見えた。それは、残酷な程に美しく、悍ましい。そしてなにより、走る本人の無邪気さが何よりも恐ろしい。
「無邪気な悪魔・・・か」
普段の無邪気さと、月夜の恐ろしい姿。それらを思うと思わず呟いた言葉は、彼女を表す言葉としてはこれ以上ないくらいに適切だろう。
再び、あれと対峙するのにどこか怯えている俺を、意志の力で無理矢理ねじ伏せて、俺は夜のトレーニングの準備を整えることにした。