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悪徳の王  作者: にひけそい
第一章 王都強襲編
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第4話 暴食の加護

すいません、諸事情ありまして、いつもより字数少ないです。明日は頑張るので許してください

『加護』には、単純な身体能力強化以外にも、ある能力がある。

それは、『権能』と呼ばれる人知を超えた奇跡。例えば、『農業』に関する加護であれば、土の状態を良くしたり、作物の栄養などを増やすなどの権能があったりする。

そして、権能で引き起こせる能力は基本的には一人一つである代わりに、例えどのような方法であっても、決して真似することが出来ない。


と、まあこれが普通の、いわゆる神様から与えられし加護についての説明。俺の加護、悪魔から貰った加護は一味違う。

悪魔の加護は、それぞれの悪魔が司る性質に基づく権能を複数持っているのだ。そのかわりと、言ってはなんだが、悪魔のコンセプトに存在しない物、例えば、『農業』、『育児』などといった人間の営みに関する能力はほとんどない。


× × × ×



「さあて、勝負だぜ。レイ。誰がご主人様か教・・・」

「グルァア!」

「っ!?」


レイが吠える。

瞬間、彼女の顔が向いている直線上からずれるために横っ飛びすると、余りにも勢いがつき過ぎて、必要以上に飛び跳ねてしまった。


「ちっ、まだ制御できてねえか・・・てか、おい!最後まで言葉くらい聞けや!」

「ガァ!」

「くっそー!見えない遠距離攻撃とか反則だろ!」


見てから回避する場合、瞬発力を一気に爆発させるため、制御が難しくなる。だから、常に動き回って的を絞らせないようにしつつ、自分の感覚を掴むようにする。

だが、そう上手くは行かない。例え理性を失っているとしても、いや失っているからこそ、本能的に、俺の動きを先読みしつつ、そこに狙いをつけ始めてきた。


「ぐっ、きっついな・・・だが、だんだん感覚も掴めてきた。そろそろ行くぜ」


回避の限界、身体の慣れ、そして何より自分の身体の限界が近いことを悟り、一気に距離を詰める。

レイの咆哮をかわしながら、進むが、近くなれば近くなるほど、回避は難しくなる。

そして、残り10歩ほどの距離、動かずに固定砲台となっていたレイが、逆に近づいてきた。


「しまっ・・・」

「ガァ!」


回避は不可能、どうあがいても直撃した。レイが勝利を確信した瞬間のことであった。


「グゥ!?」

「仕留めたと思ったか?残念賞だ、バカヤロー」


土煙を割いて、伸ばされたゼロの右腕がレイの首を掴んで、そのまま地面に倒す。


「不思議だって、顔してんな。一体これがなんの能力か、教えてやろうか?これは、『暴食』の権能の一つ、『万物喰客ハングリーマン』、全ての攻撃を喰らう権能だ。お前の攻撃は当たる寸前で俺の体の範囲分だけ、喰って無効化させてもらった」

「グゥ・・・」

「さて、このまま25秒間。拘束してシメーだ」


動こうとするレイを無理矢理抑えつける。暴れるレイの力は予想以上に強く、『暴食』の加護が働いているにもかかわらず、力負けしている。


「グオオ!!!」

「くっ、悪く思うなよ」


このままでは、25秒はおろか、20秒も抑え込めない。そう判断した俺は、彼女の鳩尾、人間で言う所の喉下に手を当てて、掌底を放った。

鈍い音が聞こえて、レイの口から、引きつった声が出る。


「カ・・アア・・」

「お前の点穴を狙って撃った。1分近くは動けない」


そのまま彼女は、動きを止めて痙攣するのみとなった。見開いた白目や、口からダラリと垂れたヨダレが痛々しい。


「よし、後は抑え込むだけだね。ゼロ、彼女のこと離さないでよ」

「わかってるよ」


アンジェリカが歩いてこちらに寄ってくる。そして、レイの額に手を当てた。


冬眠アイシクル


アンジェリカの身体が淡く光り、レイの兎耳や眼に雪の結晶の紋様が浮かび上がる。

それらが現れてから、数秒すると、耳は小さくなって消えて、目も獣のような鋭さが無くなり、何時もの柔和そうな物に戻った。

レイは何が起こったのかという感じで一度目をパチクリさせると、気が抜けたような緩い表情になり、そのまま眠ってしまう。


「え、これ寝たの?死んだんじゃないよね?」

「大丈夫よ、気が抜けて寝ちゃっただけだから」

「そうなのか、ならいいや。これから寝る気にもなれねーし、こいつのこと教えてもらえるんだよな?」

「ええ、勿論。ただ、それは貴方が起きてからね」

「何・・・?こ、こ・・れ・・は・・・・」


どうやら、俺も戦闘が終わって気が抜けたらしい。加護を解いた瞬間に、どんどん眠たくなってくる。そして、意識が無くなる直前、アンジェリカがつぶやいた。


「そんなところも、親子でそっくりじゃない」


俺は、最後の力を振り絞って軽口を返してやった。


「笑えないっての・・・」



× × × ×



翌日、目を覚ましてみると再び昨日起きた時と同じ光景が目の前に広がった。

ただ、今回はランタンではなく、朝日が射し込んでいるという違いはあるが。

身体を起こすと、隣でレイが眠っていた。

規則正しい寝息を立てる姿は昨日の化け物とは似ても似つかない。俺が彼女を起こさないようにゆっくりと立ち上がると、隣のベッドで眠っていたアンジェリカも目を覚ましたようであった。


「おはよう」

「おはよう、ところでアンジェリカ?折角転移させてくれたなら、レイをちゃんと彼女のベッドに送ってやるという選択肢は無かったのか?」

「貴方と彼女が寄り添うように倒れちゃったから、仕方ないでしょ?私だって眠かったし、それにあの呪文使うと疲労感が半端ないのよ」


ぐうの音も出ないとはまさにこの事だ。それに、昨夜は彼女に助けてもらわなきゃ、最初の一撃でやられてた可能性もあるため、あまり強く出れない。

とはいえ、レイについて何も言わなかった彼女にも非はあるわけで、素直に感謝するつもりは無い。


「さて、じゃあレイについて聞かせてもらおうか」

「ええ、じゃあまず『月兎人族』について話しましょうか。その種族は、月の光を目に当てると、月の光の中に宿る特殊な魔力に反応して、身体の構造を大幅に変えてしまうの。これを私達は『先祖返り』と呼ぶわ。そして、『先祖返り』をした彼女達の力は非常に強く、ある者は魔王まで至ったという話も聞いたわね」

「魔王って、世襲制じゃないのか?」

「子孫を残せない種族だっているのよ。実際お父さんは多くの魔物から認められて魔王になったわけだし」

「へえ、面白い話だな」

「まあ、今はその話は置いておきましょう。それで私は昨晩、彼女を抑えつけるために、身体の一部の機能を停止させる『冬眠アイシクル』っていう魔法をかけたから、彼女は暫くの間、『先祖返り』することは無くなったわ。けれど、あの力は私達の目的の為には必要になる。」

「つまり、あれをレイにはコントロールしてもらうと?」

「そうなるわね。今日から毎晩特訓よ。私が魔法を解除すれば、月を見るだけであの子は再び『先祖返り』するから」

「抑えつける役目は?」

「勿論貴方よね」

「ですよねー」


いきなり追加された新たなミッションに、気が重くなる。未だに、俺のベッドで寝息を立てるレイの姿がすごく羨ましく映った。


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