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悪徳の王  作者: にひけそい
第一章 王都強襲編
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第2話 悪魔との契約

先程、貴族の少年を助けたことにより、少し時間を食ってしまったが余裕を持って出たため、無事に降臨する場所に辿り着けた。

悪魔が降臨するまで残り20分ほど、木に背中を預けて休んでいると、アンジェリカが宿から貰ったであろうパンを食べていた。

空を見上げれば、日が既に高く登っておりちょうど昼時であることがわかるため、俺も用意していた干し肉を食べ始める。

すると、匂いにつられたのか一匹のウサギが俺の横に座っていた。


「これ、食いたいのか?」

「キュウ!」


食べかけのではなく、新しいのを取り出してウサギに渡すとモッキュモッキュと、食べ始める。

紅い瞳を爛々と輝かせて、口を小刻みに動かす姿は見ていて愛らしいものがあり、思わず抱き抱えてしまう。

逃げられるかなと、思ったがウサギはひたすら干し肉を食べるだけでなされるままだ。


「お前、それでいいのか野生動物。」

「キュウ?」

「もういいや、食いたいだけ食っとけ。量は沢山あるから」


胡座の上にポンと乗っけて、頭を撫でていると、アンジェリカが近づいてきた。


「なにそれ、かわいい。私も触っていい?」

「多分、飯食わせればなされるままだぞこいつ」


言われて、アンジェリカがパンを千切って渡すと再びパクパクと食べ始めて、アンジェリカに触られ始めた。


「てか、こいつ綺麗すぎね?山の中にいたにしてはやけに小綺麗というか、ほら、白い毛並みとかふわっフワッだし」


思わず口をついて出た質問に、意外にもアンジェリカが答えをくれた。


「だってこの子魔力持ってるもの。多分、清潔感を保つ魔法を無意識で発動してる」

「へー、言われてみれば確かに少しだけ魔力があるな。動物でも魔力もってんのか」

「偶に持ってるのがいるってだけよ、全員が持ってるわけじゃない。魔獣っていうのは、こういう子が成長して、なるのよ」

「なるほどね」


思わず、魔獣の生態を知ってしまった。

言われて見てみると、確かにこの余裕の貫禄は魔獣の物に・・見え・・なく・・いや、見えないわ、これただの呑気なウサギだわ。


「てか、これゼロに懐いてるし、ゼロのペットにしたら?魔獣は便利よ?それにかわいいし」

「うーん、まあこのくらいなら」


そんなことを言っていると、唐突に辺りが暗くなる。何故と思い、空を見上げれば、太陽が黒く染まっていた。

アンジェリカに聞いていた通りだ。悪魔は太陽の輝きが失われし時にしか下界に降りてこれない。

ちなみに夜は太陽の輝きを月が反射するため、ダメらしい。


「ついに来たか」


呟くと同時に、身を突き刺すような冷気が漂い始め、周りの草木が全て枯れる。

更に、大地もまるで生きることを諦めたかのように、ひび割れた。


「キュウ・・・」


ウサギも体を震わせながら、丸まってしまった。

まあ、そんな俺も既に意識を失いそうな程に、フラフラだが。

すると、アンジェリカが俺の頰に触れる。


「さあ、来るわよ。気を引き締めて、寝たら死ぬから」

「ッッ!」


その一言を聞くと同時に、唇を噛みきって意識を戻す。

流れ出る血が唯一暖かく、俺の体がまだあることを教えてくれる。

アンジェリカは頷くと、振り返った。俺もその視線の先を向くと、7つの闇に包まれた何かがそこにあった。

アンジェリカは闇に向かって跪く。


「至高なる御方達よ、下界にようこそ」


闇の一つが震えて呟いた。


「貴様、魔王の娘か」

「左様にございます」

「魔王、『タージス』は?」

「勇者に打ち倒されました」

「そうか、奴はいい奴だったのにな」


闇は暫く無言で立ち尽くす。すると、また別の闇が立ち尽くす闇に近づき、話しかけた。


「タージスの奴が死んだのは残念だが、俺たちは務めを果たさなきゃならん。魔王の娘に勇者を殺すための力を目覚めさせねば」

「わかっている・・・立て、魔王の娘よ。力を目覚めさせてやろう」


アンジェリカが立つと、周りを7つの闇が取り囲んだ。そして、先程の二つとは違う闇が質問する。


「汝、名を教えよ」

「私の名は『アンジェリカ』、魔王『タージス』の血を継ぐ者」

「では、アンジェリカよ、これより力の枷を外す。目を閉じよ」


アンジェリカが目を閉じると、7つの闇を頂点とした、七芒星が現れ、彼女を中心に取り囲んだ。


「第一の誓い、これよりの戦いは勇者を相手とするものである」


「「「「「「「承認する」」」」」」」


「第二の誓い、これよりの戦いは神を貶めるものである」


「「「「「「「承認する」」」」」」」


「第三の誓い、これよりの戦いは魔なるものの自由のためのものである」


「「「「「「「承認する」」」」」」」


「第四の誓い、これよりの戦いは悪魔の誇りを掛けたものである」


「「「「「「「承認する」」」」」」」


「第五の誓い、これよりの戦いは邪なる思いの入らないものである」


「「「「「「「承認する」」」」」」」


「第六の誓い、これよりの戦いは人間の解放を目的としたものである」


「「「「「「「承認する」」」」」」」


「第七の誓い、これよりの戦いは世界を救うためのものである」


「「「「「「「承認する」」」」」」」


「以上、7つの誓いを持って、魔王の力を覚醒させる。汝、この誓いに偽りはないか?アンジェリカ」

「ありません」


彼女が呟くと、魔法陣が一層暗く輝き、消えた。

そして、闇の一つがアンジェリカの肩に手を置いた。


「これからの戦いは、貴方が目を背けたくなるほど、凄惨な物かもしれない。けれど、決して諦めないでね」

「はい」


話が終わると、7つの闇がこちらを向いた。


「そして、そこな人間はどうしてここにいる?場合によってはその命を絶つことになるが」

「ちょっと待ってください。彼は神の加護を持たないのです」

「なに?そんなはずは・・・なるほど、確かに」


闇に視線を向けられた瞬間から、もういつ意識を失ってもおかしくないほどのプレッシャーがかかっていた。全身があやふやになり、空の上に漂うような感覚に襲われる。


「彼はゼロ、この世界に復讐を誓う、我らの同志です。」

「人間にしては珍しい。少し記憶を覗かせてもらうぞ?」


アンジェリカが言うと、闇が近づいてきて俺の頭を掴む。

そして、一言つぶやいた。


「晒せ」


意識がグンと内側に引っ張られる感覚がすると同時に、俺の視界は黒く染まった。

ああ、眠ったら死ぬって言われてたのに。結局、ここで終わりか。



× × × ×



目を開けると柔らかいランタンの光が目に入る。微かに香ってくるこの香りはシチューか何かだろうか。

そこまで把握したところで、即座に体を跳ね起こす。


「俺はあそこで意識を・・・」


意識を失うまでの記憶が蘇ってくる。

しかし、闇に包まれた何かに頭を掴まれた後から記憶が無い。

とりあえず、ベッドから起き上がり、アンジェリカの姿を探そうとした瞬間、右腕が視界に入り、思わず絶句する。


「な、なんだこれ・・・」


右腕にはいくつもの刺青が刻んであり、元の肌色がわからないほどであった。

刺青だらけの右腕をまじまじと眺めていると、ノックもなくドアが開けられる。


「やっと起きたわね」

「アンジェリカ、あの後は・・というか、おれはどうなった」

「その腕が答えよ」

「なら、俺は・・・」

「ええ、悪魔達は貴方を認めた。なんの力も持たない貴方はもういないわ」

「そうか、漸く俺の今までは肯定されるのか・・・」


噛みしめるように呟く、あまりにも長い無力な時間は俺を毒のように蝕んでいたらしい。

俺は、あの少女、『フィオナ』を失って以来、初めて涙を流した。

抑圧された感情は止めようが無く、涙が止まらない。俺が背中を丸めて泣いていると、誰かが後ろから抱きしめてくる。

アンジェリカにしては、やけに背中に当たる感触が柔らかい。

一体誰が、と思い泣き腫らした顔を上げると、そこには白い髪の毛を肩口で切った紅目の少女が立っていた。


「君は一体・・・」

「本当に覚えがない?」


アンジェリカが聞いてくる。

はて、こんな人物と関わったことなんてあったか?というか、生まれてこの方親しく接した人物なんて、フィオナかアンジェリカしかいない。

俺が過去の記憶を掘り返していると、少女が頰を膨らませながら、俺のことをポコポコと叩いてくる。


「名前は?名前聞けば思い出せるかも」

「名前なんて無いよ、貴方がつけて?」

「は?名前が無い?それって一体」

「はー、もう答え合わせしましょう。話が進まないわ。彼女はあの時のウサギよ、魔獣になるかもしれなかったあのウサギ。」

「は?」


あのウサギ?飯やったらいとも簡単に捕まえられるあいつ!?

俺が信じられないといった顔をして、言葉を失っていると、アンジェリカが補足の説明をしてくれた。


「彼女は貴方が悪魔達の加護を貰った時に、貴方の側にいたんだけど、体の中の魔力が悪魔達の膨大な魔力に当てられて、変質したらしくてね、元の種族で進化するとしたら『魔兎族』になるはずだったんだけど、『月兎人族』っていう、魔獣よりも悪魔に近い進化を辿ったの」

「へ、へえ・・・」


またもや、面白い話を聞いてしまった。魔力が他人の魔力に当てられて、変質するなんてそうそう聞く話じゃない。

まあ、それを面白がってはいられない。彼女はあの兎だというなら、名前はどうするべきか。

兎だったから、ペットのような名前にするという考えもあるが、既に人の姿となっているのに、ペットとしては扱えない。

しかし、人の名前ねぇ・・・・

俺がうんうんと唸っていると、アンジェリカが気軽に言ってくる。


「貴方のペットなのだから、貴方の名前に由来したものをつければいいんじゃない?」

「俺の名前ね、確かにそれもありだな。じゃあ、『ゼロ』を言い換えて、『レイ』。お前の名前は『レイ』だ」

「うん、私の名前は『レイ』。よろしくね」





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