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悪徳の王  作者: にひけそい
第一章 王都強襲編
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第1話 プロローグ

柔らかな日差しが射しこむ部屋の中、少女が少年に語り掛ける。そんな少女の問いかけに少年が年相応の幼いほほえみとともに返事をすれば、お互いが幸せそうに笑みをかわす。

 それは優しい光景、少年と少女にとっていつまでも続く当たり前の景色で、何よりも大切だったもの。

 そして、今は失ってしまった幸せの憧憬。

 少年はそれでも求める、その幸せだった日々を。いかにあがこうと届くことのないそれを。



 目を覚ませば、目尻が濡れていた。ゆっくりと起き上がって枕元を見るとシミがあって、自分が泣いていたことがわかる。

 涙の原因は、痛いほどに目に焼き付く夢の憧憬。俺はフラッシュバックする光景に涙する自分に嫌気がさして、白いシーツを握りしめた。

 すると、俺の部屋のドアがノックもなしに開けられて、一人の少女が入ってくる。

 

 「目覚めの気分はどう?ゼロ」

 「最高だよ、アンジェリカ」


 嘘だ。あんな最低の記憶でたたき起こされただなんて、最悪といってもまだ足りない。

 そんな俺の心の声が聞こえたわけでもないだろうが、少女は「嘘つき」と言いながら、俺の隣に座ってきた。少女の腰まで垂れた白銀の髪がパサリと揺れて、女性特有の柔らかい香りが漂ってくる。

 彼女はしなだれかかるように体重を預けてくると、俺の胸元をくすぐりながら、耳元で甘い声を囁いてきた。


 「そんなに最高ならこのままもう一度ベッドに戻りましょう?」

 「冗談きついぜ、今日は待ちに待った日なんだから」

 「あら残念」


 今日は666年に一度しかない、悪魔達が下界に降臨する日。何の力も持たない俺が力を得られる唯一のチャンスだ。

 悪魔達が降臨する場所はここから歩いて2時間ほど、そして彼らは今から7時間後に降臨して、12分間だけ留まってくれる。この情報を知るのはここにいるアンジェリカのみのため、この機会を生かせるのは俺だけだ。

 白銀の髪を持つ少女、アンジェリカは俺が準備を始めると、ベッドから降りて、くるりと一回回った。すると、一瞬のうちに寝間着から漆黒のドレスへと着替える。

 これは手品などの類ではなく、魔法と呼ばれる奇跡の力によるものだ。彼女の魔法は一切の余計な魔力を使っておらず、その技法はいつ見てもさすがというほかない。

 まあ、そんなことを面と向かって告げれば確実に彼女は調子に乗るため、口が裂けても言うつもりはないが。

俺が最後のチェックを終えてから、宿屋の店主に一言礼を告げて、出発する。時間は余ることになるが、万が一のことも考えて早く着くに越したことはない。

道すがら、暇を持て余したのかアンジェリカが、コインを指で弾いて遊びだす。硬貨の高い音が響くたびに光がキラリと反射して少し眩しい。

最初の内は弾いたコインをキャッチしてまた弾くだけであったが、そのうちキャッチせず、回転しながら落ちてくるコインをそのままはじき返しだした。

まるでジャグラーのようにコインを弄ぶその様を器用な物だなと、まじまじと見る。すると、彼女は得意げに笑ってから、こちらに一枚のコインを弾いて渡した。

彼女が試すような視線を向けてくる。どうやら、俺は喧嘩を売られたらしい。

俺は、渡された天使が描かれた金貨を指に乗せて、弾く。

そして、クルクルと回転して落ちてきたそれをもう一度弾こうとした瞬間、爪の付け根に金貨のエッジ部分が突き刺さり、激痛が走った。


「って」


苦い表情をしながら、コインを拾い上げる。顔を上げて見ると、目の前にやたらと得意げな表情をしたアンジェリカがコインを弾いていた。

彼女のやり方をじっくりと見ると、彼女はコインの回転を見極めてコインの平面を狙って叩いているらしいことがわかる。

目的地まで手持ち無沙汰だったのは俺も同じだったため、いい暇つぶしになるなと、もう一度コインを弾く。今度は回転を見極めることのみに集中して、コインは普通にキャッチした。

そのうち、回転に目が慣れてくると、俺も連続でコインを弾けるようになってきたため、二人してコインを弾きながら歩く。

アンジェリカは俺がコイン弾きに慣れてきたことを確認すると、楽しそうに笑い、もう一枚コインを投げつけてきた。

それを受け取って、両手でコインを弾き始めるが、二つのコインは同じように飛んでくれるわけではなく、先程とは段違いに難しい。

そんな俺の様子を一回見てから、アンジェリカは得意げな顔をしてから、3つのコインでジャグリングを始めた。


「コツとか教えてくんね?」


恥を忍んで聞いてみる。

すると、彼女はコインを一度全部手のひらに収めてから、こともなげに「感覚」とだけ言い放った。


「聞いた俺が馬鹿だったよ」

「そう、まあ頑張ってね」


再び、コインを弾く。

回転を見極めて、落ちてきたそれを再び弾こうとするが、微かに聞こえてきた話し声に反応したせいで地面に取り落としてしまう。

地面に落ちたコインを気にせず、耳を澄ましてみると、遠くから声が聞こえる。


「・・・のガキ・・・・」

「取り分は・・・・しか・・・」


遠すぎるため、上手く声が聞き取れない。

もう少し近くべきかと、歩き出そうとした瞬間、服の端をアンジェリカに掴まれる。


「人攫いが、4人いる。貴族の子供を身代金と交換しようとしてるみたい」


アンジェリカの身体機能は人間よりも圧倒的に高い、俺ですら、少しは聞き取れたのだから恐らく彼女にとっては近くで聞いているようなものだったのだろう。

だから、その報告は信じる。だが、行くかどうかは別の話だ。

というのも、俺一人では対処できないためだ。

自慢では無いが、俺は弱い。鍛えてはいるものの、とある事情から俺は他の人間より圧倒的に弱い。

故に、助けるかどうかは、アンジェリカの裁量による。

だが、アンジェリカは俺に質問をしてきた。


「ねえ、ゼロ。貴族の子供をどうする?」

「俺に聞くのか?」

「私は貴方が助けたいのなら、力を貸してあげる」


彼女は俺に全ての権利を預けてくる。

その視線はまるで俺を試すようで、あまり気分のいいものでは無い。

正直に言えば、助けに行くのはやめておきたい。だが、彼女は俺に助けたいかと、聞いてきた。つまり、彼女は助けるだけの価値があると考えているのだ。

とはいえ、なんの考えも無しに答えれば、彼女は納得してくれない。

だから、俺は考えた上で答えをだした。


「助けに行こう」

「その心は?」

「貴族の息子を助ければ、後で奴に近づくためのパイプを作れるから、てのはどうだ?」

「まあ、よし。じゃあ、行きましょうか」


どうやら、正解だったらしい。いつのまにか手のひらに滲んでいた汗をズボンで拭い、森の中を走りだす。

整備されてない道を走ると、どうしても足音がたってしまうため、恐らくこの接近は既にバレているだろう。

俺が直接戦闘を覚悟して、腰のナイフに手を掛けた瞬間、隣から魔力の高まりを感じる。

思わずアンジェリカの方を振り向けば、彼女の周りを4つの氷塊が取り囲んでいた。


青の結晶撃サファイア


紡がれるは力ある言葉、魔力を伴い口に出せば奇跡を起こすそれは、4つの氷塊を信じられない速度で撃ちだし、4人の人攫いを吹き飛ばした。


「やっぱ、魔法ってのは便利だな」

「それほどでもないよ、ある程度の強者には簡単に弾かれるし。さ、そんなことより少年を、助けてあげよう」


人攫いの両手両足の腱を切って、一本の木に縛り付ける。少し酷いが、これくらいしなければ簡単に縄抜けをされてしまうため、我慢してもらう。

そして、彼らの抱えていた布袋を開けてみれば、中には一人の少年が入っていた。

どうやら、気を失っているようで袋から出しても、ピクリとも動かない。

軽く頰を叩いても一切起きないため、どうしたものかと悩んでいたら、突如、背後から恐ろしい程の殺気が叩きつけられた。

思わず、少年を抱き抱えたまま、その場を跳びのいて殺気の方向を睨む。

すると、殺気は既に消えておりアンジェリカがコインを弾きながら、突っ立っているだけであった。


「あの、なんで今、殺気をぶつけてきたんだ?」

「いくらやっても起きないし、生物的本能に訴えてみようかと」

「なんだったら、永眠するかと思ったわ!ショック死させる気か!」

「いや、ちゃんと手加減したし、それにほら、少年も、起きたよ」



言われて、手の中を見下ろすと、少年が青ざめた表情でその目を見開いている。


「えーと、大丈夫か?」

「は、はい・・・」


先程から、心ここにあらずといった感じで、声も上ずっており、会話が上手く進まない。

とはいえ、完璧にこちら側の過失なので根気よく話を続ける。

20分ほど話したところで、彼も漸く現状を把握したらしく、会話をスムーズに進められるようになってきた。


「その、ありがとうございました。私の名前は『アストレア・フォン・フランシェス』、この度のご恩にはいつか、必ず報いさせていただきます。」

「いえいえ、私のような平民に頭など下げないでください。貴方様は高貴なる御身分なのですから」


少年に頭を下げながら、俺は口元が緩むのを抑えきれない。

『フランシェス』と言えば、貴族の中でもトップクラスに王からの信頼が厚い名家。これでほぼ確実に、奴に近づくためのパイプは出来た。

これすらも、彼女の狙い通りなのかと疑いたくなるが、例え狙い通りだったとしても、結果としては最善なので、文句は言わない。


「貴方方の名前を聞かせてもらっても?」

「私は『ゼロ』、彼女は『アンジェリカ』です。名を覚えていただけたら幸いです」

「ゼロにアンジェリカ、しかと覚えました。我が『フランシェス』家に来た時には、歓迎致します。」

「ありがとうございます」


その後、森の中を通った商人の馬車に乗って、街に戻るといったアストレアと、別れを告げる。

彼を乗せた馬車が見えなくなった頃に、アンジェリカが笑いだした。


「面白い程に繋がるね、ここまでお膳立てされるとは、正に神のお導きって奴かな?」


彼女の言葉に返事は返さずに、俺は再び歩きだした。

神のお導きとは、俺にとっては面白すぎる冗談だ。今ここにいる『ゼロ』という人間は、この世で唯一神から何ももらえなかった人間であるというのに。








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