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綴られし者  作者: 白露 彩風
9/10

撥 永久の幸せの先の後悔


千夢は朧気ながら目を覚ました。目を覚ましたのにも関わらず、辺りは暗いままだった。

(もうこんな時間...あれ?魔理沙さんは...)

千夢が辺りを見渡しても、そこに魔理沙の姿は無かった。重たい体をゆっくりと起こしてみると、タオルが頭のあたりからぽとっと落ちた。ふと枕元を見れば、水の入った桶と吸呑が置いてあった。その隣には、置き手紙が添えられている。

『熱が引いたら姫林檎の甘煮食べろよ。着替えもこまめにして、今日は暖かくして、絶対に外へ出るな。明日薬を持って来てやる。 魔理沙』

それを見た千夢は、布団に掛けられていた半纏(はんてん)を羽織った。そして自分の額に手を当てて、熱を測った。

(熱下がってる...。薬いらないな、きっと...)

身体が少し汗ばんでいたが、着替えるのはもう少し後にしようと千夢は考えた。そして、もう一度置き手紙に目を向ける。きっと熱を出した千夢を帰る直前まで介抱してくれたのだろう。それに、消化に良さそうな食べ物まで置いてある。恐らく魔理沙の手作りだ。千夢は吸呑の横にあった瓶を手に取り、中から甘煮を一粒取り出した。甘煮になった姫林檎は可愛らしくて、齧ってみるとまだほんのり温かく、そして甘酸っぱかった。その味を、千夢はよく知っている。






あれは、五年前の秋。そう、霊夢が居なくなるほんの少し前の頃。魔理沙が大量に姫林檎を差し入れしてくれた事があったのだ。まだ完璧に熟してない姫林檎をどう処理しようかと考えた末に、霊夢が、

「甘煮にしましょう。そうすれば食べやすいわ」

と言って作ってくれた。

博麗神社のお金を奮発して、砂糖を沢山買ってきて、霊夢と二人で作った姫林檎の甘煮。出来てすぐに味見した時は、甘さと酸味が分離していてイマイチだったが、姫林檎を持って来た魔理沙、ちょうど遊びに来ていた早苗と早季にも振る舞った。みんなで甘いだの酸っぱいだの言いながら、それでも、美味しい秋の味覚を楽しんだあの時間。そして早苗が教えてくれた姫林檎の花言葉。



「たしか...『永久の幸せ』とか『後悔』だったっけ...」

千夢は涙を拭った。あの頃は、この幸せが永久に続くと信じていた。でも、あの異変があって、それぞれが後悔だらけの日々を過ごしている。

「全然...甘くないです...こんなにしょっぱい甘煮...霊夢様の方が...絶対美味しいんだから...」

口に含む僅かな甘みが、しんっと雪のように身体に染みた。





その時だった。


カサッ


外で誰かの衣が擦れる音がした。

障子の先から感じる強い妖気。


千夢の涙は消えていた。

今までに感じた事も無いほどの恐怖と

こんな夜更けに自分の寝込みを襲おうとしている者への嫌悪感と

『博麗の巫女としての使命』が織り交ざり、


一歩



また一歩



そして、障子を思い切り開け、


外の冷たい風に髪を靡かせ、


目の前の者を凝視した。



10〜11月が旬の姫林檎は、本来観賞用で食用には向いていないそうです(笑)

作者が林檎のコンポートが好物なので、姫林檎も食べれるのではと思ったのですが、コンポートくらいなら食べれるみたいです!でもかなりの量の砂糖が必要な気がするので、大量摂取は難しそうですね…。食べてみたいなぁ。

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