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綴られし者  作者: 白露 彩風
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肆 不変と可変


ー魔法の森・アリス邸ー

「また来たのね、魔理沙。本当に貴女は丁度紅茶が入った頃に訪れるんだから」

「それだけ心で通じあって...あっ」

魔理沙は言葉を途中で区切った。そのやり取りに懐かしさを感じたのだ。

「霊夢...。あいつもそう言えば、いつもそんな事言ってたぜ...。本当に、お互い狙ってるんじゃないかってくらい、タイミングが合ったんだよな」

「......そう...」

魔理沙がフッと笑って、霊夢との思い出話をするのを、アリスは複雑な心境で聞いていた。

「それで?今日は何の話をするんだ?」

「特にいつも決まっていないでしょ。......貴女、最近千の所へ行ってるのかしら?」

魔理沙の予想通りの言葉が掛けられた。

「私が行かないのはなぁ、あいつらの為であって...」

「5年よ...」

アリスは魔理沙の渾身の言い訳を途中であっさり遮った。

「なんだよ、アリス。私に5年も経ってすっかり婆さんだなとか言いたいのか〜?流石に人間だからと言ってそれは無いぜ〜」

「千は14歳になったのよ」

魔理沙の惚けにもアリスは真剣な眼差しを魔理沙に向けた。魔理沙は口を閉じ、少し俯く。

「貴女はどう考えているの?このままで良いと思ってるの?霊夢がいなくなってから5年が経つのに、貴女はこれっぽっちも変わってない。ずっとあの頃のまま。いいえ、あの頃の貴女の方がキラキラ輝いていたわ。それが何よ。今代の博麗の巫女に目も合わせられない、博麗神社にも一切訪れない。千の14歳の誕生日だって、私が渋々連れて行って、それでも『おめでとう』の一言も言わずに帰ったじゃない!いつまでそんな態度を取るつもりなの!?」

アリスの怒号が響き、魔理沙はそれを一心に受け入れざるを得なかった。

「なぁ、アリス...。私は、何の為にあの頃生きてたんだろうな...私は思うんだぜ...私は霊夢に追いつくことだけが生き甲斐で...あいつの背中を...ずっと見てきたし、見ていたかったんだ...!なのに、あいつは...あの馬鹿霊夢は、神様になっちまった...。諏訪子や神奈子みたいに、あの神社に居てくれれば良いのに、あいつはいない...」

魔理沙の手元のテーブルクロスに、涙の粒がひとつ、またひとつと落ちた。涙の粒は、アリスが淹れた紅茶にも一滴零れ落ちた。

「私は...怖いんだよ...。私が先へ進んで、あいつを忘れてしまう事が...。霊夢がいなくなってから人でいっぱい溢れた博麗神社なんか行けっこ無いんだぜ。あそこに霊夢はいないんだ。霊夢がいた寂しくて妖怪だらけの博麗神社は、私の頭の中でしか存在しないんだよ...」

魔理沙の声が、徐々に嗚咽となった。アリスはその姿をただ見つめることしか出来なかった。霊夢と魔理沙は物心ついた頃から一緒にいたらしいし、異変の時も普段も、誰より一番霊夢の傍にいたのは魔理沙なのだ。きっと彼女は、一人歩きする現実が受け入れられないのだろう。そう思うと、いたたまれなくなった。

「でも、そろそろ決めないとな...。分かってた事なんだ。いつかは決断しないといけないって事はさ...」

「何の、こと...?」

話の展開についていけないアリスが困惑した。背中に嫌な汗が流れた。その先を聞けば絶対に後悔するような言葉をアリスは予期した。

「私は、魔法使いになる」




時が止まった。


咲夜がもしかしたら時を止めたのかもしれない。

「どうしたんだよ、アリス。喜んでくれないのか?」

前言撤回。

咲夜はこの家には居ないようだ。

「貴女...自分が何を言っているのか...分かってるの?」

「あぁ、もちろんだとも。私はお前と同じ魔法使いになる」

魔理沙の言葉を聞いたアリスの唇が、わなわなと震える。

「なんで!?貴女、この幻想郷で魔法使いになることがどういう事か分かっているの!?貴女は今、自分の口で、人外になる事を宣言したのよ!?幻想郷で人間が人外になるのは禁忌、その者は…」

「博麗の巫女によって退治または消される、だろ?それぐらい承知の上だぜ」

魔理沙は、少し冷たくなった紅茶を一口飲んだ。その余裕綽々とした態度に、アリスは怒りを通り越して、弱気になっていた。

「貴女を...千が退治する事になるのよ...?スペルカードでは無く、本当の殺し合いで...。貴女、それでも自分の夢を叶えたいの?あの子を苦しめてまで、魔法使いになるつもりなの...!?」

アリスの悲鳴のような怒号が再び木霊し、全ての音が遮断された。やがて、魔理沙はティーカップをそっと置き、そして投げ捨てるように告げた。

「アリス。私は、心底がっかりしてるぜ。私は、魔法使いのお前だからこうして言ったんだ。反対されるとしても、まさか血の繋がらない奴の為に、夢を諦めろと言われるなんて思ってもみなかったぜ。失望したぜ、アリス」

バタンというドアの閉じる音と共に、魔理沙はアリスの家を去った。


「まり、さ...」

アリスはただそのドアを見つめることしか出来なかった。

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