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綴られし者  作者: 白露 彩風
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壱 憧れ


あの大異変から5年が経った。

当時9歳だった千夢(ちゆめ)は当時の霊夢と同じ14歳の誕生日を迎えた。誕生日会は博麗神社で盛大に行なわれ、幻想郷中の人妖が彼女を祝った。

しかし、そこに八雲紫の姿は無かったー。


「よいしょっと」

千夢は深い水の入った桶を持ってきて、それに雑巾を浸し、きつく絞った。神社の掃除は毎日の日課で、日が昇る少し前から始まる。まずは、日々の中心ともなる居間の片付けをし、続いて宴会などで使われる大広間、廊下をぐるりと雑巾で拭いて、境内の掃除までを1人でせっせと休む暇なく行い、掃除用具も全て片付ける。そして...

ガラガラ

一番奥の引き戸を右に寄せる。そこは、独特の檜の香りがする部屋ー舞台ーの中に入る。千夢は床から1段高い舞台に寝そべり、手に板の感触を馴染ませるかのようにゆっくりと撫でる。

「さてと...そろそろ戻らなきゃ」

千夢は、その滑らかな髪を揺らしながら、部屋を後にした。


「せーん!おはよー!」

「おはよう、早季。ご飯は?」

「まだ。一緒に食べよう!」

「そう言うと思ってたわ。上がって」

東風谷 早季(さき)も、5年の月日を経て正式に守矢神社の巫女となった。今では2人で異変解決をする事も少なくない。

「千はこの後暇?」

「参拝客が来なければね。それがどうかした?」

「最近、異変も無くて、弾幕ごっこしてないでしょ?だからたまには体を動かそうと思ったんだけど」

早季は、えへへと笑った。千夢は小さく溜め息をついた。

「つまり弾幕ごっこがしたいと...。本当に好きね。まぁ、冬も近い事だし参拝客も減るだろうからいいわよ」

「え、本当!?ありがとう、千!」


あの異変ー博麗大結界崩壊異変ーの後、その最大の功績者である博麗霊夢は名実共に神格化され、博麗神社には感謝とこれからの御利益を求め参拝客が急増した。もう【閑古鳥が無く貧乏神社】などの皮肉めいた愛称は消え去り、【幻想郷一の巫女がいた神社】として、その信仰は増えている。その神社の巫女で霊夢の遺志を継ぐ千夢は、彼らの期待を一心に受けていた。


「んじゃ行くよ!」

「えぇ、どこからでもどうぞ」

千夢と早季の弾幕ごっこが始まった。互いに育ての親のスペルカードをそのまま受け継いでいた。(ただし、早季は早苗のように現人神としては信仰されてはいない)しかし、弾幕は本来、扱う者の心や性格が反映されるもの。その証拠に、千夢の弾幕は、霊夢と同じく博麗の能力を活かしたものだったが、それは美しいとは言っても型にピッタリとはまった規則的な美で、真面目な性格の千夢をそのまま表していた。一方の早季は、華やかさが光った弾幕で、見る者を圧倒するという意味では、千夢に勝るとも劣らないものだが、一つ一つの弾幕の攻撃力が弱いため、集中的に当てないと勝負に勝つのは厳しい。結果は自ずと見えていて、千夢の勝ちだった。

「あーあ。また負けちゃった」

「それでもだいぶ攻撃の集中力上がったんじゃない?」

「そうかな?にしても、千の弾幕ってなんか勿体無いなぁ」

「勿体無い?」

「だって、せっかく綺麗なのに、アレンジがないんだもの。オリジナリティって大事だと思うわ」

「オリジナリティ...?」

早季の言葉に、千は顎に手をやり、深く考える。

「はいはい、シンキングタイムしゅうりょー!千は理屈で物事を考えすぎなのよ。もうちょっとアバウトに生きなさいよ」

「そういう早季は、その計画性の無い性格をどうにか出来ないのかしら」

「あ、それよく早苗様にも言われる〜!」

「『言われる〜!』じゃないわよ、全く。早苗さん大変そう...」

千夢は大きくため息をつく。

「私も早く早苗様みたいな立派な巫女にならないとなぁ」

「どうしたのよ、急に」

「急も何も、ずっと思ってる事だよ。そういう千はどうなのさ」

「私は...」

尋ねられて、千夢は考える。自分は、誰かを尊敬した事があっただろうか...彼女の先代の巫女である博麗霊夢という人を、尊敬は...今はしていない。あの時からずっと、何処か心が冷めきっているのだ。いつまでも姿を現わさない霊夢を探して、あの部屋に入り、そしてそこで見た妖怪の賢者の泣き崩れる姿を見たあの刹那。千夢の心の中は、何かを悟ってしまったのだ。幼い心では悟ってはいけない何かを。

「私には...よく分からない。分からないよ、早季」

千夢の言葉は、静かな朝に小さく紡がれた。早季は、言葉を失い、やっとの思いで、言葉を吐き出した。

「もう1回やる?」

二人の頭上をすり抜ける風は、酷く冷たかった。

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