序 虚空の二人
名も知らぬ空間。
博麗霊夢は目を覚ました。
「...」
寝過ぎた時の目覚めのように、頭がだる重く感じる。
そんな霊夢を歓迎するように色鮮やかな蝶が目の前を舞っている。霊夢は横たわっていた体を起こした。霊夢は手を開いたり閉じたりして、その感触を体に馴染ませる。すると、近くで僅かに足音が聞こえた。その足音の主を見て、霊夢はここがどこかを理解した。
「初めまして、初代」
「目覚めはどうだい?」
初代の博麗は紳士的な顔立ちをした男性で、白と紺の袴が様似なっていた。
「残念だけど、最悪だわ。すごく怠いもの」
「まぁ、そのうち慣れるよ」
霊夢が心底残念そうに初代に言うと、彼は霊夢に手を差し伸べた。霊夢はその手を取り、重たい体を起こした。
「なんだかだだっ広い所ね」
「そら、なんて言ったって博麗大結界は幻想郷全てを包んでいるからね」
「私もそうなってしまったのよね...なんだか実感ないわ」
「はははっ。実感なんてしても虚しいだけだ」
初代は、ふっと笑みを浮かべ、言葉を紡いだ。
「ありがとう」
その言葉に霊夢は、目を細める。
「あんたに感謝されるような事をしたつもりは無いわ。むしろ、あんたが異変の一ヵ月前にあんな本を置いていってくれなきゃ、私は今頃未練だらけだっただろうから、私があんたに感謝すべきだわ」
「君が、私をここに【生かして】くれた。本来なら、君が目覚める前に、私はここから消えていたはずだからね」
「あぁ...そんな事...。だって、あれは【遺しておくべき】ものでしょ?私だって遺したいものがあったからそのついでよ」
「そうか」
2人は、足元を見る。そこには幻想郷の豊かな自然や民家が広がっていた。
「大丈夫かしらね...」
「心配なのかい?」
「だめかしら?これでも親バカなのよ?」
霊夢はそう言って彼を見る。すると彼は、頬を緩めてこう言った。
「上手く行くさ、きっと」
「...そうね...」
霊夢は、慈愛に満ちた顔で下の世界を見つめていた。
ーーー
「ってかここ暇すぎないの?あんた200年も何してたのよ」
「何って、囲碁とか将棋とか」
「なんでそんなのあんのよ!?」
名も知らぬ場所では、2人の護神が楽しげに談笑していた。