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我と真珠と有翼族

前回からの更新が遅くなってすみません。

今月から休みが不定期になったので慣れるまで更新も不定期になります。

申し訳ありません。

空に月が浮かぶ夜。

我はテラスで1人で酒を飲むのを好んでいるのに今夜に限って邪魔者がいる。


「主は何故ここにいる?」


「1人寂しく晩酌しているユヴェルの姿が見えたから相手してあげようと思って」


「・・・本音は?」


「休憩しようと思ったらおいしそうなお酒が目に入ったの」


そうにこやかにほほ笑むなり、自分のグラスに酒を注ぎはじめる有翼族のカトレア。

戦闘狂が多い有翼族の中でめずらしく平和主義であるカトレアはパールの師の1人でもある。

そして顔に似合わず無類の酒好きで底なしだ。


我等魔族の待望の光属性を持つパール。

白銀の髪に腕には白い羽根と下半身は鳥で外見上はハーピーになる。

ハーピーはエルフ達の森のさらに奥にある少し離れた島の森に暮らしておってな。

本来のハーピーは知性が低く、気配に敏感で悪意ある者には容赦なく攻撃することから森の番人とも言われている種族だ。

ハーピー達が守るのは精霊や妖精たちが住むエデンへの入り口。

エデンは精霊と妖精達が暮らすこの世界であってこの世界でない場所だ。

その島の周りの海にはセイレーン達も住んでおってな。

セイレーン達は主に海底に住む人魚族の番人をしているが、この島の海域のセイレーン達は島に近づく者にも警戒をしておるからな。

セイレーンも下半身は鳥だが手に翼はなく、主に海辺で暮らして歌で惑わせるのは得意な種族。

歌の眩惑と音での攻撃を躱してエデンへ続く扉に許可なく近づける者はいないだろう。

難攻不落の島と言っても過言ではない。


パールは光魔法を扱うためにカトレアが師として有翼族達が育てると言い出したが、全員に却下されたと聞く。

有翼族達が住む空に浮く島フィルメントは瘴気が全く発生しない島だ。

我も聞いた話ばかりで見たことはないのだが色取り取りの花が常に咲いている島らしい。

花しか咲かないその島で精霊達から貰った生命の木は有翼族達の食事ともいえる果実が実る。

しかもその実を食べれば1年は食べなくても平気らしいが、他の種族が食べると毒でしかない。

他の種族が食べる者も食べられるらしいが栄養にはならずに後は水と光があれば十分と言う一族だ。

それに有翼族は何度も言うが戦闘狂。

カトレアのようにおとなしいものもいるにはいるが、子供がいようがところ構わず戦闘に入るのが有翼族の特徴だ。

そんな環境で他の種族の子の育成などもっての外だと言う結論だ。

我もその意見にはかなり同意なのでこの点だけは他の者達にも感謝をしている。


結局、ハーピー達が住む島でパールを育てる事にはなったが、ハーピーやセイレーン達は子育てに関しては基本放任主義だ。

カトレアを同行させても子育てに不安を感じた他の者達はエルフが面倒を見つつハーピー達やカトレアが魔法を教える事になった。


泣き疲れて寝ていたパールをそのまま運んだはいいものの目の覚めたパールが魔王様に捨てられたと泣いてすごいことになったと報告は入って来たが、詳しい事は未だに話してもらえてない。


まぁ、我の体験を元にしてもかなり力を使い果たしたと予想がつくがな。

何しろ我が四天王を誕生させて力尽きる程に陥ったのはパールが原因なのだ。

この事を知っているのは生命の木の精霊であるルシエルだけ。

パール本人が知ったら大変なことになるのは火を見るより明らかだからな。


誕生した子達に名前をつけ、ルシエルが子守歌を歌いながら寝かしつけていると最後の実に罅が入った。

我とルシエルが最後の子が誕生するのを見守っていると、今迄で一番派手に割れると同時に勢いよく飛び出してきたのをよく覚えている。


「だぁぁぁぁぁぁ!!」


気合のような声と共に現れたその真っ白な姿に我は固まってしまったが、我じゃなくとも固まると思うのだ。

魔族で白はありえないと言われているのに最後に生まれたその子は真っ白なのだから。

有り得ないとわかっていても願っていた光属性の子に嬉しくて言葉もなくただみつめていたのだが、今にして思えばそれがいけなかったのだろう。

生まれたばかりのその子は動かない我等と自分の姿を見て大泣きを始めた。

慌てて我が側に行くも泣きやむことはなくさらにひどくなり、その鳴き声が伝線したように寝ていたルビーとアズライトも大泣きを始めてしまった。

ベリルはこの状態の中でも1人すやすやと寝ている。

人の子で大体2,3歳の姿で誕生したこの子達は力の使い方はわからなくても力は使える。

パールが泣く度に音が空気弾のように降ってくるが、生まれたばかりのせいかあたってもそれほど痛くはない。

だが、無意識とはいえ力をむやみに使っては悪影響だと我は必死にパールを抱きあやすが泣き止まらず何故か謝ってきたのだ。


「ごめんなさい。ごめんなさい」


泣きながらも小さな声で謝られて我は軽くパニック状態だった。

何故謝られないといけない。

何故泣き止んでくれない。

必死に宥め、原因を探るとどうも我等が驚きで見つめていたのを怒っていると勘違いしたとわかってからは誤解であることを教え、4人に名前を与えなんとか落ち着かせた頃には我は疲れ切っていた。


ルシエルも力を使ったばかりで宥めるのに疲れたらしく4人が落ち着くとすぐに本体に戻って眠りについていた。

我が何とか生命の木がある部屋から出て皆の元に戻ればパールの存在に驚かれつつも喜ばれそのまま宴会になったが疲れ切っていた我は宴会に出る事もなくそのまま力を回復する為の深い眠りに入ってしまった。

まさか起きたら四天王達がいないとは夢にもおもわなかったがな・・・。


当時の事を思い出しながら苦い気持ちで酒を飲むとカトレアが不意に上を向いた。


「それにそろそろ始まるでしょう?」


「主も聞こえるか」


「悔しい事に微かにだけど、ここなら近いし割とよく聞こえるのよ」


カトレアは微笑みながら酒を口にするも視線は上を向けたままだ。

我は酒を口にしながら静かに耳を澄ます。

我等が待っているのはパールの歌声。

パールは気付かれていないと思っているようだが、満月の夜にパールは城の屋根の上で静かに歌う。

それも普通では聞こえない音域で歌うからこの歌声に気付いている者が何人いるのか我も知らぬ。

我すらこの歌声に気付いたのはたまたまだったのだからな。

パールが何故、満月の夜に通常では聞こえない高い音域で歌うのかは知らぬ。

ハーピーの特徴である音とセイレーンが得意な歌を併せ持つパールは魔法も歌と音にして使う。

だが、この満月の夜に歌う歌には魔力はこめられていない。

ならばこの歌はパールの気分転換なのだろうと予想をたてるが本人に聞くと歌うのをやめてしまいそうで我はこの事は知らないふりをしておる。


初めて光魔法を使えるパールは色々と特殊な子である。

まず魔力は高いのに攻撃魔法がほとんど使えない。

使えないと言うと語弊があるかもしれぬが、雷の攻撃魔法を使っても相手にダメージはほとんどないのだ。

その変わり防御に関してはパールに敵う者はないだろう。

何しろ我の手加減なしの攻撃すらも防いでしまったのだからな。

パール自身は我が手加減したからだと思っているようなのだが・・・。

実は手加減などしていなかったとわかったら我はがっかりされてしまうかもしれぬ。

うむ。これは永遠に黙っておくべきことだな。


「あの子は今でも勘違いしているの?」


「勘違いもそうだが過小評価しすぎだ。

 攻撃はできずに浄化しかできないとな。

 何故そんな風に思うのか我にもわからぬ」


そう。パールは何故か自分を出来損ないだと思っておるのだ。

何故か光属性で生まれてしまったのが間違いだと勘違いをしている。

我等の説明に今では言わなくなったが納得はしていないようで必要以上に頑張ろうとしておる。

ルビー達で対応できる浄化の作業もパールが進んでやってしまう。

自分には浄化しかできないのだからと言うパールにそんな事はないと言うのだが、パールには我等が慰めているとしか思ってないようだ。

だからこそルビー達はパールを特に構うのだろう。

しかし何故にパールはこうも頑なに自分は出来損ないだと信じているのか我も不思議で仕方ない。

何故にそこまで勘違いしているのか全く持って謎だ。

思わずため息をつくとカトレアが苦笑しているのが目に入る。


「私達有翼族は今回の件で人間に協力することはないわ。

 本来ならばあの剣を回収すべきだと思うのだけど、剣に意思があるから難しい。

 まさか試作段階の剣でこんなことが起こるなんて思いもしなかった。

 この事に関しては何度も貴方方魔族には謝罪します」


「誰も未来さきのことなどわからぬしな。

 いつまでも気にする必要はないと思うぞ。

 だが、今回の件に関しては協力してもらえるとありがたい。

 四天王達を失う訳にはいかぬ」


聖剣と呼ばれている物を作ったカトレアの言葉は代々の魔王が聞いている。

カトレアは瘴気を減らすためにあの剣を作ったのを知っているから代々の魔王は気にしていないのだが、カトレアはずっと気にしている。

有翼族も長寿な一族ではあるのだが、戦闘で命を落とすものも多くカトレアは有翼族の中で長寿な方だ。

カトレアと同じ位の年齢だけど、正反対な存在で常に戦闘に身を置いている者がいて彼は有翼族の中では英雄扱いでカトレアは腰抜け扱いらしい。

本人は全く気にしていないし、今ではカトレアのように戦闘を好まない有翼族も増えていて数々の魔法具を作っているカトレアは尊敬されている存在にもなっている。

魔法具を作るのが好きなカトレアは当時は瘴気を減らすことしか考えておらず、まさか実験でさしておいた剣の周りに人が住みつき、あまつさえ抜いて魔族に襲いかかるとは夢にも思わなかったのだろう。

誰も抜くことは出来ないと思っていたからこそ人が住みついても放置していた事をカトレアは今でも悔やんでいるらしい。


「もちろんだわ。シリウスにもお願いはしてあるの」


その言葉に我は思わず頬がひきつってしまう。

シリウスと言うのは先程言ったカトレアとは正反対の戦闘好きの長寿な有翼族だ。


「彼奴がでてくると事態はとんでもない方向に進む気がするのだが?」


「大丈夫。彼も貴方とあの子達の事は気に入っているから。

 何かあったら飛んでくるはずよ」


にこやかにカトレアは笑うが我には頭痛の種でしかない。

有翼族は共通して可愛いものが大好きな一族でもある。

そんな彼等は何故か我の四天王達をとても気に入っておる。

この地にこれる有翼族は限られておるが、たまに来てはアズライトと手合わせをして技を教えたりなどしているくらいだ。

あまりにも珍しすぎる事に明日には世界が終わるのではないかとその場を見た魔族達は思ったらしい。

可愛がるのはいいが暴走されると止めるのが一苦労なのだ。

現在のシリウスはフィルメントでのんびりしつつもときたまアンフェールに突撃を繰り返している日々だ。

我が生まれる前にシリウスはたった1人で大量に発生した魔獣を倒したと言う伝説が残っておる。

当時の事を覚えてる魔族に聞いてもあれは凄まじかったとしか教えてくれない程だ。


そしてこのシリウスは我の事も子ども扱いする謎な人物だ。

確かにシリウスやカトレアから見たら我はその半分しか生きていない若造だろう。

だからといって成人している我にあの対応はない。


彼奴と初めて出会ったのは四天王達が我の元に帰って来た時だ。

やっと戻ってきたと思ったと思った時に舞い降りてきた白い翼のシリウスの姿は威圧がすごかった。

四天王達を慌てて背後に隠すも本音を言えば我も隠れてしまいたいほどであった。

必死に魔王としての威厳を損なわないように睨みながら出迎えたのだが・・・。


「ほぅ。新しい魔王は随分と可愛らしい趣味のようだ」


はい?

可愛らしい趣味ってなんぞ?

服装だって普通の服でフリルなんて一切ないし、今までに一度も可愛らしいなどと言われたことはないのに何故だ?!

何に対しての可愛らしい趣味なのかと思っていると突然我の体が持ち上げられ、頭をなでられた。


「歴代の魔王の分身でトップ3に入るくらいではないか。

 カトレアが騒いでいたのも頷ける。

 気に入ったぞ魔王。そなたとは趣味があいそうだ」


我を持ち上げ四天王達を眺めながら大笑いするこのシリウスに思わず蹴りを入れた。


「放せ、我は幼子でないのだから触るな撫でるな!!

 我の四天王達は其方に言われずとも世界一可愛い!!

 だが、我と趣味が合うとは到底思えぬ」


生命の木から創る分身達は魔王のイメージが重要だ。

完全にイメージ通りとはいかぬが魔王のイメージは重要だ。

だからと言って我を撫でるとかありえぬではないか。

怒りのあまりに思わず蹴ってしまったのだが今にして思えばこれがまずかったのかもしれぬ。


「俺に蹴りを入れるとは今代の魔王は随分と威勢がいい。

 ますます気に入った」


大笑いをするシリウスから我は四天王達を連れて去ろうとしたがあっと言う間に捕まり、散々からかわれたのは苦い思い出だ。

この時の我が人間で言う10代半ばの姿だったのがよくなかったのかもしれぬと以後は20代ぐらいの姿になっているが会う度にシリウスには子ども扱いをされて解せぬ状態だ。


今でもあまえば子ども扱いをしてくるシリウスを我は苦手にしている。

四天王達は何故か懐いておるがな。

納得がいかぬ。

まぁ、彼奴は気が向いた時しか来ないのが救いではある。


「関わらぬ方向で済んでほしい・・・」


我の言葉にカトレアは笑っておる。


「シリウスは貴方の事が一番お気に入りですもの。

 それは無理だと思うわ。

 シリウスに蹴りを入れるなんて貴方くらいよ?」


やはりあれが原因か。

可能ならばあの日に戻って蹴るのを止めたいものだ。


「せめて子ども扱いはやめて欲しいものだ」


溜息交じりに言えばカトレアの笑いは更に高まる。

さすがに今は抱き上げることはしないが、嫌がらせで頭を撫でてくる。

嫌がれば更にしてくるのはわかるがおとなしくやられるわけにもいかぬ。

戦闘狂とはいえ我に決闘の申し込みをしてこないのはシリウス唯一の良い所だと我は思う。

我が弱すぎて相手にならないと思われてから挑んでは来ないのではないかだと?

そう思ってくれた方がありがたいではないか。

魔王だからと言って戦闘が好きとは限らないのだとよく覚えておくが良い。


「それは無理だと思うわ。

 私もシリウスもクローヌもかなりの年月をいきていますもの。

 私達にとってみれば貴方達はまだまだ子供です」


カトレアはきっぱりと言う。

確かにそうかもしれぬが頭を撫でるのはないだろうと思うのは我だけか?

不貞腐れてる我を見てカトレアはコロコロ笑う。


「笑いすぎではないか?

 む・・。はじまったか?」


文句を言おうと思った矢先に歌声が微かに聞こえてきた。

我の言葉にカトレアも笑うのを止め耳を澄ます。


やさしい子守歌のようなメロディーは小さく聞こえる。

魔族にとって初の光属性の子。

何故か自分に自信がなくてつねに頑張ってしまうパール。

いつも笑顔なパールをみんなは大事に思っている事に全く気付いてないパール。


勇者が現れたとしても何があっても我は死なぬ。

あの子達の為にも我は勇者には負けぬわけにはいかないのだ。

だけど聖剣がある限り使い手が現れれば何度でも人間達は来るのだろう。

聖剣をどうにかしない限りはこの事は解決できない気がするが、これが一番の難問だ。

それに聖剣が抜かれた今、あの土地の浄化作用は落ちているから魔獣の発生率が上がるだろう。

そうなると我等が攻撃していると人間達は思うはずだ。

そうなる前に解決はしたいのだが早期決着をするのは色々と大変である。


それでも我はこの平穏を守りたいのだ。

パールの歌声を聞きながら我は誓う。

穏やかな日々が続くことを・・・。


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