我と藍銅鉱と人狼
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「師匠、今日もよろしくお願いします!!」
魔王城の隣にある訓練場からアズライトの元気な声が響いてくる。
アズライトの言う師匠とは人狼族の長の補佐をしているアルバの事だ。
彼奴は我が倒れている間にアズライトを鍛えてくれ、人狼族の報告を定期的に伝えてくれる次期長と言われている男。
人狼族は幼いうちは狼の姿で過ごし、力がつくにつれて人化した姿で生活をする。
闘う際には完全に狼になる者や上半身だけ狼になるものなど様々だが、魔力が高いものほど人化のままでも十分に強い。
闘う時以外は狼の姿にはならないから人狼族と言うのは伝説の一族と言われたり、半獣族と間違えられたりするが魔族の一員であるぞ。
本人達の前で半獣とか言ったらどんな目にあっても我は知らぬからな。
アズライトは人狼ではあるが普段から青銀色の耳と尻尾が出ていて、狼になる時は大きさも自由に変えられる。
そう、アズライトは通常時も獣時ももふもふだ。
あまりいじりすぎるとアズライトの機嫌が悪くなるので程々に撫でるのが重要なのだぞ。
アズライトを人狼の里で育てたのはいいだろう。
同じ魔族同士文句は全くない。
だが、1つだけ納得がいかぬのだ。
戻ってきたアズライトは我の事を”親父”と言う。
四天王は我の力を元にしてるから親父も間違いではないだろう。
だが、釈然としない。
何故、親父なのだ・・・。
本人にも聞いたのだが、人狼の里で同じくらいの子供が言っていた親父と言う言葉が格好良かったからと言うが、親父と言う言葉のどこが格好いいのか我には理解できぬ。
呼び方に問題はないから好きにさせておくがな。
そもそも我の魔人族は卵を産んだら卵部屋に置いて後は同族の非戦闘タイプの女性達が世話をする。
中には親が子を育てる事もあるが1割程度のはずだな。
我も親に初めて会ったのは魔術を学ぶ年になった時だ。
自分の知識は子に与えるが魔人族の方針だから子育てはしなくとも知識だけは教える親とはそういうものだ。
だからこそ人狼達や人族が言う親子関係と言うものがないといっていい。
自分の親だと言うのはわかるがそれだけの存在。
同じ魔族と言えども育ち方が全く違うのが魔族の特徴でもあるな。
だからこそ我はアズライトに”親父”と言われると困惑をしてしまう。
アルバとクローヌが来てから7日が経つ。
クローヌはエルフのミーナが作った試作のマジックアイテムの人化アクセサリーの実験台になっている。
今の所成功しているようで人型となったクローヌに副作用がないか魔王城は何故か実験の場と化しておる。
ドラゴンは人化が不得手な一族だから人化出来たのが面白いのかもしれぬがな。
クローヌよ、いい年した爺の癖に人化になった姿が楽しいからって城中を走り回るのはどうかと思うぞ?
そんなこんなでこの城は一気に賑やかになっておる。
これも平穏な日々と言えるのかもしれないが、我が四天王と共に過ごせる時間は減ったから我にとっては平穏な日々ではない。
四天王達が楽しければいいが、我にとっては楽しくない。
賑やかな城に苦笑しつつ、今日はアズライト達の訓練を見学に行く。
アズライトは髪色が示す通り、水と雷の属性をもつ子だ。
属性は火・風・地・水・光・闇となる。
アズライトの雷は特殊属性と言われておって、魔族ではよくある属性だな。
エルフの特殊属性は植物だと聞いた記憶があるが、それ以外は我も知らぬ。
アズライトは武器を使うよりもその身に魔力を込めて殴るが通常攻撃だ。
人狼族は腕力も半端ないからな。
子供と言えども油断しているとひどい目にあうぞ?
そんな2人の訓練はひたすらアズライトが討つ攻撃をアルバが躱し続けている。
アズライトは通常の人狼より力も早さも桁違いだが、経験不足は否めない。
いいようにアルバにあしらわれて攻撃が全く当たっておらぬ。
それにしても人狼族と言うのは訓練訓練訓練訓練の日々が当たり前だと言う一族だ。
我には理解できぬ脳筋一族であるが、ちゃんと知性派もおる。
若いうちは己の力を示したくてアンフェールに行きたがる者が多いらしい。
ん?アンフェールとは何か?
主はアンフェールを知らぬのか・・・。
アンフェールとはかつては全ての種族が暮らしておった島だよ。
聞いた話だから本当なのかと我も疑うくらいの話だがな。
全ての種族が仲良く暮らしていたそうだよ。
今の世界を見るととてもじゃないがそんなことは有り得ないと思うのだが。
精霊に聞いても嘘ではないと言うから大昔はそんなこともあったのだろうと我は思う事にしてる。
そのアンフェールにある日突然今までと違う瘴気が漂ったそうだ。
なんでもその瘴気から生まれる魔石は比べ物にならぬくらいに魔力の純度が高かった。
その魔石を使った武器の威力も凄まじかったらしくてな。
結果、魔石を生み出すために瘴気を広げ過ぎて死の大地と変わってしまったそうだ。
瘴気は欲望や嫉妬、憎悪にも反応して広がるからなぁ。
魔石を求めた欲望の感情はすさまじかったのだろうな。
死の大地になったら当然我等とて住めぬ。
精霊達の頼みでなんとか瘴気を抑える木を埋めるのが精一杯だった。
有翼族達が上空から浄化作業を長い年月をかけて行う事でようやく我が魔族が住めるほどになったが、それでも全ての魔族が住めるわけではない。
ミノタウロス、巨人族等戦闘狂の1,2を争う2種族がなんとかいけるくらいだ。
ミノタウロス達がアンフェールで発生する魔獣を倒したら有翼族達が浄化を行うと言う行動をずっと繰り返しているが未だにひどい状態だ。
瘴気の影響を受けないアンデッド族には精霊からもらった瘴気耐性の高い植物を定期的に植えてもらっているがほんの少し育てばいいそうだ。
徐々に瘴気は薄くなっていると聞くが、人狼達が行ったら間違いなく瘴気にやられるだろうよ。
耐性がある魔族でも厳しいのだ。
それくらい死の大地と言うものはおそろしいと覚えていて欲しい。
それでも人狼の若者はアンフェールに沸く魔獣と闘いたいと思っているのだから相当の戦闘狂だ。
昔に比べれば瘴気も薄まっているようだから時が経てば人狼達もいけるようにはなるかもしれぬ。
100年後か1000年後かはわからぬがな。
アンフェールは我等が暮らしておる大陸からかなり離れてはおるが、有翼族達の浄化魔法と同時に魔獣への攻撃魔法は半端なく、稀にこの大陸からでも光が見える程だ。
更に凶暴な魔獣の魔力もときたま見えるから、余計に人族はアンフェールでは魔族と有翼族が戦っていると思っている。
魔獣は通常はパワータイプが多く魔法を使える者は少ないのだがな。
アンフェール生まれの魔獣はほとんど魔法が使える厄介な魔獣だ。
厄介な敵であるほどミノタウロスや有翼族達は楽しげに笑うのには理解できぬ。
ん?何故有翼族達も笑うのか?
それは彼奴等も戦闘狂だからだよ。
は?嘘をつくなだと?
何故我が嘘をつかねばならぬのだ。
有翼族は見目麗しい姿に見事な鳥の羽があるのが特徴な一族なのは知っておろう?
なのに彼奴等は3度の飯より戦い好きと言う者が多い。
見た目通り平穏を好む者もいるが、少数派だ。
有翼族は魔力がとても高い一族だから魔法が主流と思うだろう?
なのに近接戦が得意な者の方が多いと聞いた時には我も驚いた。
武器も自前で造る者が多くてな。
ドワーフ達が作る武器に勝るとも劣らないらしい。
ん?信じられぬだと?
我も初めて見た時は驚いたぞ。
可愛らしい女の子だなと思ったら顔に似合わない怪力であっさり魔獣を倒したのだからな。
あの日の衝撃は未だに忘れられぬ。
いずれ彼奴等の戦いぶりをみてみるとよいぞ。
アズライトとアルバの訓練は徐々に魔法も使い始めレベルが上がっていく。
ルビーとベリルはミーナの実験をみているから今この場にはおらぬ。
パールはこの訓練を見学すると言って最前列で見ておるな。
最前列は攻撃の余波が来るから危険な場所ではあるが、パールにとっては修行場所だ。
パールは防御特化だから、敢えて攻撃の余波が来る位置で受けない訓練をしているのだ。
だがな何も側にいる奴も防御する必要はないのだぞ?
パールよ、周りにいる奴ら等ほっておけばよい。
ん?だったら何故パールと一緒に見学しないのかだと?
一緒に見学はしたいが、最前列はまずい。
アズライト達にみつかったら一緒に訓練しようと言われる。
アズライトだけならまだしもアルバとの訓練は勘弁してほしい。
我は戦闘は好きではない。
闘うよりマジックアイテムを造る方が楽しい。
じゃあなぜルビー達と一緒に見に行かないのかだと?
せっかく実験台にクローヌを捧げたのだ。
我が自ら行っては意味がないではないか。
そう、ミーナがここに来る時は大抵実験台を求めている。
瘴気を減らすためのアイテム作りの為と言ってはいるから否とは言いにくいのだが、大半が関係のないアイテムの実験台にされる。
エルフの長にも苦情を言った事もあったがな。
ミーナが持ってくる試作アイテムはミーナが造ったもの以外も含まれているらしくてな。
そう、エルフの長も含まれておる。
だから苦情言っても軽く流されて終わるのだ。
我は300歳は軽く超えておるがそれでも人族を抜かせば一番若い長でな。
悲しい事に口で勝てたためしがないのだ。
魔人族の成長はゆっくりでな。
100年位で人族の10代後半くらいの姿になるだろうか。
今の我は人族で言うところの20代前半であろう。
話がそれたが、そんな訳で我は1人でこっそり見学中である。
むぅ。四天王達との平穏が遠ざかって行く予感がするのは気のせいだと信じたい。
「よぅ、魔王様。1人で何をしているんですかね?」
ひっそりと見学している我に声をかけてきたのは人虎族のオロール。
まずい、やっかいなのに見つかったものだ。
人虎族も人狼族と同等の強さを持ち、戦闘狂一族である。
普段はエルフの森に暮らしておる一族だな。
エルフ達は魔力の強く腕力はないが、人虎族は魔力はないが腕力が強い一族だからお互いの不得手をカバーしつつ共存しておる。
今回もミーナの護衛でここに来たのはいいが、オロールの目的はそれではない。
ミーナの部屋にいたから大丈夫と思ってここに来たのにぬかったわ。
「見ればわかるだろう?見学だ」
「へぇ?部下の側に行かず遠くからですか?
ならば、俺の訓練に付き合って下さいよ」
「断る!!」
敢えて普通に答えたが、オロールは予想通りの言葉を告げる。
我とアルバとオロールは大体同い年で我が魔王になる前からの知り合いだ。
マジックアイテムの材料を集めるのにどうしても人族の領域に行きたいが我等魔人族の姿では見つかれば厄介なことになるから人狼か人虎に頼むことが多かった。
その依頼を引き受けてくれたのがこの2人なわけだが・・・。
2人の共通点は戦闘好きってことだろう。
そして1度彼等の訓練に付き合って手を合わせたのがまずかったのか相手をしろと煩くてかなわない。
我とて魔人族であるから魔法も武力も一通りは学んでおるし、それなりだとは思っているが、何故2人にこうまで戦闘相手に望まれるのかわからぬ。
ん?魔王なんだから強くて当たり前なんだし戦闘狂なら強いものに挑むのが当然?
お主は何を聞いておるのだ。
前にも言ったが魔王とは生命の木に魔力を上げれる者の事だぞ?
戦闘力の有無ではないのだ。
「全く、どうして魔王様は戦う事を嫌うのか」
「お主を相手にしておったら命がいくつあっても足りぬではないか」
我の言葉にオロールはガハハハと豪快に笑う。
「俺と闘っても今でもピンピンしてる魔王様の言葉ではあるまい」
「その通りです。
たまには我等と共に手合わせをして、アズライト達に見せてあげましょう」
突然、アルバがやってきたことに驚き、訓練してた場所を見ればアズライトとパールが会話しながらこちらを見ている。
「主等との手合わせは命がけだら嫌だ」
「ユヴェル、1つ良い事を教えてあげる」
突然笑顔で告げるアルバに嫌な予感しかない。
アルバが我を名で呼ぶ時は怒っている時か何かを企んでいる時かでしかない。
そして笑顔の時は我にとって最悪なことが怒る前兆であると長年の経験からわかる。
「アズライトが何故、ユヴェルを親父って言うのか教えてあげるよ。
君には格好いいからって言ったようだけど違うよ。
人狼の子がアズライトにこういったのさ。
”親父と言うのは強くて逞しくて何者にも負けない存在”だってね。
それを聞いたアズライトはそれは魔王様だってきっぱりいったんだよ?」
笑顔で言うアルバの言葉に我は固まる。
親父の謎が解けたのもその内容も嬉しいが、これはまずい・・・。
「へぇ。アズライトにそうまで言われて俺達と闘わないとかないよな?」
「だよね。アズライトはきっと幻滅するよね」
「親父ってもうよんでくれないかもな?」
くっ。
いつもは喧嘩ばかりの2人が結託を組むとは卑怯な。
しかもこれは断ったらアズライトに何を言うかわかるのが嫌だ。
まさかこいつらにも我は口で負けてしまうと言うのか。
2人して”情けない情けない”言うのを聞きながら我はとびっきりの笑顔を2人に向ける。
その笑顔の意味に気付いた2人もおもいっきり笑顔で返してくる。
「2人まとめてぶっとばしてやる!!」
そう宣言すると我は訓練場に向かう。
挑発に乗ったことは認めるが、せっかくだから溜まってる鬱憤をはらさせてもらう。
我はアズライトとパールの側にいる者達に目線で後ろに下がらせるよう指示を送る。
「我が勝ったら金輪際、訓練の相手はせぬからな!!」
そう宣言する我に余裕の笑みを返す2人。
我等の訓練と言う名の戦いが始まった。
うむ。結果だけを報告しようと思う。
納得は出来ぬが我の負けと言う事になってしまった・・・。
仲の悪い2人だから連携は出来まいと思ったのに中々の連係プレーをしてくる2人には確かに驚いた。
それでも我は負けるつもりなどなく、攻撃を躱しながら反撃をし、留めとばかりに最上級の雷撃魔法を放った。
魔獣にも大ダメージを与える程の魔法だから奴等とて無事では済むまい。
そう思ってから気付いてしまったのだ。
この魔法は威力もそうだが範囲も広く、アズライトとパールがいる場所まで余波が行ってしまうと言う事に・・・。
我が慌てて駆けつけると2人は何事もなかったように立っていた。
2人から離れた場所にいた者達は余波を受けて蹲っている者もいると言うのに・・・。
「2人とも怪我は?」
外傷はないようだが、念のため2人に聞くと同時に首を振り、パールが飛びついて来た。
「魔王様すごい!!」
「パールが防御で守ってくれたから大丈夫。
親父!!最後の魔法、俺もできるようになる?」
我に”すごい”を連発しながら言うパールと目をキラキラさせながら最後の魔法について聞いてくるアズライトに笑顔で答えていると背後から殺気を感じて2人を庇うように振り向くとボロボロになったアルバとオロールがこちらを笑いながら見ているが目はものすごく怒っている。
「魔王様?勝負の途中で逃走とは貴方の負けと言う事でいいですよね」
「明日。また再戦だ!!」
「なっ!!」
確かに此奴等が倒れたのを確認せずに駆けつけたが、明らかに勝負は決まっていたはず。
「明日もまた戦いが見れるのか!!」
文句を言おうとする前にアズライトが期待の目でこちらを見てくる。
・・・・。
これは・・・。
「ええ。明日も貴方との訓練の後に魔王様との訓練がありますから」
「アズライトが望めばいつでも試合をみせてやるぞ?」
「おい!!」
オロールの言葉に我が慌てるが、アズライトはおもいっきり尻尾を振っている。
「(この状況で断ったりしないですよね?)」
「これからも魔王様の戦いがみれるんですか!!」
耳元で囁くアルバに我が文句を言う前にパールに止めをさされてしまった。
あのキラキラとした2人の目には敵わない・・・。
我は負けを認めて明日もまた訓練に付き合わねばならぬらしい。
訓練後の会話
オロール「パールはよくあの電撃を防げたな」
パール「魔王様が手加減してくれたからだよ」
魔王「(否。手加減など全くしておらぬ)」
アルバ「手加減ですか(本気の魔法に見えたんですが)」
パール「うん。全力の魔王様はもっとすごいの!!」
アズライト「親父なら山すらも吹っ飛ばせるさ」
オロール「そいつはみてみたいな」
魔王「・・・・」
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魔王様は本気で放ったのにパールとアズライトは手加減してると思っています。
アルバとオロールは手加減してないことを気付いているので、この後魔王様をおもいっきりからかっています。