六章 彼のために
天使は悪魔に恋をして、悪魔はそれを受けとめた。だがシルクとキリア、二人はまだ真実を知ってはいない。自分の未来…自分の運命…。
これから二人は同じ道を一緒に歩んでゆく。ゆっくりとゆっくりと……
日曜日。シルクは午前中に部活に行き、午後はアリス達とシルクの家で遊んだ。シルクは昨日あったことを全て三人に話した。
「ミルクちゃんやったねっ!すごいよ!」
「そんな、みんなのおかげだよ。」シルクは笑顔で言った。
「二人でどこか遊びに行かないの?」とレイが聞いたが、「まだそこまでいってないよ〜」と言って、シルクは恥ずかしそうだった。だがその時、「そういえば、キリアがミルクとテニスしたいって言ってたよ。キリアはスポーツ何でもできるからミルクの相手もできると思う。誘ってみたら?」とルキが言った。それを聞いたシルクは嬉しい顔をした。
「えっ!本当に?!嬉しい!」実はシルクは前からキリアと一緒にテニスしてみたいと思っていた。
「じゃあ初デートはテニスで決まりだねっ!頑張ってミルクちゃん!」
「うん。二人きりってちょっと恥ずかしいけど、一緒にテニスするなら大丈夫だと思う。」シルクとアリスが話していた時、「じゃあミルクがテニスで勝ったらキスしてほしいって言ってたってキリアに伝えておくよ。」と突然ルキが言い出した。
「せっかく一緒にテニスするんならそれくらいあった方が楽しいわよ。そういえば、ミルクってキスしたことなかったよね?」レイがシルクに聞いた。
「うん……したことないよ。でもそんなこと言ったらテニスしてくれるかな?」シルクは自信なさそうな感じだった。しかし、「ミルクちゃん!心配ないって!逆に付き合ってるんだからキスくらいしなくちゃ!」アリスにそう言われるとシルクは「たしかにキスくらいしないとキリア君にも悪いかな…」と思った。でもシルクはキリアとキスすると思うだけで嬉しくてすごく顔が赤くなってしまうのだった。
「あっ!もう9時だ!」アリスが机の上にある時計を見て気がついた。「そうだね。そろそろ帰ろうか。ミルクにも悪いし。」ルキはそう言ってカバンを持って立ち上がった。そしてシルクは三人を玄関までおくった。「ミルクちゃんバイバイ!またね〜!」そう言ってアリス達は帰っていった。
三人が帰り、夕食などをすませた後、シルクはさっそくテニスに誘うためにキリアにメールした。少し待っていると、「次の土曜の午後からなら大丈夫!」という返事のメールが返ってきて、それを見て嬉しくなったシルクは小さくガッツポーズをした。
「楽しみにしててねぇ↑ わたし頑張るからぁ!!(笑)あと、もしわたしが勝ったら……………kissして下さぃっ!!(笑)」
シルクは思い切ってキリアに気持ちを伝えた。やはりシルクも大好きなキリアにキスしてほしいという気持ちがあるのだ。メールの返信が返ってくるまでずっと落ち着けないで、ただケータイを握り締めることしかできなかった。そしてキリアのメールが返ってきた。
「いつでもいいのに。笑」
シルクはこんなメールが返ってくるとは思わなかった。もっとキリアはためらうのかと思っていたから。でも少し、シルクは今のメールで自分達が彼氏と彼女になったのだと実感するのだった。
「そんなぁ〜恥ずかしいよぉ〜♪ せっかくだからテニスの時まで楽しみにしておかない??(笑)」
「うん。やっぱりその方がいいかも!笑」
「じゃぁ土曜日の午後わ楽しみにしてるからっ♪そろそろ時間だしもう寝るね!おやすみなさ〜い」
今日のシルクとキリアのメールはこれで終わり。シルクにとって土曜日は今までで一番待ち遠しい日になった。
その日から約一週間、シルクとキリアは約束通りキスをしなかった。二人きりになったとしても、デートの時のためと思うと逸る気持ちを抑えることができた。シルクとキリアが付き合っていることはアリス達以外の人には秘密。二人の関係が他の誰かに知られたら大変なことになるかもしれないからだ。シルクもキリアも、やはり天使と悪魔が愛しあうのはあまり良くないことだと心のどこかで微かに感じている。でも二人はお互いに好きでいるのだからそれでいいとも思っている。
「周りなんか関係ない。どんなに周りに反対されてもシルクのことをずっと好きでいるよ。」
いつしかキリアはそんなことまでシルクに言うようになった。二人の愛は誰にも止められない。徐々に加速してゆく。二人が真実に気づくまで……
約束のデートの日。待ち合わせはテニスコートのある大きな公園の入り口に1:00だ。シルクがそこに1時ちょうどくらいに行くと、先にキリアが待っていた。
「時間ピッタリだね。」
「うん!キリア君はけっこう待ってた?」
「いや、今来たとこだよ。じゃあ行こうか!」
そう言って二人はテニスコートに向かった。空を見上げるとすごく晴れていて「最高のデートになりそう!」とシルクは思った。
コートについたらまずテニスバッグを近くにあった青いベンチに置いた。テニスコートは二面あったがどちらも使われていない。シルクは本当にキリアと二人きりでテニスができるとなると少し緊張し始めた。
「じゃあ……始めちゃおっかぁ。」
「いいよ。……あれっ、もしかして緊張してる?顔赤いよ。」
キリアはシルクが緊張していることに気づいて少し笑った。
「やっぱり二人きりってちょっと恥ずかしい……」
「そんなこと気にしなくて大丈夫。ほら、始めるよ。」
「うん!」
そう言って二人はテニスを始めた。最初はまず練習からした。試合は最後まで楽しみにしておくと初めから二人で決めていたのだ。練習していた時、シルクは「キリア君に勝てるかな…」と少し不安に思った。キリアはルキの言う通りすごくセンスがあって本当に上手だったし、男子だからパワーもあった。やはり男子と女子では体力にも差がでるようで、練習で少し疲れたシルクは、試合する前に休もうと言い、二人は少し休憩した。
「キリア君ホント上手だね!」
「そんなことない。シルクの方が上手だよ。そろそろ試合始めよっか。」
「いいよ!」
試合が始まった。シルクはキリアのパワーに負けないように頑張った。得意のサーブで攻めていった。キリアは最後の最後までせったが結局シルクが勝った。
「やっぱりシルク強いね。約束通りちゃんとキスするよ。」
キリアが優しくそう言った。二人はコートのネットを挟んで向かい合った。シルクはネットに両手をかけ、静かに目を閉じた。キリアは左手でシルクの手を握り、右手でシルクの顔を軽く上げ、そしてキスをした。キスのあとにシルクが照れて笑うから、キリアはもう一度、今度は苦しくなるくらい強くキスをした。シルクは二度目のキスにびっくりした。一度目のようなもっと優しいキスを望んでいたから。でも、キリアを「悪魔らしい」と感じることができた。自分の彼氏は悪魔だとやっと実感したのだ。
「……ありがと。今のキリア君すごくカッコ良くて悪魔らしかった。………ねぇキリア君、キリア君はやっぱり悪魔の女の子の方が好き?」
「どうしたの急に?悪魔じゃなくてもシルクのこと好きだよ。」
「……ゴメンね。変なこと言っちゃった。さっ!いっしょに帰ろ!」
「うん。」
そして二人は手をつないでいっしょに帰った。だがこの時、シルクはある決意をした。家に帰るとすぐに洗面所に行き、鏡を見ながら自分の綺麗な黄色の髪を黒く染めた。
「彼のため」
そう言って、黒く、悪魔のように真っ黒になるまで綺麗な黄色の髪を汚していった――
六章 完




