五章 愛しさ 焦り キリアと二人
ルキの誕生日から何日か経った。
ルキとキリアはもうすっかり仲直りしたようだ。
ケンカしたことは二人とも全く気にしてないし、どちらかと言うと
前よりお互いのことをわかることができて良かったのかもしれない。
それにルキは自分の気持ちに素直になれたし、
けじめもしっかりつけられたからもうキリアに未練は無かった。
これからもただの幼なじみでいられればいいと思った。
しかし、この頃からキリアはサッカーで忙しくなり、あまりルキと一緒に帰らなくなる。
八時過ぎまでルキを待たせるわけにはいかないとキリアが決めたこと。
だからルキはシルク達と別れたあとは一人帰る。
でも、そのことをルキはそれほど気にしてはいない。
季節が変わってサッカーが忙しくなるのは当たり前のことだし、
キリアのことは自分がいつでも一番わかっているつもりだったから。
むしろルキには他に悩みがある。それは勉強のことだった。
気づけば期末テストまであと三週間くらい。実はルキは全然勉強が出来ないのだ。
期末テストのあとは学校祭があったり、色んな部活の大会があったりで
誰でも忙しくなっていく。だから期末テストで成績を落とすわけにはいかない。
シルクとレイはかなり勉強ができる。
だが、ルキとアリスは全くと言っていいほどできない。
そこでシルクが「みんなで勉強しようよ!」と、放課後に教室で四人で
話していた時にもちかけた。
「ルキとアリスも頑張れば勉強できるよ。だから一緒に頑張ろっ!」
「ありがとう。ミルクにそう言ってもらえると心強いよ。」ルキが言った。
「じゃあ場所はどこにするの?」アリスがシルクに聞いた。
「せっかくだからメウリス図書館行かない?集中できるよ。
私は部活が休みだから明日の土曜日がいいと思うんだけどダメかな?」
アリスとルキはいいと言った。しかし、レイは土曜日には用事があると言った。
「ゴメンね土曜日あいてなくて…私抜きでお願い。」
「私一人で二人も教えられるかなあ……」シルクが悩んでいる時、
アリスがいいことを思いついた。
「それならキリア君呼ぼうよ!キリア君も勉強できるんだし!」
「それいいね!じゃあ私キリアに声かけておくよ。」
「そんなルキまで……私集中できなくなっちゃうよぉ……」
「いいじゃん!ミルクちゃんは恋愛を学ぶチャンスだよっ!」
アリスはものすごく楽しそうだ。
「いいなあ〜土曜日楽しくなりそう。私も行けたら良かったのに。」
レイはちょっと悔しがっているようだ。
「レイのいじわるぅ……」
「ミルク、そんなに気にしないの。とにかく土曜日に図書館ね。
時間は九時くらいで。」ルキが言った。
そして話し合いは終わり、四人は帰ることにした。
だんだん夏に近づいているせいか、六時でも外はまだ明るい。
風が吹いても涼しくて気持ちいいくらいだ。帰り道では話題が勉強の話から
恋愛の話に変わった。もちろん話題を変えたのはアリス。
「ねえルキちゃん、そういえば彼氏って作ったの?
誕生日の時にルキちゃん言ってたよね?」
「あっ!そうそう。そのことなんだけど、今悩んでるの。
実はあの日の帰る時にテニス部の先輩に告白されたのよ。
ミルク、ユウ先輩って知らない?」
「あっ!知ってる!先輩すごいテニス上手いよね。」
「うん。でも、ふられてあんまり日にち経ってないのに
付き合うのもどうかと思うんだよね。それで、まだ返事してないの。
先輩、すごく大人でさ。真面目な人なんだよね。だから私なんかが
先輩の彼女でいいのかどうかっていうのもあってちょっと悩んでるの。」
「いいじゃん!付き合っちゃいなよ!先輩だからって気にすることないよ!
好きって言われたんだから彼女になっていいってことでしょ!
ふられてすぐでも気にしない!女はいつでも恋してていいのよ!!」
アリスが言うと説得力がある。聞いていたシルクとレイはすごく納得した。
「そっかあ。じゃあ付き合いますって返事するよ。ありがとねアリス。」
ルキに彼氏ができるとわかると、シルクは少し焦りを感じた。
自分も早くキリアに告白しないといけないと焦った。
「ん、どうしたの?ミルク?」レイがシルクの動揺に気づいた。
「私も早くキリア君に告白しないといけないのかなあ?」
「いや、そんなことないと思う。焦っちゃダメだよ。」
レイが少しシルクのことを考えて優しく言った。
「そうだよ!焦っちゃったら失敗するから!でも告白するって
決めたら思い切って告白しなよ!」
「あ、うん。」アリスとレイに焦ってはいけないと言われたが、
シルクは焦りを消しきれなかった。
そして、いつもの交差点のところに着いた。
シルク達は別れてそれぞれ家に帰った。
シルクは家に着くとすぐに制服のままベッドに倒れこんだ。
キリアへの愛しさと焦る気持ちで胸がいっぱいだった。
「キリア君……」
小さな声でそうささやいた。心が愛しさに駆られ、
不安に耐えられない。「愛されたい」強くそう思った。
そして土曜日の朝が来た。シルクは朝早く起きた。というよりも、
夜キリアのことを考えていて全然眠れなかった。
キリアと一緒にいられることの嬉しさと焦る気持ちで眠れなかった。
シルクは髪を整えるのにいつも以上に気を使った。
そして教科書やノートを入れたカバンを持って出かけた。
図書館はシルクの家からは遠く、ルキやキリアの家からは意外と近いところにある。
そしてシルクが図書館に着いた時にはすでにアリスが来ていた。
「ミルクちゃんおはよう!」
「おはよう。ルキはまだ来てないの?」
「うん、でももうすぐ来ると思うよ!」
シルクとアリスはルキ達が来るまでせっかくだからと図書館の本を読んでいた。
シルクもアリスも読んでいたのは恋愛小説。少し待っているとルキが来た。
「ルキちゃん、キリア君は?」アリスがルキに聞く。
「今ジュース買ってるとこ。すぐに来るよ。それより、シルクは今日告白するの?」
「そんな……まだしないよ。」シルクは恥ずかしそうな顔をしながら言った。
そしてキリアが来た。「みんな来てるね。勉強はじめようか。」
「あ、うん。何からはじめる?」シルクはちょっと照れながら言った。
やっぱりキリアと一緒にいるのが嬉しかった。
「魔法か数学がいい!」アリスが言った。
「じゃあ魔法からやろっか。えっと、ルキとアリスはどこがわからないの?」
とシルクが二人に聞くと、ルキは、「私、蘇生術が全然わからない……」
と言ってまだ良かったが、「全部っ!」とアリスは答えた。それを聞いた
シルクとキリアは今日がつらい一日になると思った。
「とにかく蘇生術から教えるよ。」そう言ってキリアが教科書とノートを出した。
「そういえば、けっこう前だけど蘇生術のテストやったよね。みんな何点だった?」
キリアがみんなに聞いた。
「15点だったよ!」
「私は30点だったかな。」と、アリスとルキが言った。
しかし、シルクは少し言うのをためらっていた。
「ミルクちゃんは?」
「……32点。」それを聞いたキリアは驚いた。
「シルクさん32点?!そんなに難しくなかったと思ったけどなあ。」
シルクは恥ずかしかった。いきなりキリアの前で恥をかいてしまった。
テストのことを忘れて夜更かししていたとはもっと恥ずかしくて言えなかった。
「じゃあ基礎から教えるよ。蘇生術の基礎は植物の蘇生で、
動物の蘇生は難しくてまだ習ってないから覚えなくていいよ。
あと、人の蘇生は法律で禁止されてるってことは覚えておいて。……………………」
そして二時間くらいでやっと魔法の勉強は終わった。
キリアの説明はわかりやすくて良かった。
さらにシルクのわからないところもキリアは知っていた。
「キリア君すごいよ!魔法の勉強は完璧だね!」アリスがキリアのことをほめた。
「みんな僕の説明でわかってくれて良かったよ。それに、
シルクさんはほとんどわかってたね。テストの時はなんかあったんだよね?」
キリアがそう言うと、シルクは
「うん。ちょっと体調悪かったの。」と言った
「やっぱりシルクさんが32点はおかしいと思ったよ。シルクさん普通に頭いいもん。」
「そんなことないよ…。キリア君こそすごい勉強できてるよ。」
シルクはキリアにほめられたことがすごく嬉しく感じた。
「どうしようほめられちゃった!キリア君ほんとカッコいい!」
なんて一人で思ってしまった。
そして、みんなは少し休憩を取ることにした。
「ねえ、コンビニでおやつでも買ってこようか。」ルキが言い出した。
そしたらアリスがすごいことを言った。
「じゃあ勉強教えてくれたから、ミルクちゃんとキリア君にお礼ってことで
お菓子買ってきてあげるよ!ねえルキちゃんいいよね!」
「うん。そうだね。二人はここで待っててよ。」ルキはそう言いながら
シルクのノートに鉛筆で何か書いた。
そして、アリスとルキはコンビニに行ってしまった。
こうなってしまったらシルクはもう平常心ではいられない。
とにかく、ルキがノートに何を書いたのか確かめた。
するとノートには、
「チャンス!大丈夫だから」と書いてあった。
慌ててノートを閉じたシルクを見て、キリアは
「どうかしたの?」と言った。
「何でもないよっ。大したことじゃないから……」
シルクの鼓動はどんどん速くなっていく。
「このままルキ達が帰って来なかったらどうにかなっちゃいそう……」
シルクはそう思った。そしてシルクは込み上げる愛しさに耐えられず、
ついに一歩踏み出した。
「キリア君、ちょっと聞いていい?」
「ん、何?」
「キリア君は好きな人とか付き合ってる人っているの?」
「いや、別にいないけど。シルクさんは?」
キリアに聞き返されるとシルクは言葉に詰まった。
恥ずかしさと焦る気持ちが絡み合った心の中。
もうここまで来たら引き返す訳にはいかない。そして、シルクは決心した。
「………私、キリア君のこと好きだよ。」
「えっ…」
今度はキリアが言葉に詰まった。
いきなり告白されるとは思っていなかったから。
そのまま二人は何も言えないでいた。そして、アリスとルキが帰って来た。
「ミルクちゃんただいま!色々買ってきたよ!」
「アリス…私死んじゃいそう……」
今にも泣き出しそうな顔でシルクは言った。
「えっ!ミルクちゃんどうしたの?」とアリスが聞き返した。
しかしシルクは、
「やっぱり何でもない。さっさと数学やっちゃお。」
そう言ってシルクは勉強し始めた。
数学の勉強が終わったのは一時くらい。
それから昼ご飯を食べることになった。
アリスとルキはシルクとキリアの様子が少し変なのに気がついていた。
でもあえて何も言わないでいた。昼ご飯のあとは少し世界史の勉強し、
終わるとみんなは解散した。
シルクとアリスは一緒に帰り、ルキはキリアと一緒に帰った。
「ねえ、ルキちゃんと私がいない時にキリア君と何かあったの?」
「うん。」
「何があったの?」
「キリア君に好きって言っちゃった。」
「本当に?!で、どうだったの?」
「何も言われなかったよ。」
「そっかあ。でも、まだ諦めちゃダメたよ!」
「うん。今日はありがとねアリス。」
「いえいえ!こちらこそ!じゃあまたね!」そう言ってシルクとアリスは別れた。
シルクは家に帰るとすぐにキリアに電話をかけた。
「キリア君、シルクです。」
「あ、シルクさん。」
「………あの、私、本当にキリア君のこと好きです………
私と付き合ってもらえませんか……」
「うん。いいよ。」
「えっ本当に?!」
「うん。シルクさん、これからよろしくね。」
「こちらこそよろしく!今日は本当にありがとう。楽しかった。じゃあまたね。」
シルクはそう言って電話を切った。シルクは胸いっぱいに幸せを感じた。
初めての彼氏。悪魔のキリア。でも大好き。色んなことを考えた。
「いつデートしよう」とか、「きっとキスしたらもっと幸せになれるよね」とか、
「あっ、私堕天使だ」とか、とにかく色々考え、幸せを感じ、
キリアに幸せを感じさせたいと心から思った。そして夜、
「キリア君ありがと。私、今すごく幸せだよ。」
そう安心して、天使は眠りについた。
五章 完




