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筆を折ることにしました。【作者視点】

作者:一之森はる

「……ブクマ伸びないなあ」

 パソコンに向かって既に半日。
 大学の講義を聞き流していた中で、ふと思いついた小説を数時間で執筆したものの、全くPVが増えないことに期待は打ち砕かれていた。



 冴えない日々を送る女子大生。それが私だ。
 元々、小説もラノベもあまり読んだことのない私が小説を書き始めたのには、あるきっかけがある。

 居酒屋のアルバイトで先輩が見ていた、ウェブサイト『小説家になろう』―――。
 偶然それを知った私は、ただの暇つぶしのつもりで小説を読んでみたけれど、思った以上にのめり込んでしまった。
 書店に並ぶ本の堅い感じが苦手だったけど、ここに投稿されている小説はそんなことなかった。
 読みやすいし、台詞だって多いし、話だって面白い。
 大学にも文芸サークルはあるけど、ああいった『文学』っていう感じじゃなくて、もっと気楽に読めるような。

 私は新しい世界に入り込む内に、段々と自分もそういった小説が書けるんじゃないかという気になっていた。

 ―――が、それは次の日にあっけなく砕かれた。

 授業中に思いついた短編を投稿してみたけれど、ブクマは0のまま。
 「最初だし、こんなもん」、と思って別の短編を投稿してみれば、今度はブクマがついたけれど「2」から変動しない。

 他の小説と一体なにが違うんだろう。
 読みやすさ? 設定? なにをどうしたらランキング一位になれるんだろう。

 そう思ってランキングを一通り見ていた私は、あることに気が付いた。
 「転生」「主人公最強」「ファンタジー」「異世界」……。そういったタグがついた作品が、ランキングの上位を占めていたのだ。

 そのとき、「ああ、なるほど」と合点がいった。
 私の小説は『なろう向き』じゃなかったんだ。人気が欲しいなら、人気のある傾向を取り入れる。それは至極当然で、手っ取り早い方法論に思えた。

 翌日書いた小説は、「転生」「主人公最強」「異世界」の要素を詰め込んだファンタジーだ。
 ついでに「恋愛」も取り入れることにした。
 一話を書き上げてみれば、自分でも名作と思えるような作品に仕上がったことに満足する。
 この先の展開は特に考えてないけど、書きながら考えればいいや。どうせ人気出るか分かんないし。なんていう軽い気持ちで、一時間くらい練ったタイトルと一緒に投稿した。


 ―――翌日になって、大学から帰ってきた私は驚いた。

 ブクマ1000。総合日刊ランキング入りを果たしていて、「感想が書かれました」なんていう赤い文字がホームに記載されている。

「なに……。なにこれ。なにが起きたの!?」

 思わず動転する気を落ち着けようと、その場で深呼吸してみる。
 けどダメだった。胸の高鳴りが全然落ち着かない。そのまま、はじめて書かれた感想ページを開いて後悔した。

 ―――胸が破裂しそう。

 『面白いです! 頑張ってください!』
 『誤字報告』
 『主人公もいいけど、ヒロインはもっといい』

 嬉しすぎて、あまりに嬉しすぎて、どうしたらいいか分からないくらいだ。
 頭が混乱する。でもこれだけは分かる。

 自分の小説が、受け入れられたんだ。こんな、1000人もの読者に!

 すごい、なんてすごいことなんだろう!
 感想に返信しようとするけれど、文字が思いつかないくらい嬉しかった。
 急いで次の話を書き上げ、投稿ボタンを押す。瞬間、伸びるPVに私は「人気作者」になった気がしていた。



「最近、小説書いてるんですよー」

 店の掃除をしながら、『小説家になろう』を見ていた先輩へ思わず言ってしまった。
 フットサルサークルに入っている、根っからのオタクと自負している先輩なら、気安さもあって「まあいいか」と思ったからだ。
 それになにより、あれだけ評価されている小説を見知った人にも認めてもらいたかった。

「へーえ? それ、俺も読んでいい感じ?」
「是非見て下さい。自信作なんです」
「そうなんだ」

 そう言って、先輩はバイトが終わった後、携帯ですぐに小説ページを開いてくれた。
 現実の人に自分の小説が読まれてると思うと、緊張でドキドキしてくる。着替え室で何かに祈りながら、それでも増え続けるブクマやPVに『大丈夫』と言われている気がして、笑顔を張り付けたまま着替えを終え先輩のところへ向かった。

「どうでした?」

 期待に胸を躍らせながら、この後に続くだろう賛美に目を輝かせる。

「すごいじゃん、まだ五話なのにブクマ4000もついてる」
「なんかすごい伸びちゃって」

 先輩の『すごい』という言葉に、胸を張ってしまいそうだ。
 けれど「でもさ……」と続けた先輩の言葉に、私の上がっていたテンションは急速に落ちる。


「小説書きたくて書いてるのか、それとも人気が欲しくて書いてるのか分かんねえなー」


 軽い感じで言われた一言に、なぜか胸を刺された。
 先輩曰く、『どっかで見た展開やキャラだ』と。『もっとお前らしさを出せばいいよ』とまでアドバイスされた。

 何を言ってるのか、家に帰って考え込んでも理解できない。できなかったが、茫然とする気持ちだけはずっと残っていて、その日は更新できなかった。



 はじめて投稿してから、二週間が経った。
 あれからブクマは6000を皮切りに、徐々に減っていくようになってしまった。感想だって止まった。

「……えー、なんで?」

 パソコンを睨みながら、どうしても数十分に一度はのぞいてしまう。気になって気になって仕方なかった。
 大学の講義だってそこそこに、友達と話していてもバイトしていても、気がかりなのはブクマ数だ。

 増えるのは3や4ぐらい。
 減るときは一気に減る。200減ったときは顔を蒼ざめたほどだ。

 この時すでに、私の中でブクマというのは『人気だと証明する数』という認識でしかなかった。

 どうしたらそれを取り戻せるのか。色んなサイトを廻った。更新の時間帯だって考えたし、読者の気を引けるように区切りだって気を付けた。
 それでも減っていくブクマに、ただひたすら頭を悩ませる。不意に妙案が思いついたのは、日刊ランキングで上位作品を参考にしていたときだった。

「……そっか、『ハーレム』要素が足りなかったんだ」

 開いたランキング2位の作品は、主人公に対して5人の女性が取り巻くハーレムものを扱っていた。
 自作品に取り入れられるとしたら、もうハーレムものしかない。正直、女の側面からもやっとするジャンルだったものの、読者を取り入れるのはそれしかないと思えた。

(今はもうヒロインがいるから……とりあえず4人くらい女キャラ突っ込めばいっか)

 適当に決めた名前とキャラを取り入れ、一話で一気に登場させる。一人一人の出逢いなんかどうだってよかった。
 とにかく人気を取り戻したい。今すぐに。ただそんな気持ちのままに突っ走ったのだ。

 ―――それが大変な事態を生むなんて、予想だにしていなかった。



「お前、あの展開はさすがにひどいよ」

 先輩にそう言われたのは、バイトから帰ろうとしたときだ。
 呆れ混じりに突然そんなことを言われて、目を丸くしてしまう。小首を傾げた私に、先輩は頭を掻きながら再度口を開いた。

「いきなし4人キャラ突っ込まれても、読者はついていけないって。せめてそういうハーレム的なのにするんだったら、一人ずつ登場させるとかさ」
「……え、でも、それが人気なんですよね?」

 私の反論に、先輩は眉を吊り上らせる。
 私は忘れていたのだ。先輩は読書オタクで、ラノベも一般小説も読み漁っている人だってことを。本に関して議論すれば白熱して、何時間も語るような人だ。だからこそ私は自作品を見てもらったんだ。そんな人から賞賛されたくて。

「あのさ、人気のものを取り入れたからって、それが人気作になる訳ないだろ? 前も言ったけど、お前『人気』が欲しいだけなの? 小説は作者の世界なんだよ。それを魅力的に魅せるのも、残念にさせるのも作者の力量だろ」
「そ、そんなこと言われても……」
「お前、好きな作家とかいるの? 好きな本でもいいや。そういうの読んでてさ、いつの間にか小説の世界に入り込んでるってあるだろ?」
「……いや、私……小説読まないし」

 言葉を失った先輩の表情を見て、急に恥ずかしさが込み上げてくる。

 言いたいことはなんとなく伝わる。
 小説も読まないのに、小説を書いてるなんて不思議に思ってるんだろう。でもそう言われたって書きたいと思ったんだし、それが悪いことだとは思わない。
 だって別にプロになりたいわけでもないし、ただ―――……。

(……『ただ』、なんだろう)

 人気作品ならブクマがつく。評価だってされる。そんなの当たり前だ。
 だから顔の見えない読者が欲しくて、小説を書き続けるんだ。読者を求めてなにが悪い。読者の傾向に合わせてなにが悪い。ブクマの数を増やす為に試行錯誤して、何が悪い。

(そういえば、私が最初に書いた小説って、どんなのだっけ?)



 鬱蒼とする想いを引き摺りながら帰宅した私は、パソコンの画面をつけて、いつも通りに『小説家になろう』を開いた。
 そこには赤い文字で『感想が書かれました』と書いてある。
 今はもう見慣れた文字だ。特別、なにか気持ちが湧いたりはしない。

(きっと『誰々が可愛い』とか『この子とくっついて欲しい』っていう感想かなあ)

 そう思いつつ慣れた手で感想ページを開けば、そこには予想外の言葉が続いていた。

 『ハーレム展開とかいらん』
 『人気の傾向を詰め込みすぎると、物語が破綻しますよ。それでも人気取りたいんですか^^』
 『今まで楽しかったです。ありがとうございました』
 『ずっとおもしろく読んできたのに、この展開は有り得ない。がっかりだ。主人公にはヒロインがいるのに、他の女を登場させる意味がわからない。すぐに撤回して、別の構想を練るべき』

 それらの感想で埋まっているページを、絶句したまま目で追いかける。

「え……なに、いきなり……なんでそんなこと言うの」

 人気の傾向を詰め込みすぎると、物語が破綻します?
 なにを言っているんだろう。人気の傾向を詰め込んだから、ここまで人気になれたんじゃないか。じゃなきゃ見向きもしてくれないじゃないか。

 他の女を登場させる意味がわからない?
 だってハーレムって人気傾向にあるんでしょ?
 だったら人気になって当然じゃない。

 返信しようか削除しようか悩んでいたとき、メッセージボックスに一通届いていることに気付いた。

 嫌な予感がする。今までメッセージなんて送られたことなかった。
 きっと感想欄と似たようなことが書かれているに違いない。そう思ったけれど、気になって仕方なかったので開いて見ることにした。

「ひっ……!」

 そこには、作品に対する愛とこの先の展開が長文に渡って綴られていた。

 あまりの内容に喉が引きつく。
 急激に冷えた身体に、瞬きすら出来ず硬直して文面をただ見つめるしかできない。

(なにこれ、怖い! 怖い、怖い!)

 顔も見えない読者という存在に戦慄する。敵と思えた瞬間だった。
 今まで盛り上げていてくれていた筈なのに、手の平を返したようにきつい言葉を叩きつけてくる彼らに、心から恐怖した。

 メッセージの『私の考えた構想は、以下の通りです』という先からスクロールバーを移動できずに、震える手で返信ボタンをクリックする。送り返さなければ、もっと悪化すると思ったのだ。
 けれど、文面が思いつかない。
 『こういうのはやめて下さい』?
 『勝手に考えないで下さい』?

 なんて打てば、この読者に響くんだろう。自分の受けた恐怖を分かってもらうことができるんだろう。
 小説を書いている癖に、なにひとついい文章が思いつかない自分に段々苛立ちが込み上げてくる。迷いの後に、展開に対する感想にしようと思い至り、ざっと目を通した。

 この後の展開なんて、何も考えていない。
 書きながら考えればいいやと思ってた。

 それを、この読者は先まで練ってあると思っているのだ。『そんなことないです、参考にさせて頂きます』と打てば事なきを得られるのでは、と思ったが、そんな感想は読み終えた瞬間にどっかへ吹き飛んでいってしまった。
 代わりに浮かんだのは、『自分の作品』に勝手に手を加えられたことに対する怒りと、読者の垣根を越えた個人に対する恐怖だ。

 『これは、貴方の物語ではありません』。

 そう返信した私はその後、感想すべてに被害者意識から返信していった。
 こんなことを書くなんて、あんまりだ。私だって人間なのだから、遠慮のない言葉をぶつけられれば傷つくんだ。
 心無い言葉の数々に、本当に自分の読者かと疑わざる負えない。

 自分の小説を喜んで、賞賛してくれる人物。それが読者だと、私は信じて疑わなかった。


 ―――それからは、ひどいものだった。

 一体なにが彼らの逆鱗に触れたのか分からないまま、感想ページは暴言罵倒の言葉で埋め尽くされていったのだ。それが、毎日続いている。

 もう、小説を書く気すら起きない。
 なにやっても事態は収まらない気がした。

 それでも、こんなことをする人を許せる気にもならない。泣き寝入りなんて、真っ平御免だった。

「……ずっと見てきたっていうんなら、こんな風に壊さないでよ……」

 削除しても削除しても、湧き上がるように新たに書かれていく『感想』という『罵倒』。
 辛くてたまらなかった。犯人なら分かる。構想を送ってきたっていう読者気取りの荒らしだ。悔しい。一方的に受ける屈辱に、私は『作者』の殻を脱ぎ捨てて行動に出た。

 『打ち切り』にして、荒されている間辛かったことを分かってもらいたかった。
 思いつくままに文字を打ち、送られてきた構想に対して反論の意を込めて別の構想を書いてやった。

 ―――『筆を折ることに致しました』。その文章を、読者が悔やむだけの材料として綴った。

 そうして投稿ボタンを押し、『管理ページ』に戻ったとき。


 ―――ふと、最初に投稿した一作目のタイトルが目に飛び込んできた。

 今見返すと恥ずかしいと思える作品だが、無駄に熱だけは入っていて、細かい描写を何度も手直しした記憶がある。
 誰からも評価されなかった作品。ただの無意味な文字が詰まったページ。
 でも書いてて、とても楽しかった。自分だけの世界を広げる感覚に、胸躍らせた。

 二作目の話はお粗末なもので、平凡な女子高生がある日突然謎の少年と出逢い、恋に落ちる話。
 どこにでもあるような恋愛もの。
 でも、はじめてブクマがついたとき嬉しかった。あれから少し増えていて、ブクマは12になっている。
 なぜか、すごく嬉しかった。

 いつからだったろう。
 読者が『数』になってしまったのは。

 先輩の言葉が、ふと頭をよぎる。


 『小説書きたくて書いてるのか、それとも人気が欲しくて書いてるのか分かんねえなー』


 そうだ。
 私はただ、人気が欲しかっただけだ。だから人気取りに走ってしまった。
 『打ち切り』と書かれたサブタイトルを見て、『なにも思わない』なんてどうなんだろうか。私が選んだ文章ひとつひとつに、一体どんな重みがあったというんだろうか。
 思えば、先輩は的確なアドバイスをしてたじゃないか。なんでひとつだって素直に受け取れなかったんだろう。
 こんな、どこにでもあるような―――もっとすごい小説を書いている人達を見もせずに、なんで『人気作者』気取りでいられたんだろう。なんで賞賛されると絶対な自信を持てていたんだろう。恥ずかしい、自分が恥ずかしくなってくる。

 私は新しく書かれた感想を見て、思わず画面の前で突っ伏して泣いてしまった。


 『また戻られるのを、待っています』。


お目汚し失礼いたします。
前作での反響が予想以上のもので、正直驚いております。ありがとうございます。
ありがたいことに『作者視点も見たい』、というお声を頂きましたので、舞台裏の話ではありますがつたないながらも執筆させて頂きました。
勿論、こちらのお話も全て架空の出来事です。

ただ一点、私が二作品を通してテーマとしていたのは、どちらも一個人の人間であり作品を通して繋がっていることです。
作者にも読者にも『そうなった経緯と感情』があり、画面越しとはいえ、決して『機械』などではないということを念頭に置いて書かせて頂きました。
またこの度『小説家になろうを舞台にした作者と読者』を題材に選んだ理由と致しましては、より身近に感じることができるのではと思ったからです。

この小説は『小説家になろう』内でご活躍される作者がたや、小説を楽しまれている読者がたに対する批判などを書いたものではありません。
ましてや、人気傾向に対する非難などの意図は全く含まれておりません。
そのように感じてしまわれたのでしたら、まずこの場をもって謝罪させて頂きます。

今後とも面白いと言って頂けるような小説を書き続けていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

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