シンデレラの落とした靴は一足である
夜。既に午前三時を過ぎている頃でしょうか。カーテンの隙間から入ってくる月の光が眩しいですわね。
明日は月曜日ですし、早く就寝したい所ですけれど、あのことが気になって寝付けませんわ。気にしだすと眠れなくなる。わたくしの悪い所ですわね。因みに月光が眩しくて眠れない訳ではありません。
……背に腹は変えらません。このままじゃ眠れませんもの、明日の放課後あの男に訊ねるしかありませんわね……。うー……気になって気になって仕方がありません! 今すぐにでも電話で訊きたいですけれど、流石に迷惑ですし……、それ以前に番号も知りません。
今晩は間違いなく頭を悩ませますわね……。何故、あの男はこういう謎を解けるのでしょう。そして何故、わたくしには解けないのでしょう……。
ええい! もう知りません。思考を停止しなくては眠れませんわ。
わたくしは身を羽毛ふとんにくるませます。
……結局、この夜は眠れませんでした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌朝、わたくしは家を出て学校へ向かいます。わたくしの家は、まぁ、自慢じゃありませんが裕福ですわね。お父様は鉛筆からロケットまで、様々な事業を行っている会社の社長。お母様は大手の化粧品会社の社長です。
そして家そのものも、物凄く大きいのです。何でそこまで大きくしたのか分からないくらいに、大きいですわ。お城のような外装に、周りを取り囲む塀。広い庭に数十匹の鯉が泳ぐ池。背の高い十五本の桜の木。結婚式の披露宴ができる宴会場。……桜の木と宴会場はいるのでしょうか? まぁ、わたくしが生まれた時にはもう既にあったんですけれど……。
わたくしが通う学校は日本全国どこにでもあるような公立高校です。お父様とお母様の意向で普通の学校に通うようにしているのです。小中学校も、私立ではなく公立でした。まぁ、楽しいですし問題はありません。
一年A組にある自席につき、スクールバッグから教科書を取り出します。すると、
「赤姫ちゃん。おはよう」
後ろから声がかかりました。
「おはようございます、美屋子さん」
小柄で黒髪のボブカットの女の子。わたくしの親友である貝原美屋子さんがそこにいました。……そう、あれは小学二年生の頃、家柄が原因で色々と敬遠されていた(今も結構、敬遠されていますけれど)時、人懐っこく話しかけてくれた。それから高校まで一緒にいるベストフレンドですわ。あっ、自己紹介が遅れていました、わたくし北条赤姫という名前です。
「赤姫ちゃん、寝不足? 隈が凄いけど……」
「え? ああ、そうですわね……」
「また考え事してたの?」
わたくしは頷きます。謎を考えだすと眠れなくなる。幼少の頃からの癖……。中学まではこの悪癖のおかげで大変でした。寝不足で倒れることも多々。
しかし、
「じゃあ今日の放課後は峰霧くんの所に行くんだね」
中学までは、わたくしを苦しめる謎を解き明かせる人材が近くにいませんでした。けれど、この音白高校にはその人材がいたのです。まぁ、変わり者ではありますが……。
「そうですわね。その為に今日は懐を暖めてきましたもの」
そしてあっという間に放課後になりました。わたくしは一人で天文部に向かいました。天文部には部員が一人しかいません。わたくしはその一人に会いに向かっているのです。
基本的にわたくしは男子たちから敬遠されています。家柄が強大過ぎるからでしょう。女の子たちはよく話しかけてくれますけれど、男子は話しかけてきませんし、話しかけても何故か敬語だったりします。
けれど、今から会いにいく男子は誰に対しても平等……というのとは少し違う気がしますが、普通に接してくれます。変わり者ですが、まぁ、良い人ですわね。
スライドドアの前に立ち、軽くノックする。
「どうぞー」
気の抜けた声が飛んできました。扉を開け、
「久しぶりですわね。峰霧さん」
「そうだね。北条さん」
茶髪で常に柔和な笑みを浮かべている優男。正確には優男然とした男。峰霧秋。
「で、何か用かな?」
読んでいたであろう文庫本を閉じ、笑みを浮かべたまま訊ねてきた。
「わたくしがあなたの所に来る理由は一つですわ!」
「そうだね。……じゃあ、どんな謎が君を苦しめているのかな?」
「靴ですわ!」
即答しました。しかし峰霧さんは首を傾げました。
「靴……って、あの靴?」
「そうです。シンデレラに出てくる靴です」
「ガラスの靴かな?」
「いえ、普通の白い靴です。運動靴のような」
峰霧さんは溜息を吐き、
「ちゃんと説明して貰える……?」
呆れたように呟いたのです。
「そ、そうですわね。……昨日のことです。昨日は家の宴会場で十六時頃からパーティーが行われていました。宴会場は家の門から見て裏側にあるので、お呼びした皆様は家の裏口に上がって貰うのですわ。
あっ、因みに裏口と言っても、とても広いですわよ」
「話そらさなくていいよ」
咳払い。
「沢山の方々が来ますので、いくら広い裏口といっても靴で溢れ返ります。そしてここからが問題の謎なんですけど、パーティーが終わり……、ではなく夜宴という名目で、皆様が二次会の会場に繰り出した後でした。……裏口は当然、靴がなくなっているものだと思っていました。パーティーの時にしか裏口は使いませんから……。
しかし! 裏口には一足の白い運動靴? が揃えてあったのです! その時はまだお客様がいるのかと思っていましたが、お父様もお母様も夜宴に出ていたので違うと気づきましたわ。それに第一、パーティーにあのような靴を履いて来るとは思えません。
そして数分後にもう一度見てみるとなくなっていました。……これは一体、どういうことなんですの?」
話し終えると、峰霧さんは欠伸をしました。
「聞いてます?」
「聞いてたよ」
「解けそうですか?」
「流石に今のだけじゃ無理だよ……。けど情報さえあれば、分かると思うよ」
わたくしは嬉しさのあまり胸の前で手を合わせます。
「ありが……」
「これさえ出せばね……」
お礼を言う前に、峰霧さんが右手の人差し指と親指で○を作りました。
「相変わらずですわね」
「まあね。お嬢様なんだから、いいじゃないか」
柔和な笑みを向けてきました。……この男、峰霧秋は、守銭奴なのです。この手の相談をする度にお金を蝕まれていきますわ……。
「分かりましたわ……。で、どのくらいの情報が欲しいんですの?」
「そうだね……。昨日、日曜日の生活を振り返って欲しいかな? 記憶力、よかったよね?」
「ええ。なんなら一週間前から振り返ってもいいですわよ」
「いや、そこまでしなくてもいいよ。日で分からなかったらで……」
「そうですの? ……では」
回想に入りますわ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
日曜日はテニス部が午後からだったので少し遅く起床しましたわ。と言っても、九時半頃でしたけど。
わたくしはベッドから降りて、クローゼットから服を取り出します。半袖のピンク色のワンピースを着て、鏡の前に立ちます。
そこには艶やかな長い黒髪に整った顔立ちの美少女がいました。……まぁ、わたくしですけれど。
遅くなってしまいましたし、美奈さんに作って貰うのは流石に気がひけますから、自分で作るのが当然ですわね。
わたくしは自室から出て、長い廊下を歩いていきます。
「赤姫」
後ろから声が聞こえ、振り向きましたわ。そこにはわたくしと同じく、艶やかな黒髪を持った女性が立っていました。わたくしから思わず笑顔がこぼれます。
「お姉様。何かご用ですか?」
「着れなくなっちゃった服があるけど、いる?」
勿論、頷きます。お姉様の服をいらないと言う人間はいませんわ。
お姉様は駆け足で自らの部屋に入ると、三着の服を持ってきました。
「これ、赤姫なら着れると思うから」
その服を受け取ると、お姉様がにこりと笑いました。癒やされますわ……。
「ありがとうございます」
「でも、赤姫の服、大丈夫? 私のおさがりばかりになってない? そのワンピースも」
かぶりを振ります。
「お姉様のおさがりなら、大歓迎ですわ」
お姉様は柔らかく微笑んでくれました。実際、お姉様の服は特に痛んだりもしてませんし、お姉様の匂いが染み付いていますし……。
一礼して、踵を返そうとした時、
「あっ、赤姫。浴室のトイレ、水道が壊れて使えなくなってるから」
「分かりました」
……お姉様は優しいな。……グフフ。
それからトーストを焼いて、それを食べました。リビングには誰もいなくて、ただでさえ広いリビングが更に広く感じました。
テレビは情報番組しかやっていなかったので、部屋で勉強をすることにします。勉強机に向かい合い、淡々と課題をこなしましたわ。それから昼まで、特に何もありませんでたわね。
そして昼食。リビングでお姉様と二人きりで、いんすたんとらーめんなる物を食しましたわ。簡単に作れる割に美味という、人類の英知を目の当たりにしました。
そこで、使用人の方々がいないことをお姉様に訊ねました。
「今日、四時からパーティーがあるから、皆さん忙しいのよ」
「そういえば、そんなことも言ってましたわね……。四時からですか……」
いくらなんでも早すぎますわよね、それ。
「どなたが来るんですか?」
「伯父さんとか、叔母さんとか、お父様とお母様の知り合いとか……かな? 私は顔を見せるけど、赤姫はどうするの?」
「部活の終了時間によりますけど……、努力してみますわ」
どう努力すればいいのか分かりませんけれど……。家の都合を理由に部活は休みたくありません。
食器をキッチン(レストランのように広い)で洗い、食器棚に置いておきました。……わたくしはそこらのお嬢様とは一線を画しているのです。
そしてお手洗いに入り、暫くして部活に繰り出しました。
「部活の回想は必要ですか?」
取り敢えずここまで話してみました。
「必要ないと思うから部活から戻る所からでいいよ」
峰霧さんは文庫本を読んでいます。これはいつも通りなので、特につっこんだりはしません。けれど、
「毎回思うんですけれど……、峰霧さんは本を読んでいるのか話を聞いているのか、どっちなんですの?」
「両方」
……そんなことできるんでしょうか? まぁ、どうでもいいですわね。
「では回想を続けますわね」
わたくしは一年生ながらテニス部のエースと言われています。それ故に期待も大きく、二年生の練習メニューを行っていました。
汗をかいてしまったので、学校のシャワールームを使用させていただきましたわ。
さっぱりとした気持ちで帰宅しました。学校と家は近くにあります。校門を出てすぐ坂を下り、小さな川に架かる橋を渡って、住宅街を抜れば場違い感が凄まじい我が家が待っています。
わたくしは家の塀に沿って歩いていきます。停められているトラックを通り過ぎると、家の門扉が開いているのがわかりましたわ。そして門のすぐ右側の塀に看板が張られていました。その看板には、『お手数ですが、お客様は裏口に回ってください』と書かれていました。
パーティーが始まっているようですわね。時間を確認すると、五時を少し過ぎていましたわ。
もうすぐ夜宴で会場が変わりますわね。……というより、今日はいったいなんのパーティーなんでしょう? そのことすら知らないのだけれど……。
門から少し距離がある玄関の扉を開け、靴を脱いでスリッパを履きます。
どうしましょう。誰が来ているのかは知りませんけれど、顔は見せた方がいいでしょう。でもドレスに着替えるのは面倒ですし……、まぁ、制服でもいいですわよね。一応、正装ではありますし。
わたくしはそのまま宴会場へと歩きだします。宴会場は正面から見て真裏にあたりますから、なかなか行くのに骨が折れます。
宴会場の近くまでいくと、わいわいと声が耳に入ってきました。一体全体、何のパーティーなんでしょう? お父様もお母様も会社の社長なのに、こんな暇があるんでしょうか?
会場の扉近くの裏口に、大量の靴がキレイに揃えられてあります。靴箱を置くのを提案してみるのもいいかもしれませんわね。
会場はシャンデリアに照らされていました。まだそこまで暗くはないですけれど、日は短くなってますから。
人は結構、多いです。多分、夜宴(二次会)になればもっと増えるでしょう。……本当になんのパーティーなんでしょう。見回してみますけれど、知っている人は少ないです。お父様にお母様……、叔母様もいますわね。
「赤姫ちゃん。久しぶり」
後ろから声がかかりました。振り返るとそこに、
「お久しぶりです。雄二伯父様」
お母様の兄にあたる雄二伯父様。因みに家電会社の社長をしていらっしゃいます。兄妹揃って、凄いですわよね。
「いやぁ、暫く見ない間に背が高くなったね。また綺麗になったよ」
「ありがとうございます」
にこりと笑って対応する。……わたくし、実はこういった集まりは苦手です。
適当に叔父様の会話を流し、わたくしは会場を後にしました。……結局、なんのパーティーだったんでしょうか?
「なんのパーティーだったと思いますか?」
「急に回想やめないでくれる?」
なんとなく気になったので訊ねてみると、峰霧さんはジト目を向けてきました。
「すいません」
「まぁ、お金を積めば答えてもいいけど……」
峰霧さんは右手を差し出してきました。
「ならいいです」
「そうなの?」
……回想に戻ります。
会場から離れると、リビングでテレビを見ていました。落語家の方々が出演してらしてる番組です。
特に誰もリビングには来ずに、そのまま番組を見終わりました。そこで小腹が空いたので、仕方なく会場に何かを摘みにいきました。
「とてもお嬢様の行動とは思えないね」
「回想を止めないでください」
「失礼」
しかしパーティーは終わり、皆様夜宴(二次会)に繰り出してしまっていました。
肩を落としつつ、リビングに戻ろうとした時、あることに気がつきました。裏口の靴置き場。靴が一足だけ残っていたのです。白い、運動靴のような靴。
……どなたのでしょうか? まだ誰かいるのでしょうか。少し気になったので、玄関にお父様とお母様の靴を見にいきました。靴箱を開けて確認しますけれど、お父様靴もお母様の靴もありませんでした。
ということは、あの靴の持ち主はお父様と話しているわけでもなく、お母様と話しているわけでもない。ということですわね。
また気になったので、先ほどの靴を見にいくと……、
「あれ?」
なくなっていました。……そこから使用人の葉月さんに、パーティーに来ていた方々は、全員夜宴に向かったと聞きました。
「……そして、現在に至りますわ」
言い終えると、峰霧さんは文庫本をぱたんと閉じました。
「確認したいけど、今の話、君のお姉さんにはした?」
わたくしは首を捻り、
「言ってませんけれど……、なんですの? その質問は? 靴の持ち主は分かったんですか?」
峰霧さんは頷きました。
「それの解決……、五千円で手を打とう」
ぐっ、案外高額ですわね。……いつもは三千円とかですのに。ここは値踏みということをやってみましょう。
「峰霧さん」
「なんだい?」
いつもの柔和な笑みを向けてきました。この笑顔に騙されてはいけませんわ。
「わたくしは確かにお金持ちのお嬢様です」
「そうだね。それがどうかしたの?」
「……けれど、わたくしの一月のお小遣いは、普通の高校生のそれと同じくらいなんですのよ」
「というと?」
わたくしは右手の指を三本立てます。
「月に三千円ですのよ!」
「へぇ……」
「あなたは一月のお小遣いより多い金額を要求しているのですよ。もうちょっと安くして欲しいですわ」
「安くねぇ……」
峰霧さんは呆然と呟き天井を見ます。
今の話は事実です。子供のうちから金を与え過ぎるのはよくない。という理由で三千円しか貰っていません。……けれど、特に何も買っていないので、なかなか溜まっているんですが……。
そして天井を見つめていた峰霧さんが、ちょっと怪しげな笑みを向けてきました。
その笑顔に、背筋が震えたような感覚が走りました。……な、なんですの。
「北条さんさぁ……、女子高生が一番お金をつぎ込む物、なんだと思う?」
「え?」
「僕は、服だと思うんだけど……、どう?」
「ま、まぁ……、そうかもしれませんわね……」
確かに美屋子さんや香椰さんは、よく服を買っていますわね……。それがいったい何なんでしょう……。
「でも君はお姉さんからおさがりを貰ってるみたいだから、服にはお金をあまり使ってないよね?」
ま、まさか……!
「で、その次は化粧品、かな? 女子高生の買い物……。でも君の場合は化粧品は買う必要がない。お母さんが化粧品会社の社長なんだしね……」
この男、わたくしの懐事情を探る気ですの!?
「次は……なんだろ。アクセサリー類かな? アクセサリーはそこまで値が張るとは思えないし……。第一、お小遣いが月三千円でも、お年玉とかも貰ってるだろうから……」
爽やかな笑みを浮かべ、
「もらえるお小遣いは普通でも、君の貯金はかなりのものとみたけど……、どうかな?」
峰霧さんが右手を差し出してきました。わたくしは無言で財布から五千円札を取り出して手渡しました。
「どうも」
わたくしは軽く溜息を吐き、
「じゃあ教えてくれますの? あの靴の持ち主は誰だったのか……」
「いいよ。それはね……」
ゴクリと唾を飲みます。
「それは、水道を修理しに来た業者さんの靴だったんだと思うよ」
「ん?」
首をキョトンと傾げます。そして次の言葉を待ちますが、続きは来ません。峰霧さんは文庫本を開いてしまいました。
「あの、どういうことですの? 確かに、お姉様が浴室のトイレの水道が壊れたと言っていましたけど……」
峰霧さんは無言で右腕を伸ばしてきました。
「説明欲しけりゃ金をくれ」
……こ、この守銭奴! 手のひらに追加料金、千円を叩きつけます。
「どうしてあの靴が業者さんのものだと思ったんですか!!」
「塀の近くにトラックが停められてたんでしょ? だからかな」
そういえば……、いやそうじゃなくて!
更に千円を叩き込み、
「業者さんなら玄関から入ってくる筈でしょう! どうしてその靴が裏口にあったんですのよ!」
その質問に峰霧さんは小さく溜息を吐き、
「そりゃ、その人だって、君の家がそんな早いうちからパーティーなんて開いてなかったら、玄関から入ったさ……」
「どういう……」
「塀に看板が張られてたんだよね? 『お手数ですが、お客様は裏口に回ってください』っていう、看板が……」
「あっ……」
そういうことですの。……パーティーの開催中に水道屋さんが来て、看板を見た結果、裏口に回ってしまった。そして夜宴に移った時はまだ修理中だったので靴が残り、わたくしが玄関に行っている間に修理が終わって帰っていった。という訳ですか……。
頭に渦巻いていたもやもやが消し飛び、凄くすっきりした気分になりましたわ。
「お金さえ取らなければ、凄い良い人なんですけれどね……」
小声で呟いてみます。すると、
「良い人認定とか、どうでもいいけどね」
文庫本に目を通しつつそんなことを言いました。
まったく。変な人ですわね。
「じゃあ、今日は帰えりますわね」
「あっそう。またね、カモ……じゃなくて北条さん」
カ、カモ!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日の放課後、超特急で峰霧さんを訪ねました。
「峰霧さん!!」
勢い良く扉を開けると、峰霧さんの手から文庫本がすっぽ抜けました。
「ノックくらいしてくれない?」
「す、すいません」
「で、何か用?」
はっ! そうでした。
「実は昨日話したパーティーについてなんですけれど! 気になってどういうパーティーだったのか訊いてみたんですよ!」
「それで?」
峰霧さんは文庫本を拾い上げ、ページをぺらぺら捲っていきます。
「そうしたら、お父様もお母様も別に知らなくていい、って……。お姉様も使用人の皆さんも知らないみたいですし……」
「で、何のパーティーだったのか、僕に推理して欲しいと……」
大きく頷きます。
「じゃあ確認したいんだけど、そのパーティーに来ていた見知ってる人って、どういう人?」
よく思いだしてみます。
「お父様、お母様、叔母様、伯父様。それと……、殆ど話したことないですけど、お母様の秘書さんでしたわね……」
「もう一つ、君の叔母さんの仕事は?」
「女性服のデザイン会社の社長ですわよ」
「……君の親族、凄いね……」
峰霧さんは若干呆れたように呟きました。
「けど、多分だけど分かったよ。どういうパーティーだったのか」
「本当ですか!?」
無言で頷き、
「それの解決……、三千円で手を打とう」