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即興小説

地獄へ送るか連れ去るか

作者: 西おき

お題:とてつもない処刑人 制限時間:30分

 別に取り立ててほしいものではなかった。

 ただ、人生に飽いていたいたのだと思う。

 

 野次どもが群がる大通りを縄を打たれて引き立てられながら、私は笑みを浮かべる。

 罵声や石が人垣から飛んでくる。

「人殺しの売女め!」

 私の何を知っているでもない他人が、あたかも親しき隣人であったかのように叫ぶ。

「人は殺したけど売女じゃないわよ」

 野次どもの喧騒にまぎれて、私は静かにつぶやいた。



 そう広くもない町だ。処刑場にはすぐに辿り着いた。

 役人が罪状を読み上げると、なんの前置きもなく処刑は始まる。

 私は今から死ぬのだ。たった一人の益体もない人間を殺した罪で。

「罪状は以下、金品強奪の目的で資産家グレイスを殺害」

 無味乾燥な声が端的に告げる。

 壇上に上げられた私の横手に、黒いマントを羽織った大柄な男が立つ。処刑人だ。

 見上げた男の顔は深く被ったフードの影になり見えない。

 大斧が私のすり切れたスカートの端を撫ぜた。

 これで私の首を断つのだ。

 感情の伺えない処刑人に私は口唇を釣り上げて微笑みかけた。

「どうぞよろしく」

 処刑人が私を見下ろした。

 フードの影から見えた、その双眸。

 私は目を見開いた。

 振り下ろされた斧が風を切る音を聞いた。

 けれど、私の目に斧の姿はまるきり映らなかった。

 反転する視界の中で、黒いフードの大男は笑った。



「罪人、マーゴットは地獄へ」

 役人が粛々と残忍に私の死を告げる。

「ひどいものよね」

 私は未だ隣りに立つ男に言う。

「地獄へ行くのじゃなかったの?」

 男はにやりと微笑んだ。その顔に瞳はない。虚の眼孔が私を見下ろした。

「美しい悪女が俺の好みだ」

 斧を肩に担いだ男は処刑人だった。

 ただし、この世のものではない。

「死神」

 私はうんざりした気持ちで言った。

 地獄へ落ちるはずだったのに。

 私は死んで、私の魂を奪った死神にもらわれてしまったらしい。






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