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6/14

――愉――

 あの一件から、一週間ほどが経つ。

 新堀達は美凪の言う通り、白子に手を出さなくなった。いや、正確に言えば、新堀達が学校に来なくなった。と言う方が正しいだろう。

 始めは、何かを企んでいるのではないか? と、怖ろしく思えたが、三日、四日経つと新堀達が居ないことが普通ではないのかとも思えてきた。

 人間というのは不思議なもので、嫌な奴が居ないと思うと、少しずつだが嫌になりかけていた学校というものが一転して楽しくなってしまう。

 だが唯一不満なのは、この一週間、美凪とまともに会話をしていないことだ。何故かと言えば、あの一件からクラスで美凪の人気が上がり、クラスメイトから持て(はや)されるようになったからである。

 美貌も良い、成績も良い、さらに性格も良いとなれば、誰もが話しかけたくなるのも当然だと思う。

 最近は瀬亜の存在すら忘れてしまったかのように、クラスの男共は「どうすれば美凪と付き合えるか」という話題で持ちきりのようだった。

 俺としては、ライバルが増えることが不快でたまらない。

「好間くん、また眉間にシワが出来てるよ」

 そんな事を考えている俺の顔をまじまじと覗き込んできたのは、前の席に座る美凪であった。

 俺がまさか、美凪のことを考えて眉間にシワを寄せているいるだなんて、彼女には知る由もないだろうな。

「好間くんはすぐにそう言う顔するね。綺麗な顔がもったないよ」

 美凪が首を傾けると、線の細い髪の毛がさらさらと肩から滑り落ちていくのが見える。髪の毛に隠れていた細くて白い首もとが、俺の視野に入った。

 その首もとに目を奪われてしまいそうになった俺は、すぐに視線をそらしてから口を開く。

「『綺麗な顔』とか言われたの、初めてだな。でも、なんか嬉しくねぇ」

「えー、私の最高の誉め言葉なのになぁ」

 そう言うと、美凪の頬が膨れる。

 こんな表情をする美凪も可愛いな……と、彼女の顔をまじまじと見てしまった。

 すると、一瞬だが美凪と目が合い、見つめあってしまう。

 少し茶色がかった瞳に見惚れていると、俺の顔が熱くなっていくのがわかる。

 急なことに戸惑ってしまった俺は、すぐに顔を背けてからつんけんとした態度をとってしまった。

「誉め言葉なら、『カッコいい』とかじゃねぇの? 『綺麗な顔』は誉め言葉じゃねぇよ」

「そうかな? でも、好間くんは『カッコいい』より『可愛い』という言葉が似合うと思うな」

「いや、可愛いとか男に言うのはどうかと……」

「女装すると可愛くなると思うんだ。あ、なんなら、思い切って文化祭とかに女装しようよ。下手な女子より可愛くなるよ、好間くんなら」

「いや、なんか傷つくんですが……」

 さすがにこんな会話をしていれば、顔の火照りも収まってしまう。

 俺は呆れた顔で美凪に言うと、彼女は口に手を当ててくすりと微笑んだ。

「ほんと、好間くんって弄りやすいな」

 その言葉を聞いた俺は、なんだかムッとする。

 その言葉はまるで、「俺をいじめやすい」とでも言ってるかのようだからだ。

「なんかその言葉、ムカつく」

 ふてくされた態度でそう言い放つと、美凪はしまった、と言わんばかりの表情をする。

「あ。そんなつもりで言ったんじゃないんだけど。ごめんね?」

 申し訳なさそうに言う美凪の顔を見て、俺は「別にいいけど」と呟く。

 いや、普通だったら許さないんだけどね。美凪の謝ってくる姿が上目遣いで可愛いとか思ったから、つい……。

「ところで、話を変えるんだけど」

 俺の顔がまた熱くなり始めたとき、急に美凪が真面目な顔をしてこっちを見てくる。

「白子の誕生日って、四月四日だったんだねっ」

 そうかと思えば、そう喋る美凪の瞳がキラキラと輝いていた。

「そ、そうだけど?」

「誕生日のお祝いとか、した? した?」

「か、母さんが盛大にやってたよ」

 急に興奮したように喋る美凪に圧倒されて、俺はたじろぐ。

「好間くんは祝ってあげたの?」

「まあ、ケーキ一緒に食ってやった……ぐらい?」

「え、それだけ? それじゃ駄目だよっ! これだから男の子は無神経だって言われちゃうんだよ?」

 俺の言葉に、何故か怒り始めた美凪。

 なんだか、今日の美凪はやけに暑苦しい。

「ってことで、今度の土曜日は開けておいてっ。サプライズパーティーしよっ。……それと、好間くんのお母さんにお家を借りて良いかも聞いておいてねっ」

 一応、美凪は白子に聞かれていないか気にしているようで、横目で白子の様子を伺いながら、口元に手を添えてから小声で俺に話しかけてくる。

 そんな子供のような美凪の姿を見た俺は、つい失笑してしまった。

「今、なんで笑ったのかな?」

 大きな目を細めるようにして、俺を睨み付けてくる美凪。

「……いや」

 俺はそんな美凪を見て、笑いをこらえる。だが、こらえているのがバレバレだからか、美凪の頬が段々膨れていくのがわかった。


 そんなこんなで、俺と美凪はこの日から「白子の誕生日サプライズパーティー」を計画し始めた。

 母さんにも事情を話すと、興奮したように承諾してくれた。母さんはそういうサプライズ的なことが大好きだから、断ることはしないってわかっていたけど。



   ***



 計画は着々と進んでいった。

 というより、俺よりも母さんの方がヤル気満々なのが気になるんだが。

 美凪は「好間くんを通してお母さんと喋るより、直接話した方が早い」などと言い始め、母さんと美凪は直接連絡を取り合っている。

 火曜日の夜から連絡先を交換し、まだ数日しか経ってないというのに、母さんと言えば、

「なんて出来たでしょう! 唯人の彼女には勿体無いから、付き合うのは絶対にやめなさいっ! 美凪ちゃんが可哀想だからっ」

 とか、夕飯時になると再三言ってくるようになったので、少し困っている。

 てゆうか、「美凪ちゃんが可哀想」とか、美女が美凪だとして、野獣か俺は!

 とかそんなことを思いながら、水曜日は味噌汁をすすり、木曜日はミネストローネを味わっていた。


 月曜日から美凪に、

「白子にはぜっったいにバレないように!」

 と言われていたので、俺は今週の殆どは学校でも、自宅でもぎこちなく白子に接していた。

 だが、白子もそこまで馬鹿ではない。

 俺のぎこちない態度や、美凪の白々しい態度は、白子の笑顔を少しずつ奪っていく形になってしまう。

 サプライズだから仕方がないのであろうが、俺にはこの状況が苦痛に感じる。

 決して白子をけ者にしたくて、そんな態度を取っていたわけじゃなかった。


 金曜日には、美凪と一緒に白子に渡すプレゼントを買いにいくことになる。

 白子を一人で帰らせなければならないから、美凪と理由については念入りに打ち合わせていた。

 白子に「先に帰ってて」と切り出すが、白子は深く追求することもなく少し寂しそうに笑いながら、「うん、わかった」と言うだけ。

 肩を落として歩く白子の寂しそうな後ろ姿を見たときは、よっぽどサプライズパーティーのことを話そうかと思った。

「今日までだから。今日までだから、我慢して? 好間くん」

 美凪の横顔を見ると、本当に辛そうな顔をしている。

 ここまでやる意味があるのか?

 その時の俺は、凄くそう思っていた。


 時間をずらして普通運行のバスに乗り込んだ俺と美凪。

 一番後ろの席を陣取り、微妙な間合い開けながら、俺と美凪の二人はバスに揺られた。妙な沈黙が流れる中、俺達を乗せたバスは、大型ショッピングモールの停留場で止まった。

 そこで俺達は降りると、ショッピングモールへと入り、白子にあげるプレゼントを選ぶ。

 バスの中ではあんなにも会話がなかったのに、ショッピングモールへと入ったとたん、自然と会話が弾むようになった。

 だが、プレゼントを楽しそうに選ぶ美凪の顔を見て、俺はふいに複雑な気持ちになってしまう。

 そんな俺の表情を見てか、美凪も困ったように笑うと、次に笑顔で俺に言った。

「大丈夫だよ。明日、みんなで盛大にお祝いしよっ!」

 女の子らしいハートのネックレスを手に取り、満面の笑顔でそう言う美凪の表情は、俺の不安を拭うように癒してくれた。



   ***



 今日はいよいよ本番だ。……緊張する。

 実は今日、美凪から大役を任されていた。

 それは『白子をデートに誘うこと』である。

 その間に、美凪と母さんが料理の仕度と、室内の飾り付けを施すらしい。

 一瞬、俺は除け者かっ! とも思ったが、白子を連れ出せばいいだけだと考えると、気楽だな役目だったなと思えた。

「唯人っ」

 俺は自分の部屋で心を落ち着かせていると、ドアが少しだけ開き、母さんが顔を覗かせる。

「んだよ」

「準備できた? 白子ちゃんをエスコートできる?」

「……用意は出来てる」

 俺は上着を羽織りながらそう言うと、母さんは目を細めて俺を見てきた。

「美凪ちゃんの言っていたこと、理解してる?」

「白子を連れ出せばいいんだろ?」

「やっぱりぃ。美凪ちゃんが言ってたのはデートよ、デート。デートの意味わかってる?」

 俺は母さんにそう言われると、少し考えてから素っ気なく答える。

「散歩?」

「っああー! もどかしい! 我が息子ながらもどがしいっ!」

 いきなり奇声を発しながら、母さんはその場でじたばたしだす。

 おい、白子にバレるだろう。やめてくれ、そんなみっともない格好。

「ふあ……、おはようございますーっ。……って、まりもさん、何しているんですか?」

 案の定、父さんの部屋……いや、今は白子の部屋だった。そこから顔を覗かせたのは、髪の毛がまだぼさぼさな白子だった。

 白子はウサギの柄が可愛らしいパジャマ姿で、目を擦りながら母さんの不思議な格好を見ている。

「え、あ、うん! 朝の準備体操してたのっ! 朝から廊下でじたばたするのって気持ちいいよねぇん」

 母さんの目は、あからさまに泳いでいる。

 俺が思うに、その答えは明らかににおかしいと思うんだが。絶対にバレると思うんだが。

「……そうなんですかー。まりもさんは毎朝、独自の準備体操をして体を起こしていたんですね! 白子も見習いますっ!」

 そう言うと、真に受けてしまった白子まで廊下をじたばだしだす。

 自宅だからいいものの、美凪にはこんな光景を絶対に見せたくない。

 俺は溜め息を吐き出すと、床の上でじたばたしている白子を見てから言葉を発した。

「白子、準備しろ。……出かけるぞ」

「……ふぇ?」

 俺の言葉が予想外だったのか、白子は動きを止めると、床に寝っ転がったまま俺を見る。

「えっ、どういうこと?」

「だから、一緒に外行くぞ」

 俺はぶっきらぼうにそう言うと、なにやら母さんが白子に耳打ちをする。

 母さんが何を言ったのか知らないが、白子は急に目を輝かせて「う、うん! ちょっと待ってて!」と叫ぶと、すぐに起き上がってから白子の部屋に入っていってしまった。

「本当は事前に言っておくべきなんだぞ、息子よ」

「なんで」

「女の子には準備ってもんがあるんだぞ、息子よ」

 母さんは怪しく笑うと、寝っ転がっていた体をすぐに起こす。そして、口に手を当ててから「まっ、頑張ってね」と声を小さくして言ってから二階を勢いよく降りていった。

 ……あいつ、白子になにを吹き込んだんだろう。

 俺は母さんの行動を不信に思いながらも、階段をゆっくりと降りていった。


 居間で少し待っていると、居間の扉がそっと開く。

 そこに現れたのは、見たことのない純白のワンピースに身を包んだ可愛らしい姿の白子だった。

 淡いピンクのショルダーバッグを肩からぶら下げ、あんなにもぼさぼさであった白い髪の毛は見事に整っていた。

 あまり見たことのない白子の姿に、少しだけドキッとするが、俺はすぐに心を宥める。

「行けるか?」

「……うん」

 照れた様子で、ぎこちなく返事をする白子。

 そんな姿を見た俺の胸は、また高鳴ってしまう。

 ……いやいや、俺には美凪が居るのに、白子にうつつを抜かすとは。

 俺は自分自身をしゃっきりとさせるため、両手で両頬を思いっきり叩いた。居間にはその時の音が響き渡る。

「うし、行こうか」

「……うんっ!」

 白子が返事したのを確認すると、俺は先陣を切って居間から出た。それに続き、白子も必死になってついてくる。

「二人ともぉ~、ごゆっくりぃ~」

 居間から聞こえるやらしい声は無視し、玄関の靴を履くと白子を見た。

 白子はもたもたと靴を履き、緊張した面持ちで俺を見る。

「行けるな?」

「う、うんっ!」

「じゃあ行きますか」

「あ、う、うんっ!」

 俺は半笑いになりながらも、玄関の扉を開けた。

 お昼まで白子を連れ回せばいい。

 そう簡単に考えながら。


次も黒白マーブルらぶこめっ!(笑)の続きです。

相変わらず忠告ですが「これはホラーry」


予定より文字数多くなってますが、その次が問題のシーンになるかもしれません。


実は一応、白子が主人公なんだけど、今は空気ですね。

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